これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

編集担当した書籍『日本再生の道を求めて』が発売されました

 あまり本業のことを書くつもりはなかったのですが、印象深い案件がありましたので、こちらでもお伝えしておきます。

 

 私が、校正・校閲、そして書店営業を担当した書籍『日本再生の道を求めて』が、2024年11月に発売されました。

energy-forum.co.jp

 

 専門的な内容や図表も多く、校正・校閲は苦戦したところもありましたが、とてもやり甲斐がありました。先輩にも校閲を褒めてもらえて嬉しかったな。

 分厚い本なので、購入は、個人的には電子書籍がおすすめです。

 紀伊國屋ジュンク堂など大きな書店では置いてもらえているところもあるようです。地元の佐賀の紀伊國屋にもあるみたいで嬉しい。

 

 この本は、再エネや原子力などエネルギー関係のほか、経済、地方自治、教育、国際情勢などさまざまなテーマをそれぞれの第一人者の方々に書いていただいたものとなっています。

(作者名となっている「日本の再生を考える勉強会」を主宰するのは、東京ガス関連会社や北海道ガスで会長職を務めたこともある方です)

 

地方自治」の章を担当されたのは、元宮城県知事の浅野史郎さんなのですが、浅野さんの講義は、高校時代に参加した「日本の次世代リーダー養成塾」というサマースクールや、大学時代に「知事リレー講義」の授業で聴いたことがあったので、ちょっと縁を感じて嬉しかったです。

(また、今回、当初は執筆予定だったものの体調不良ということで執筆が叶わなかった方の中にも、リーダー塾で講義を聴いたことのある方がいらっしゃいました)

 あと、私のまわりの友人知人のあいだで著名な方だと、元文科省副大臣で東大教授の鈴木寛さんなども執筆されています。友人たちにも「すずかんゼミ」だった方々、何人かいらっしゃいましたよね。

 

 興味を持った方は、ぜひ、読んでみてください。

 少し高い本なので、図書館に購入リクエストを出していただくのも嬉しいです。

 

 

長崎同窓会事件(後編)

(※前回の記事はコチラ

帰り道と、同窓会のいろいろな回想

 三次会会場からひとり離れてホテルに戻る道を歩きはじめると、ポツポツと小雨が降り始めた。私は折りたたみ傘を開く。なんだか今夜、私が外に出たタイミングでやたらと雨が降るなぁ。外に出たから雨に気づいただけかもしれないけど。

 

 ────雨女、といえば。

 二次会会場の焼き鳥屋でも、そうだった。

 一番仲が良かったRちゃんは、息子くんを迎えにいくため、一時的に店を抜けた。本当は迎えに行ったあと二次会に戻るつもりのようだったけど、やがて、戻る余裕がなさそうだ、と**ちゃん宛に電話が来ていた。

 Rちゃんは焼き鳥屋にカーディガンとポーチを置きっぱなしにしていた。近くの駐車場に車を停めているとのことだったので、そこまで届けに行くことになった。

 **ちゃんが、明るい茶髪を揺らしながら「うづきちゃん、Rちゃんのカーディガンとポーチ、一緒に届けに行こう」と声を掛けてくれた。私がRちゃんと仲良いこと、覚えてくれてたんだなと嬉しくなる。そして外に出たあと、**ちゃんは私の腕に自分の腕を絡めてきた。やんちゃ系な華やかな女子って距離が近いことが多いけど、その距離の近さは嫌いじゃない。女子とこんなスキンシップをしたことはなかったので、ちょっとドキドキした。

「わ、雨降りはじめた!」「急ごっか」などと言葉を交わす。「うづきちゃん、雨女でしょ」と言われた。そうだと思う。たとえば私は転校時期の関係で、長崎の中学と佐賀の中学、どちらでも修学旅行に行ってるんだけど、季節も違うのにどちらも雨だったっけ。

 

 ────そんなことを思い出しながら歩いていると、道の角に猫がいるのが見えたので近づいてみた。

 手を伸ばしても猫は逃げず、触ることができた。耳に切り込みが入っている「さくら猫」だ。この地域でお世話されているんだろう。思えば長崎では猫を見かけることが多い。通っていたバイオリン教室に行く途中には、猫がたくさんいる場所もあったなぁ。

 

 中学の同級生と先生たちと別れたあと、雨の中、傘を差しながら猫をモフモフ……って、なんだか漫画にある「不良が捨て猫を拾う」シーンみたいだな。私は不良じゃないけど、まぁ、ある意味では問題児だったかもな……。

 

 ────不良までいかないけど。やんちゃ系の男子も今回、そういえばなかなかに距離が近かったな。

 今回の同窓会の、一次会会場のホテルから二次会会場の焼き鳥屋に移動する際も、貸切バスが使われた。私は早々と後ろのほうの一人席に座っていたら、続々と座席が埋まり、やがて「隣いい? 俺でゴメンね」と言いながら、やんちゃ系の男子が補助席を開いて座ってきた。バスは狭く、私とは膝同士がくっつくカタチとなった。まあ、仕方ない。

 やんちゃ系男子は、スマホ画面をスワイプしながら、いろんな写真を見せてきた。ほかの男子たちも横から「こいつの嫁ってさ、元々は俺の友達で」「結婚式ではこんなことがあって」とか、いろんな話をしてくれた。やがて、やんちゃ系の男子は、女性と写った写真を見せてきた。

男「これ、俺の浮気相手その1」

私「……(おっ、おう)」

男「こっちは、浮気相手その2」

私「……(おっ、おう)」

男「海でさ、あいつら(同級生男子)と裸で撮った写真もあるんだけど、見る?」

私「裸の写真は見ない」

男「下半身はティッシュとラップで隠してるから」

私「(どんな状況だよ)それなら見てもいい」

 膝をくっつけながらそんな写真を見せられているのは、なかなかシュールではあった。私も浮気相手の候補として狙われてるのか? と一瞬思ったものの、その後の言動でも特にそんなことはなさそうだった。まぁ、やんちゃ系の男子たちはみんな顔も整ってるし、美形が多い長崎の人が、都内に住む陰キャの私をわざわざ狙わないだろうな。

 

 ────そんなことを思い出しながら、宿泊先のホテルに戻った。

 

 ホテルの大浴場で脚を伸ばしながら、今回の同窓会のことをずっと考えていた。

 みんなに再会できて嬉しかった。仲良くなれたひとや、謝ってくれたひともいて嬉しかった。

 そして────医者になった、既婚の同級生男子から、胸や下着を触られてしまった。しかも何度も。

 これが、同窓会での結果、か………。

 

 あの頃の「いじめられてた、キモくてダサかった頃」の私からは抜け出せたと思ったのにな………。

 正直、中学時代に私をいじめていたような男子たちからだったらまだ分かるというか、そういうことをしてきてもあまり意外性はない、気もする。

 されても構わない、という意味ではない。いやまあそもそも、そういう男子たちだったらコソコソ触ろうとはせず、チャラい感じで堂々と誘ってきそうな気がする。

 

 同窓会を主催したりするような、陽キャ・やんちゃ系な人たちは往々にして距離が近かったけど、腕を組んできた**ちゃんや、バスの中で膝をくっつけてきた男子も、ある種の文脈がある中での距離の近さだった。(人によってはそれすら嫌な人もいるかもしれないけど、私はいずれも不快ではなかった)

 

 でも────医者になった××くんがしていた、酔ったフリをして胸や下着を触ってくるのは、それらとは訳が違う。

 話していて仲良くなった上でのスキンシップとか、たとえば、昔付き合っていて懐かしくなって触れてくるような状況とも違う。

 そういうことができてしまうのも、私がナメられているからだろうな。クラスは一度も一緒になったことがないから、××くんが私をどういうふうに見ていたのか分からないけど、私がいじめられていたことくらいは彼の耳にも届いていただろう。「こいつはいじめられてたんだから、このくらいしても大丈夫だろう」と思われていたんだろうか。あるいは、大人しそうに見えたんだろうか。

 黙っていたくはなかった。でも、あの二次会の場で声を上げて、その場で大きな揉め事になってしまうのも嫌だった。

 もし「そのくらいで騒ぐな」と誰かに言われてしまったらと思うと怖かったし、性的なことをその場でみんなに知られるのも恥ずかしかったし、大ごとにしてしまうことで××くんから恨まれたりもしたくなかった。何より「いじめられていた私」には戻りたくなかった

 そして、ここで私が騒いだらきっと同級生たちのあいだでは「同窓会、二次会が大変だったんだよー。医者になった××っていたじゃん。あいつが、うづきちゃんの胸揉んでたらしくて。そこでうづきちゃんがブチ切れて大騒ぎになってさ〜」とか噂されることになる。そうなってしまうのも嫌だ!!

 胸を揉んだことで揉め事……いや、そんなくだらないことを思いついてる場合じゃない。

 取り戻した尊厳を再び剥奪されたような………そんな感じがしてしまった。

 

 

翌日、そして……

 翌日はさんざんだった。早起きして佐賀県唐津市まで向かい、お盆ということで親族とお寺に行くはずだったが、起きる時間は遅くなるわ、電車を乗り間違えてしまうわで、お寺のお墓参りには間に合わなかった。田舎は電車の本数が少ない。帰りの飛行機の都合もあるためのんびりもしていられず、途中からはタクシーを使った。なかなかに高額な値段がかかってしまった。

 帰りの飛行機に乗る前に、なんとか祖母の家には行くことができ、父と祖母に久しぶりに会うことができた。同窓会どうだった? と訊かれたけど、まさか、セクハラされたなんて言えない。楽しかったよ、と答えるのが精一杯だった。まぁ、楽しかったのは嘘じゃない。疲れを抱えたまま、福岡空港から羽田空港へと飛んだ。

 

 私は8月中旬は前職の有休消化中だったため、無駄に時間があった。気になって、××くんのことをつい調べてしまった。SNSは見当たらなかった。

 彼の名前と「長崎」で検索すると、数年前の病院だよりのpdfがヒットした。「内科の担当医師が交代します」という内容だ。「長崎出身」という経歴のほか、顔写真も載っており、少し髪が明るくて若い××くんの顔写真があった。しかしこれは随分前のものなので、今いる病院とは違う可能性がある。

 内科ね。わかった。××くんの名前と診療科目を入れて検索すると、ある地域のある病院の「医師一覧」のページがヒットした。

 ここか!

 顔写真も載っており、本人なのは間違いなかった。しかも病院のトップページには、内視鏡を持つ××くんの手がクローズアップされた写真が大きく載っていた。よりによってなんでこいつの(のちに私を触ることになる)手の写真なんだよ!

 ついでに病院のGoogleマップも見る。え、このエリアって、友達がおすすめしてた、外観が異国風な超オシャレなアフタヌーンティーのお店がある地域じゃん! っていうか、うちの妹の転勤先候補の町の一つでもあるし。しかもうちの妹も医療関係の仕事だよ! まさか妹が××くんと同じ病院になるなんてことはないよなぁ。まぁ、妹は私よりスレンダーだから狙われないとは思うけど……。

 Googleマップのレビューも見てみる。病院にありがちなことかもしれないけど、評価は低めだ。「若い男の医師が偉そうにしていた」というものもある。ざっと医師一覧を見たところ、若い医師、あんまりいなさそうだったし、これって××くんのことかな。だとしたら、それもなんだか残念だった。

 小・中学時代は関わりがなかったので、特に好きでも嫌いでもない人だったけど、だからといって残念な人にはなっていて欲しくなかった。そもそも、私に興味が湧いたのなら、せっかくなら同窓会の場で普通に友達になりたかった。話したことないからこそ話してみたかった。まぁ、私の身体以外には興味ないのかもしれないけど……。

 ××くんは私の胸やブラホックを計4回触っていたことになる。「××くんは、尻でも脚でもなく、おっぱい派なんだな」というプライベートな嗜好を知ってしまったことの生々しさにも重たい気持ちになった。

 そもそも、私が××くんについて調べていたのは、仕返しのためではない(その気持ちも少しはあるけど)。「どういう理由で私を触ったのか」が気になったから……というのが大きい。

 そもそも、このような性被害は私の中ではかなりイレギュラーなパターンだ。路上や電車で見知らぬ人から痴漢されることとも違うし、デートした相手から不躾に身体を求められることとも違う。中途半端に存在を知っている相手だからこそ、なぜ私だったのか、どうしてこんなことをしたのかが気になってしまった。

「中学時代から気に食わない存在だった」のだろうか。それとも「同窓会で見かけたら、好みの体つきだったので魔が差した」のだろうか。医師の仕事ってストレス大きそうだし、そのストレスからの行動だったのだろうか。

 同窓会は一日だけだから、そこで再会した人から継続して何かをされ続けるということはまずない。私が三次会まで残り続けたのも、「このサンプルを観察できる時間には限りがあるから、限界まで残ってやる」という気持ちもあった。

 加害を肯定するわけではないんだけど、一夜明けたくらいからは、「私をこんな感情にさせた奴は久しぶりだな、面白い」みたいな感情もどこかにあった。

 

 ────ただ、同窓会からしばらくは、私はとにかく食欲がなかった。同窓会に備えてダイエット薬を飲んでいたから、その薬が残っていたのもあるかもしれないけど、それにしても食が細くなっていた。まったく、内科医のくせに食欲無くすようなことするなっつーの(いや、他の職業ならしていいわけでもないんだけど)。

 あと、気を紛らわすために音楽を聴いて過ごすことが多かった。Ado「心という名の不可解」を、特によく聴いたっけ。

 強気な気持ちもあったけれど、やはり疲れやショックがあったようで、数日間は、同窓会幹事の子たちが送ってくれた写真も開くことができなかった。

 

 同窓会の公式LINEを開き、送られてきた集合写真を見てみて、気づいた。

 私、××くんとめちゃくちゃ距離が近い。まるで密着するかのような勢いだ。こんな距離近かったの……。

 しかも、私が××くんの肩に手を乗せてる!?

 ……と一瞬思ったけど、これは××くんの隣で肩を組んでる男子の手だ。でもなんか私が肩に手を置いてるようにも見える。あー。

 しかも、私、女子の中で一番前に出てるし……。

 別に、出しゃばるつもりはなかった。

 小柄だから前のほうに行かなきゃ、って思っただけだったのに。集合写真だから詰めなきゃ、って思っただけだったのに。前にいる男子との距離感もうまく掴めてないんだな。本当にまわり見えてないんだな、私……だからいじめられるんだよ。

 っていうか、男女でこんなに距離が近いの、私と××くんのところくらいじゃないか。もしかしてこの時、私の身体が触れてしまったとかで引き金を引いてしまった可能性もあるな。あー……。

 無駄に自己嫌悪に陥ってしまった。

 

 同窓会の公式LINEを改めて見返していると、同窓会会場行きのバス乗車名簿でも、私の名前の次に××くんの名前があった。なんだか変なところで縁があるんだな……。

 そう考えると、今回の件がより残念に思えた。

 小5から引っ越してきて、3年10ヶ月、長崎で過ごした。クラスは一度も一緒になることはなかったけど、もし神様の裁量が違っていたら、普通にクラスメイトとして話したり、友達になったりしたかもしれない相手だったんだよなぁ。ヤンチャ系な男子たちのような顔整いではないけど、私は、頭のいい人のことは多分それなりに好きなので(?)、発育タイミングによっては、合意の上で身体に触れるのを許した可能性だってあったかもしれない。

 

 ただ、現段階ではもう、残念、悔しい、という気持ちしかない。

 バス停で、ほかの男子が「すごかね。一番出世したんじゃなか!?」とチヤホヤしていたけど、何が「一番出世した」だ。一番転落させてやる!!

 ……なんて強気なことも思ったけど、しばらくは何もできなかった。

 ××くんが現在勤める病院は長崎ではない。地元に悪評を撒いてもただ私の惨めさが広まるだけで、当人にはさほどダメージがない可能性がある。名誉毀損だとトラブりたくもない。彼の勤める病院にこっそりチクるのが一番効果的かもしれない。こういう時の告発のテンプレートってないかな? 探してみたけど、見つからなかったのでなんだかもうめんどくさくなり、しばらくは放っておいた。

勤務先への告発へ

 ────そんな、しばらくした8月下旬のこと。NHKで、スタートアップ界隈のセクハラの問題が取り上げられていた。各種SNSでも盛り上がっている。

 まぁ、これらについても思い出してしまう酷い出来事はあるのだけど…………それはまた別の機会だ。それよりも直近に体験したセクハラをまずどうにかしなくちゃ、という気持ちが働いた。

 告発のテンプレートなんてないけど、とりあえず自分なりに文章を作ってみよう。

 

 病院のお問合せフォームに、下記のメッセージを送った。

 

初めまして。現在は東京都内で暮らしている、古川と申します。

貴院に勤めている××××さんのことで、お伝えしておきたいことがあり、今回ご連絡いたしました。

私は子どもの頃に長崎に住んでいたことがあり、クラスは一度も一緒になったことはないのですが、××くんと小、中学校の同級生でした。

今年の8月13日、中学の同窓会があったのですが、
その二次会にて、××くんから酔ったフリをして胸を触られることが2回、背後からブラジャーのホックを触られることが2回ありました。

驚いてしまい、その場では声を上げることもできなかったのですが、彼からこのようなことをされてしまい、とてもショックでした。
接点はあまりなかったものの、××くんは昔から成績優秀な印象があり、医師になったのもすごいなと思っていた矢先だったので、こんなことをされたのはとても残念な気持ちになりました。

プライベートでの出来事ですので、貴院にお伝えすることには躊躇いもあったのですが、
親しい仲でもないのに、飲み会での隙を見ては何度も胸や下着を触ってくるというのはさすがに悪質で、「酔っていたから」では済まされないことだと思いました。
このままでは彼はいつか業務の中でも何らかの事件を起こしかねないのでは……という思いから、今回、お伝えさせていただきました。


私としては、悔しい気持ちも強い反面、彼に対して懲戒解雇等の処罰までは積極的には望まない気持ちもあります。
コンプライアンス研修等があったら受けさせてほしい……くらいの気持ちはありますが、この報告を受けてどのように対応するかは、貴院にお任せしたいと思います。

ここまで目を通していただき、ありがとうございました。

 

 いくつか気をつけた点がある。まず、病院は今回は全く関係ないのだから「そちらの病院の医師が酷いことをした」という書き方にはならないようにした

 また、話を大きくしすぎないためにも「懲戒解雇して欲しい」「警察に通報」というようなことは言わないようにしよう、と思った。

 後者に関しては「そんな、遠慮しなくてもいいのに」と思うひともいるかもしれないが、少なくとも私としては、ここで彼を失職させることは本意ではなかった。彼が失業したところで私にメリットはなく恨みを買うだけだし、警察だの懲戒解雇だのとなると、服の繊維の採取だの目撃者だの、大ごとになってしまうのも避けたかった。なんなら××くんから「そんなことはしてない。証拠はあるのか」と言い張られてしまう可能性だってある。触られた服は洗濯してしまったし、触ってた様子を見ていたひとがいたかどうかも分からない。そうなると不利だろうから、要望は最小限にすることにした。

 

 そして────5日ほど経ったあと、病院からメールが来ていた。

「××医師の件、教えていただきありがとうございます。ハラスメントについて厳しく注意指導を行いました。今後とも行動を注意しておきます。本人も反省しています」といったような内容だ。

 どんな返信が来るか怖かったが、本人もやったことは否定していなさそうなのはよかった。とりあえず、私はやるべきことはやったし、病院もやるべきことはやった、と思う。

 

「厳しく注意指導」で認知や行動が変わるものなのかは分からないが、これで××くんも、おかしなことをしたら職場に通報される、ということを身を以て知ることができただろう。

 

 ××くん、運が悪かったし、よりにもよって私にちょっかい出すとか、詰めが甘かったね?

 

 私が、同窓会会場行きのバスを「中央橋」ではなく「長崎駅前」にしていたから、駅前での男子たちの会話から「医者である」ことを把握してしまったわけで。これは本当に偶然だった。「長崎駅前」にしててよかった。(まぁ、もしかしたらバス停の段階で目をつけられたのかもしれないけど)

 そして────クラスが違ったから知らないのも無理ないけど、私がいじめられたり嫌われていたのは、いわゆる「チクり魔」だったり、変に正義感が強くて真っ直ぐだったからというのもあったんだよね。

 これらの匿名ダイアリーの人たちが近いかな。

anond.hatelabo.jp

anond.hatelabo.jp

 こんな私にとっては、たぶん他のひとよりも、勤務先にチクったりするハードルは低かったのかもしれない。(まぁ、そんな私でも被害から2週間経ってからの報告になってはいるのだけど)

 よりにもよって私を触ってしまったから、通報されてしまいました。

 なんだろう。私としても、こういう通報は後味の良いものではない。それでも黙っているよりは、ずっとスッキリしている。

 こういうところも含めて、この同窓会はなんだか良くも悪くも「私らしい」出来事になったな、と思ってしまった。

 そして────これだけ感情を掻き回されながらも、もう私と××くんが関わる機会なんて人生でほとんどないだろうと考えると、この再会も、同窓会そのものも、なんだかとても皮肉なものに思えてしまった。私が参加したばっかりに、本当にただ余計なことが起こっただけだったのかもな……と。

 

 私は「同窓会」に参加したわけだけど。転校生としてやってきて、転校生として出ていった私は、どこまでいっても「地元の人」ではないんだろうな、という事実にも切なくなった。

 

 ────1999年初頭に、父の次の配属先が決まり、長崎へと転居が決まった小学4年の私。

「次の学校では、今までのおとなしくて内気な私を知る人はいない。自分の意見をはっきり言えるようになりたいな」って思ってた。

 はっきり意見を言うというか……単に空気の読めない極端な子供になってしまい、色々と上手くいかないことも多かった。人生をやり直せるとしたら「長崎時代からやり直したい」と即答できるほど、私はこの頃から人生やり直したいと今でも思ってる。

 

 

 同窓会の公式LINEでは、「今後もまた同窓会を企画していきたい」「次の目標は100人」とあった。「次の同窓会は、40歳になる時かな」と言ってたひともいた。

 私は長崎では地元民にはなれなくて、どこまでいっても「よそ者」なのかもしれないけど、それでも長崎は私の人生において影響は大きかった場所だ。いつになるか分からない次回も、都合がついたら参加してみたい気持ちはある。そのときには私はどうなっていて、どんな感情を抱くことになるんだろう。

 子どもの頃も、同窓会でも、長崎にいると良くも悪くも感情を大きく掻き回される。次はどんなことになっているのだろうか。それを味わってみたいな、と思った。

 

 

長崎同窓会事件(前編)

プロローグ

 とうとう、この日がやってきた────。

 

 2024年8月13日、お盆真っ只中の火曜日の14時過ぎ。私はボストンバッグを抱えて高速バスから降りた。ムワッとした暑い空気が肌に触れる……けど、意外と東京よりは暑くないかもしれない。

 バス停には紙タバコを吸う老人がいた。喫煙者もここにはまだいるんだなぁ……と思いながら顔を上げる。知ってるはずの街並みのはずなのに、ぜんぜん知らないまちのようにも思える。タイムスリップしたみたい。喫煙者、バス、タイムスリップ……って、ドラマ「不適切にもほどがある!」じゃないんだからさ。私はひとりで苦笑する。

 

 ────まぁ、タイムスリップに思えるのも無理ないか。もう10年以上訪れていないんだから。

 転勤族育ちだった私にとっては、ここも「地元」と言えなくはないけど、正直あまり積極的に「地元」とは思っていない場所だ。

 

 ────そう、ここは長崎県長崎市。私は11年ぶりに訪れたことになる。

 どうして長崎にやってきたのか。それは、中学の同窓会に参加するためだ。

 

 あちこちでたびたび書いていたので知っているひともいると思うけれど、私は子どもの頃にいじめられており、特にひどかったのが長崎の中学時代だった。

 ▼以前書いた、このブログ記事が詳しい。

www.wuzuki.com

 転校してからこの中学に訪れたこと自体はあるものの、この中学の「同窓会」に参加するのは初めてだった。

 今年は「卒業してから20年経った年」であることと、「お盆休みと土日が続いていて、長く休めるひとが多いのではないか」ということから、中学の同窓会が企画されたんだそうだ。

 

「いじめられていたのに、どうして同窓会に行こうと思ったの?」と疑問に思うひともいると思う。

 理由はいろいろある。成人式の後の同窓会のときは、私は転校先(卒業した)の中学のほうの同窓会に行ったので長崎の中学の同窓会には参加できなかったということがまず一つ。そして、歳を重ねて、病気になる同世代の知人も増えてきたこともあり、「これを逃したら、もう二度と会えないひともいるかもしれない」と思うと、旧友に会えるチャンスはなるべく逃したくない、という気持ちがあった。

 あと、私は基本的にはそれでもひとが好きで信じたいという気持ちがあったのと、「いじめられていた、ダサくてキモかった頃」じゃなくて今の自分を知ってもらいたい、記憶を上書きしてほしい……みたいな気持ちもあった。

 そもそも、いじめられていたからといってべつに友達が0人だった訳ではないし、先生たちにもお世話になった。あと、現在の私の実家があるのは、長崎県のお隣の佐賀県なので、帰省する際の飛行機を福岡空港から長崎空港に変えるだけで済むようなものだ(ただ、同窓会後に佐賀に帰るのは厳しいので、長崎でホテルに泊まることにした)。なので、そういう意味ではあまり負担も大きくない。そのような諸々の理由から、同窓会参加を決めた。

 

バス乗り場にて

 私たちが通っていた長崎の中学校は、市の中心エリアにあったが、今回の同窓会会場のホテルは山の上のほうにある。

 車がないひとや運転しないひとのために、ホテルまではバスが出ることになっており、

①(私の出身)小学校前

②中央橋

長崎駅

の3ヶ所からピックアップしてもらえることになっている。

 どこからの乗車を希望するかについての確認の連絡が、数週間前に同窓会委員からあった。

 

 長崎の小学生時代は私は学校近くの家だったものの、もう実家はそこにないので関係ないため、①はナシ。

 このとき、私はまだ泊まるホテルを決めかねていた。中央橋近くのホテルも候補だったので、②中央橋から乗ろうかと思ったものの、そもそも「中央橋」という地名が私には馴染みがなかった。地図を見たところ、おそらく、繁華街の「浜の町」あたりのことだと思うし、浜の町なら馴染みがあるんだけれども、数年前に路面電車の電停の名前が大幅に変わってしまってからは、正直、どこがどこなのかよく分からないところもあった。自信がないので②もやめることにした。

 ③長崎駅前なら、地名が変わっているということもないし、まあまあ馴染みがあったエリアだ。私は中学時代、長崎の児童合唱団に入っていたことがあったのだけど、この合唱団の練習場所が、長崎駅近くにある、バスターミナルが併設されたビルの中だった。

 ③長崎駅前から乗ります、ということを同窓会実行委員に伝えた。この選択が、のちに大きく関わってくることになるとは全く知らずに────

 

 16時過ぎ、私は長崎駅前に到着した。余裕を持って早めに行って正解だった。長崎駅前は開発で大幅に変わっていたのは大きな誤算だった。長崎駅近くの「出島メッセ前」が集合場所となっているが、どこなのか分からず思いのほか迷ってしまった。

 同窓会前日、最終確認の連絡が来た際、どこのバス停から誰が乗るかという情報も載っていた。長崎駅前から乗る予定なのは10人で、私以外は全員男子だった。

 ホテルは結局、中央橋近くの宿をとった。なので、中央橋からの乗車にやっぱり変更してもらおうかな……と思ったものの、中央橋と長崎駅もそこまで遠くではない。直前に変更連絡するのも迷惑だろうと思ったので、結局そのまま、長崎駅前から乗ることにしたのだ。

 

 長崎駅近くの、出島メッセ付近と思しき場所に着いたとき、スーツ姿の30代くらいの男性が既に二人いた。同級生たちかな、と思い、そっと視線を向けていると、やがて他にも黒い服の男性たちが現れ、「久しぶり」「おー」と次々と挨拶を交わし始めた。小柄なひと、ぽっちゃりしたひと、みんなそれぞれいろんな姿だった。

「こ、こんにちは〜」

 確信が持てたので、私もみんなに向かって挨拶した。長崎駅から乗車する女子は私だけだから、名乗らなくてもすぐに分かってもらえたようだ。

セミフォーマルってよくわかんないから、襟付きの服で来たんだけど」

「お前、今なんの仕事ばしよっと?」

 男子たちは男子たちで盛り上がっている。私は折りたたみの日傘をたたみながら、そんな話を聞いていた。

「医者になったん!? すごかね。同級生で一番出世したんじゃなか?」

 そんな男子たちの話し声が聞こえた。中1の頃に一緒のクラスだった○○くんと思しき男子が、隣のメガネ男子にそんな話をしている。

 メガネ男子は××くんだ。私とは一度もクラスが一緒になったことはないけど、小学校も同じだった。確かに成績優秀だったような印象はあるから、医者になったというのも納得だ。彼の左手の薬指には指輪が光っていた。

「性病とか見よっとやろ?」○○くんがニヤつきながらそんな冗談を言う。

「ちんことか見ねぇよ」××くんが答える。

 私は苦笑いしていた。大人になっても中身は中学生男子だったりするんだな〜。

 そんなことをしているうちに、バスがやってきた。

 

同窓会会場にて

 

「あのときは、ごめん!」

「俺もさ、中学のとき意地悪してごめんね」

 同窓会でまず驚いたのは、中学時代に私をつついたり蹴ったり、おちょくってからかったりしていた男子たちは、全員謝ってきたということだった。

「あっ、ああ、うん……」

 あまり予想していなかった展開だったので嬉しかった。まぁでもよく考えたら、いじめっ子が同窓会で謝る……みたいなのはよく聞く話ではあるかな。

 しかもみんな、「俺、□□□□」とフルネーム名乗ってから謝ってきたのはちょっと面白かった。確かにぱっと見、誰なのか分からない男子が多かった。

 女子はみんな綺麗でありながらも面影もきちんとあるものの、男子たちは誰が誰なのか分からないひとも多かった。やんちゃなタイプだったひとも、控えめだったひとも、どちらも男子は分からない率が高かった。太ったり痩せたりメガネかけたり髪やヒゲを伸ばしていたりすると、こんなにも違うものなのかー、と思えるひとが多かった(女子はそもそも、メガネ姿や太った子はいなかった。あっ私は太ってる……)。

 

 

 ただ、謝ってきたやんちゃ男子たちに引き換え、かつて私に聞こえよがしに悪口を言ってきた女子たちは、特に謝ることもなく「久しぶり〜」「今、どこに住んでるんだっけ?」みたいな話をしただけだった。中学時代、この子たちは巧妙で、「私の名前は出さずに、でも明らかに私の悪口を聞こえよがしに言う」みたいなことをしていたので、なんなら加害の自覚もなかったのかもしれない。

 まぁ、別に謝ってほしい訳でもないし、普通に近況の会話ができただけでも「進歩」にも思えるけど、せめてこの子たちのお子さんは、同じような意地悪をするような子にはならないでほしいな(もちろん、いじめられる側にもならないでほしい)、なんてことを思った。



 学年約200人中、60人ちょっとが来ているようだった。これは多いのか少ないのか分からないけど、多いほう、らしい。(ちなみに私が中1の頃は学年全体がちょうど200人で、40人ずつの5クラスだったが、2年になる頃に転校生が増えた関係で、2年生からは6クラスだった)

 同窓会には、先生たちも3人来ていた。

 私の中1の頃の担任だったA先生(男性、技術教師、当時20代)、

 中2の頃の担任だったB先生(女性、数学教師、当時30代半ば)、

 生徒指導のC先生(男性、体育教師、当時40代前半、現在は定年退職済み)だ。

 たくさんいる先生のうち、来てくれた先生は全員私も知ってるひとで、しかも私の1年と2年の担任の先生はどちらも来れたなんて、すごくラッキーだな……!

  みんな歓迎してくれるし、まるで、私のために開かれた会のようだな。そんなふうにすら思ってしまった。

 同窓会では、「仲良しだった友達との再会」というよりは、男女とも「あんまり話したことなかったよね」というひとと話すことが多かった。仲のいいひととはそもそも個別に連絡を取ればいいし、付き合いが長かったひとだと、ネガティブな思い出もある場合があったり、昔みたいなノリでの会話ができずに戸惑うこともあるし、「あまり話したことなかったひと」と積極的に話してみる……というのは同窓会の良い使い方に思えた。

 あと嬉しかったのは、私は長崎の中学時代は苗字で呼んだり呼ばれたりすることがほとんどだったけど、同窓会では下の名前で呼んでくれる子も何人かいた。私も、女子のことは何人か、下の名前やあだ名で呼べるようになった(女子は結婚で苗字が変わってるケースも多いから、という判断の結果でもある)。

 思えば昔から、私は友達や先生のことをあだ名で呼ぶのが苦手だった。馴れ馴れしくないかな、厚かましくないかな……とか思ってしまって。今思えば、私は気を遣わなくていいところと、気を遣うべきところのバランスが色々おかしかったな、と思う。

 

 「みんな、集合写真撮るよ〜!」

 そんなことをしているうちに、同窓会は終盤になった。集合写真。背の低い私は前のほうに行ったほうがいいよね。詰めなきゃみんな入らないよね。近くのひとと間隔を空けないようにしなきゃ。もうコロナ禍じゃないし、私ももう、バイキン扱いされてた頃の私じゃない。

 

二次会会場にて

「わ〜、Rちゃん久しぶり!!!」

 二次会は、生徒会長だった男子が経営する焼き鳥屋で行われた。

 二次会から参加するというひとも何人かいて、私が中2の頃、最後にいちばん仲が良かったRちゃんもそのひとりだった。転校直後は手紙を書いたり、10年くらい前に電話したことがあったり、コロナ禍のときにインスタでメッセージのやり取りはしたけど、それにしたって久しぶりだ。

 私は二次会では最初、店の奥のほうのイス席でA先生やC先生と話していたけれど、Rちゃんが来てからは席を移動し、手前のほうのイス席に隣り合って座っていた。私の右隣に座っていたRちゃんは、息子くんを迎えに行かなくちゃいけない都合で長居はできないみたいだったけど、短時間話せただけでも十分満足だった。

 二次会ともなると、男子率が高かった。先生もB先生は帰ってしまった。

 Rちゃんが帰ってからは、クラスは一緒になったことがなかった、比較的落ち着いた男子たちと話していた。

 同窓会主催メンバーの、ちょっとヤンチャ系の男子や女子は、奥のほうの席で先生たちと何やら盛り上がっている。

 中学時代に、私を理科室で殴ったり羽交締めにしていた不良の男子もいて、特攻服着てきてC先生に怒られたとか、少年院だの鑑別所だの、物騒なワードもちらほら聞こえてきた。

 

 そんななか、私は■■くんと話していた。落ち着いたタイプのひとという印象だ。■■くんとは一度も一緒のクラスになったこともなければ、話したこともなかったひとだ。彼は「奥さんの地元が、私(wuzuki)の今の実家の所在地と近い」らしく、地元の話で盛り上がった。私の父の現在の仕事の話のほか、地名の話をしたりしていた。

唐津にも東京と同じ漢字の地名あるよね。町田や神田」

「『ちょうだ』『こうだ』って、読めないよね〜」とか、そんな話をしていた、そのときだった。

 

「あっ、ごめんね〜」

 そう言って誰かが私と■■くんの間に斜めに割り込んできた。かと思えば、よろけながら私の右脇の下に手を入れ、私の右胸を撫でてきた。一瞬のことだった。

「!」

 えっ、と思って慌てて振り向く。メガネ男子の姿を確認した。

 ××くん?

「こいつ酔ってるから」みたいなことを言いながら、誰かが倒れ込んできた××くんを引き上げたような気はする。 

 今の、わざとだよね?

 手つき、偶然でそんなふうにはならないよね────

 

 ショックを受けつつも、気を取り直して■■くんと話していると、しばらくしてまた同じことが起こった。

 

「ごめんね〜」と言って倒れ込みそうなフリをし、腕の隙間から手を入れて胸を揉んできた。××くんだ。

 

 え……いや、わざとだよね?

 

 残念なことに、今までの人生では何度も痴漢にも遭ってきた。手が尻や胸にぶつかったフリをして繰り返し触られるような痴漢は何度もあった。

 今回も繰り返してる。わざとじゃないなら普通はぶつからないよう私から離れるはずだし、こうやって何度もしてくるのは、絶対わざとだ。

 

「酔ってる人たちはさ、もう、仕方ないよ」と■■くんは呆れている。たぶん、彼のいる場所からは、××くんが普通に倒れ込んで私と身体がくっついただけのように見えたんじゃないだろうか。

 酔ってぶつかったんじゃなくて、明らかにわざと胸を触ってきたんだよ……

 周囲にそう伝えたかったけど、言えなかった。

 

 私はイスの向きを少しズラし、イスとイスの間を広げ「偶然を装って倒れ込む」のが難しそうな角度にした。

 やがて■■くんは去り、隣には△△くんが来た。「今回の同窓会で、一番面影がない!」と言われていた男子だ。確かに面影はないけど、でも、可愛い系っぽいところは面影があると言えなくもない。

 中学時代誰と仲が良かったとか、今の仕事の話とか、仕事のモチベーションについての話とか、色々な話をした。

 

 ────そんなとき、背中に違和感を感じた。誰かが服越しに、私のブラジャーのホック部分をスリスリと触っている。

 慌てて振り向くと、そこには××くんがいた。私に見つかると彼は慌ててその場を離れていた。

 

 周囲を見渡す。××くんはほかの女子にももしかして同じことをしている? と思ったものの、そもそも女子は少ない上、ヤンチャ系な女子たちはヤンチャ系な男子たちと一緒にいる。

 ヤンチャ系な男女は、もともと交際関係でもあったのか?、膝に乗って話してるひとたちもいたり、初体験がいつだっただの、なかなか過激な話をしているひともいた。

「お前、中学ん時、貧乳だったよな〜」「俺、高校のとき性病かかったかと思って病院行ったんだけどさ、そのときケツの穴まで、こうやって見られてさ〜」とか聞こえてきたときは、△△くんと顔を見合わせ「なんか……過激だね」と苦笑したっけ。

 そもそもきょう「性病」って単語聞くの、これで2回目だよ!

 

 そしてしばらく△△くんと話していると、また同じことが起こった。

 いつの間にかしれっと××くんが背後に来て、ブラホックをスリスリしている。私が振り向くとまた逃げた。

 

 ────!

 

 明らかに私を狙って触ってきてる。どうしよう。

 逃げたくはない。かといって声も上げられない。だってここは同級生のお店。楽しくみんなで飲んでいるところ。そんなところで揉め事は起こしたくない。せっかく「いじめられてない」立場になったのに。ここで騒いだら同窓会の楽しい空気が壊れちゃうってことくらい、空気読めない私でもわかる。

 △△くんとの話もひと段落したので、私は席を立って移動することにした。

 

「セクハラされた? こっちおいでよ〜平和だよ」と、奥の席にいた**ちゃんが言ってくれた。もしかして、××くんにされたことに気づいてた? とも思ったけど、席も離れていたし、この軽い感じだと、執拗に何度も胸部を触られていたことまでは気づいてはいないだろうな、と思った。

 奥の壁際のソファー席が空いていたので、そこに移動することにした。ソファー席なら背後から触られることはない!

「うづきさん、せっかくならこっちおいでよ」と、イス席に座っていた先生たちが隣を勧めてくれたけど、イスじゃ意味がない。

「あぁ、ソファー席、ゆったり座れていいなぁ〜」とわざとらしく言ってみた。何か気づいてほしい気持ちもあったけど、どうすればいいか分からなかった。

 

 しかし────ソファー席の私の右隣に、いつの間にか××くんの姿があった。

 私は慌てて右隣にバッグを置いた。いつまで続くんだ、この攻防。

 

「やめて」って言う勇気すら持てなかった。そもそもそれでやめてもらえるなら最初からしてないだろう。誰かほかの人を味方につける? 先生に言うとか。って、中学生じゃないんだからさ〜!

 そもそも、(これはかなり偏見だけど)九州の地方都市の公立中の男性教師たちがどれだけセクハラに対する意識があるのか分からなかったし、そもそもここは同窓会会場で、酒も入っている。今は「先生」の姿じゃない。私はA先生のこととか、結構好きだったからこそ、下手に相談を持ちかけて絶望したくはなかった。

 C先生みたいな体育教師や、不良・ヤンチャ系の男子を頼る? いやいや、そもそも彼らにそういう話をしたくないし、力づくで何かしてほしいわけじゃない。

 女性のB先生は一次会で帰られてしまったし、ヤンチャ系の女子たちに言う? いや、でも彼女たちも、女性だからといって私と価値観が近いとは限らない。

 さっきまで私と長く話していた△△くんは、学校の成績は悪かったと言っていた。そもそもスクールカースト的にもどういう立ち位置だったのかよく分かっていない。そう、そもそも医師になった××くんからすれば、ここにいるメンバーのほとんどより稼いでいたり成績も良かったりするだろう。もしかして、だからこそそれでは解消できないコンプレックスやストレスがあって、その捌け口に私が選ばれたんだろうか?

 

 改めて見回すと、女性陣はみんなスレンダーな容姿だ。二の腕の太さも、胸の大きさも目立っているのは私くらいだ。

 

 身体のラインが綺麗に見えるこのワンピ、一生懸命選んだんだけどな。

 あの頃の「地味でダサくてキモくて不潔だった私」から抜け出したくって、メイクも服も小物も髪もネイルも靴も、頑張って選んでみたんだけどな。

 身体には、交際相手がプレゼントにくれた香水をつけたりもしてた。

 

 それが……………この結果かぁ。

 こういう人を引き寄せるためじゃなかったのにな。

 不良だったりヤンチャ系な男子たちからは、いじめたことを謝ってもらえたのにな。

 次は、医者になったエリート男子に私はセクハラされるんだね。

 尊厳を取り戻したと思ったら、今度はこの仕打ちかぁ…………。

 あぁ………そうか………長崎では私は結局、男子のオモチャにされるしかないのか………。

 

 同窓会で私が歓迎されたのも、「謝ってスッキリしたい」男子たちの欲求が満たされるから、というのもあっただろうな。

 そもそも私はこの中学を卒業してない。呼んでもらえて当然の立場、じゃあない。自分の立場を全然分かってなかったのかもしれない。考えが甘かったのかもしれない。そもそもみんな「大人」になったわけじゃない。そもそも私だって、子どもの頃に想像していた大人の姿よりは、ずっとずっと未熟なわけだし。

三次会、そして……

「三次会、行く?」と、同窓会主催の女子のひとりから訊かれた。手持ちのお金がないから行くなら下ろさなきゃ、と言うと「1,000円くらいだろうから、あたし払うよ」「いや、あいつに払わせよう」とかなんとか話がまとまり、三次会まで行くことになった。

 本当は翌日、早い時間に佐賀県に帰省するつもりだったのだけど、このままじゃ終われない、という気持ちのほうが強かった。

 

 三次会の店は、不良だった男子の経営する、カラオケバーのようなお店だった。徒歩での移動中、私は何人かの男子たちと話をし、特に△△くんと話し続けていた。

 私を触っていた××くんが三次会まで来るのか分からなかったものの、彼を近づけないためには男子がそばにいてくれたほうが良いと思ったからだった。△△くんが独身彼女なしという話も聞いていたので、トラブルになるリスクも少ない。

 それにしても、今まで一度も話してなかったような男子と、こんなに話しているのは不思議な気分だ。中学生じゃないから、それを今更冷やかすひともいない。

 まぁそもそも、××くんとだって私は多分話したことはない。そもそもこの20年以上、一度も思い出すこともなかった人たちがこの短時間で一気に「重要登場人物」としてのぼり上がってきている。

 こういうことがあるのが、良くも悪くも同窓会の面白いところだよな、と思った。

 

 店の入口に比較的近い席に△△くんと座った。その近くには、C先生と、**ちゃんが座った。その時だった。

「おい**、せっかくC先生が三次会まで来てくれよっとぞ。お前みたいなブスが隣じゃ、かわいそかろうが!」

と、ヤンチャ系な男子が言い、**ちゃんをC先生の隣からどかしていた。かわりにMちゃんがC先生の隣に来た。彼女は芸能活動をしている。

 正直、「あー、九州の男尊女卑ってこういうことか……」と思ってしまったものの、これはどちらかというと、ヤンキー的な文化というほうが正確だろうな、とも思った。そもそも**ちゃんもMちゃんもヤンチャ系な男子も、みんな親しい同士という印象で、彼らの中では冗談として成立している範囲かもしれない。

 そもそも私は「九州の男尊女卑」概念に懐疑的なんだよな。こういうことをいうと「あなたは恵まれていたんだ」と言われることがあるんだけど、そういうことではない。「男も女も、偉そうな奴はどっちも同じくらいいたから」だ。

 そんなことをあれこれ考えたりもしつつ、私は△△くんと話していた。食べ物はほとんど食べず、私は申し訳程度に酒を飲んだあとは、ほとんど水だけを飲んでいた。

 

 私から離れた、奥のほうの席に、いつの間にか××くんが座っていた。お疲れなのか、眠りかけているようだった。近くには○○くんたちもいる。

 

 ××くんのところまでコップを持っていって、水でもぶっかけてやろうか?

 

 話題になってた読切漫画「保健の授業聞いてなかった奴」の終盤みたいに、メガネをぶっ飛ばす勢いで引っぱたく?

 

 ────いや、そんなことはできない。そんなことをしたら大ごとになってしまう。せっかく三次会まで平和に過ごせてきたんだ。ここで私が騒いだら、昔の、いじめられてた頃の私に戻ってしまう。いや、なんならもっと立場が悪いかも。××くんが、したことを認めるとも限らないし……。

 

 私は結局、何もすることができないまま、三次会を終えた。

(次回に続く) 

この本がすごい!2024年上半期

 毎回恒例の「読んでよかった本」、2024年上半期に読んでよかった本の、小説やコミック以外のものを紹介したいと思います。

 

10位 山の突然死

   Kindle Unlimitedに入っていたので読んでみました。このシリーズを読むのはおそらく7年ぶりくらいですが、「本当にあった話」「登山のスリル」というハラハラ感と、登場人物がこれから亡くなる切なさ、どちらも感じて切なくなりました。

 山での突然死の事例について、著者が取材したさまざまな方々のエピソードが収録されています。1話目、真理さんは本当は友達も多い人気者なのに、夫の住む町に来てからうつ病で太ってしまったというところも辛い。チョモランマでの大田さん、なんて多才でパワフルでエリート一家なんだと凄さに胸を打たれたものの、彼女は今も家族のもとに帰れていないのを考えると、幸せって何だろう……と思う部分も。

 そしてこの本、やや校正が甘いと感じた部分があったのと、「行なう」表記なのが気になりました(笑)。

 

9位 女の子よ銃を取れ

 2016年に40歳で亡くなられたライター・雨宮まみさんのエッセイ集。約10年前に書かれたものということもあり、著者のファッションへのこだわりから、ファッションがアツかった時代を懐かしく感じたり、女性へのメイクや美意識についての圧力についての描写には少し時代を感じました。

「私は誰もがみな美しいとは思っていません。けれど、美しくあろうとする人には、美しさへの道はいつでも開かれている」のくだりが心強い。

「好きな服を堂々と着るべき」みたいな言説も増えている昨今、「好きな服を着て良いじゃないかと思っても、いざ映像を観てみたら耐えられなかった」という本音も魅力的。また、海外旅行でのくだりも印象的。ちょうど私の友人が、旅先で出会った素敵な中年女性たちについてまとめた同人誌を出したばかりということもあり、併せて読めて良かったな、と思いました。

 

8位 試験に出る現代思想

 近所の書店で行われていた読書会の課題図書となったので読んでみました。思想・哲学の本は、学生時代〜25歳くらいまではたまに読んでいましたが、最近はあまり読まなくなっていたので、ちょっと懐かしい気持ちで読みました。

 この本はタイトル通り、センター試験などの「試験問題」を切り口にして、思想家のそれぞれの考え方についてを紹介している本(該当する思想家の過去問がない場合、著者が問題を自作しているものもあります)。

 自分でも、解いてみながら読んでみました。結構正解できて嬉しかったな。

 

7位 こじらせ女子の日常

 現在は活動休止中のライター・北条かやさんによる、約9〜10年前のコラムの本。「女子力」についての話題なんかは時代を感じました。「同棲」についても、今とは世間の価値観は大きく違う印象です。そういう点が面白く読めました。

「ミスコン」に関しては、この本では批判の点がそもそもズレてるように思えました。また「英語ができる女」への男の嫉妬の話題は興味深い。

 個人的に一番共感できたのは、痴漢についての「タダで触られる悔しさ」のくだり。後半の、内なる女性嫌悪を呼び覚まされる感覚とか、赤裸々な感情の発露も刺さる部分があった。家族と性愛をテーマに活動する文筆家・佐々木ののかさんのエッセイを思い出す部分があるなぁと思いました。

 

6位 センス・オブ・ワンダー

 こちらも、読書会の課題図書となったので読みました。前半はレイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」で、後半は訳者による、その「続き」となるエッセイ……という、珍しい構成の本。

 後半のエッセイは、自然やそれを受けての感情の動きについての描写が、まるで合唱曲の歌詞を読んでいるかのような気分になりました。私も京都に住んでいたことがあるので、賀茂川が出てくるのも懐かしい。そして、こんなにも自然豊かな子育てっていつの時代の思い出なのかな……と思ったら、著者(というか訳者)は私と3歳ほどしか年が違わなかったので驚いてしまいました。

 この本は、子育てしてから読んだら、また違った読後感になるのかもしれないな、と思いました。

 

5位 10人のワケありな風俗嬢たち

 別の本を探していたときにこの本がヒットし、気になったので読んでみました。

 おそらく著者が取材をしたのは10年ほど前ということもあり、随所で時代を感じる要素がありました。紙の風俗雑誌が出てくるところとか、「逆デリ」「ホモデリ」という単語が出てくるところとか。時代もあってか、当時の30代くらいの嬢は援交経験も多いのも印象的でした。騙されて「ちょんの間」で働くことになった女性については、その手法もちょんの間の実態も全く知らない世界だったので、興味深く読んでしまいました。

 一番印象深いのは、キャストから経営側に回った女の子のエピソード。店ごとの「ブランド」についてのくだりや、「応募者の受け皿を広げるために、店を広げた」姿勢が印象に残りました。

 

4位 人は、こんなことで死んでしまうのか!

 今年、最寄駅にできたばかりの無人書店で見つけ、軽い読み物として面白そうと思い購入しました。

 事件や事故ネタは好きなので興味深く読みました。しかし「◯◯で死ぬ」とはいっても、その◯◯直接の要因ではないケースも多く、「死」は複合的な要素でできているんだなと実感。

 ちょうど、同時期に安楽死についての本も読み始めていたので、最後に安楽死のエピソードが出てきていたのも印象的でした。最後の、医者としての著者の憤りには、なるほど、と納得。

 

3位 引きこもりでポンコツだった私が女子プロレスのアイコンになるまで

 女子プロレス団体「スターダム」の1期生であり王者でもある、岩谷麻優選手のエッセイ。今年、彼女の反省が映画化されたこともあり、読んでみました。

 スターダムは、以前、朱里選手の自伝も読んだことがあるのですが、この本は朱里の自伝とは違い、本当にフランクな書き方で「誌面インタビュー」といった感じの一冊でした。麻優がスターダム1期生なのもあり、本の中でもスターダムの歴史そのものにたくさん触れていて、そのような、ある程度「文脈が分かっている人」向けの本という印象を受けました。タイトルには「引きこもり」という言葉も含まれているものの、この本はあくまでも麻優やスターダムやプロレスのファン向け、というか。

 私がスターダムを初めて観たのは2022年秋で、この本が出たのは2020年夏なので、この本に出てくる人は知らない名前も多くありました。特に、「世Ⅳ虎(よしこ)事件」で知った安川惡斗選手の経歴にはショックを受けてしまいました……。そして木村響子さんの名前のほか、花さんの名前が出てきて、本の中ではどう書かれるか気にしながら読みました。

 

2位 妻はサバイバー

 本を検索していて偶然見つけ、概要が気になったのとレビューが高評価なものばかりだったので読んでみたら、一気に引き込まれてグイグイ読んでしまいました。

 しかし、この妻の言動にはとてもイライラしてしまいました。豊隆さんはそれで大丈夫なのかな、と、本を読みながら著者のことが勝手に心配になってしまうくらい。卑近な言葉で言うなら、究極の「理解のある彼くん」だと思いました。

 著者は私より20歳年上ですが、これが現代の、私と同世代の夫婦の出来事なら、普通に離婚だったかも知れないな……と思いました。

 本の中では、精神疾患やトラウマについての専門家・松本俊彦、宮地尚子先生たちの著書も引用されているのは頼もしく感じました。トラウマの根深さを垣間見た気がする一冊です。

 

1位 累犯障害者

 オンラインの記事か何かでこの本を知り、4年ほど積読していたものの、ようやく読みました。もっと早く読めば良かった、という気持ちと、障害者グループホームの件が話題になったタイミング(※2024年2月頃)で読めて良かったかも、という気持ちになりました。

 さまざまな「障碍者と犯罪」のエピソードがあり、群像劇の物語のように思えたけど、現実なんだよな……と苦しくなりました。

 特に印象的だったのは、浜松の不倫殺人。手話に種類があることを初めて知りました。また、手話の違いにより教育にも影響があったということや、それにより登場人物の倫理観もいわゆる「普通」とは違い、まるでSFの世界観のようでした。終章の終わり方、とても切ない……。江川紹子さんの解説の最後の一文も好きです。

 また、著者の前職と育った場所からは、私の父とも共通する要素があり親近感を覚えました。

この本がすごい!2024年上半期 小説編

 2024年1月〜6月の間に私が読了した「読んで良かった本」、今期も紹介したいと思います。今回は、小説編です。

 この時期に発売された本ではなく、「この時期に、私が読んだ本」であることに留意くださいませ。

 毎回10冊ほど紹介しているのですが、今期は小説は10冊も読まなかったので、8冊紹介します。

8位 桜ノ雨

 ボーカロイド曲で人気の「桜ノ雨」をノベライズした作品。ボカロの人気キャラが高校生だったら、という設定の学園モノの小説……ということで軽い気持ちで読み始めたら、思ってたよりも「ガチな合唱部の部活モノ」でした。恋愛要素もベタな感じでいい。いずれも、もどかしいくらいの距離感だけど、その展開が早すぎないのも好みでした。

 コンクールの結果……意外でした。そして、曲についてはどう落とし所をつけるかと思ったら、しっかり現実的なところに着地してて良かったです。ボカロキャラではない、オリジナルキャラの「ハル先輩」は、読者が感情移入できるために顔の描写もなく中性的な感じなのかな……と思ったり。惜しむらくは、作中の地名にルビがなかったことでしょうか。

 この本が出たのは2012年。今からほ10年以上前の本なので、ホモビがどうとかBL消費でキャッキャしたり、合宿のお風呂のシーンの書き方に時代を感じました。

 この本は続編もあるみたいなので、そちらもちょっと気になっています。また、私は紙の本で読んだのですが、電子版には特典もあるようです。


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7位 ぬるい毒

 この、わけのわからない世界観にヌルっと引きずり込んでしまうのがまさに、本谷有希子作品という感じ。癖になります。主人公・熊田の周りに起こっていることに何一つ整合性はない気がするけど、このわけのわからなさこそが逆にリアルな感じすらします。思い返せば、私も似たようなことをしたりされたりしたような気もする。

 序盤、「セラピスト」というキーワードが出てくるエピソードのところは、イメージソングとして、group_inou「THERAPY」が思い浮かびました。


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 解説の吉田大八氏の「熊田は向伊に恋しているのか?」という問い、著者の答え、それを受けた吉田氏の解もまた強烈でした。この解説での読解もとても好きです。

 

6位 授乳

 3つの短編が収録されています。表題作の「授乳」だけ随分前に読んだまま放置していたのですが、改めて全編、通読してみました。

 2編目の「コイビト」が好きです。主人公の価値観も、主人公の前に現れた少女の存在や、それからの展開も一番「わかりやすい」というか、変わってはいるものの、どこかベタというか、ある種の安心感があります。

 3編目「御伽の部屋」は、主人公が友達の兄・正男さんと2人で遊ぶときの最初の描写で「あっ、これ辛い展開かな……」とハラハラしながら読んでみたら、予想外の展開。それからの「会った最後」「何かを諦めた」ところから、正男さんがどうなったのか色々想像してしまいます。

 そして表題作の「授乳」は、やっぱり主人公の性格が好きになれずこの3編の中では好みではなかったものの、読み返すと新たな発見がありました。当初は、終わり方が急展開で衝撃的だったことが印象に残っていましたが、2回目に読んだときは、母親の描き方に目がいきました。

 瀧井朝世氏による解説の冒頭は、私は本谷有希子作品に対して感じているな、と思いました。ちなみに、なぜか私は本谷有希子作品と村田沙耶香作品を同時期に読むことが多いのですが、小説作品としては村田沙耶香のほうが好きと思うことが多いです。脚本家としては本谷有希子大好きなんですが。

 

5位 あのこは貴族

 友人から、誕生日プレゼントにもらった本のうちの1冊。この本を私に贈るのは、なんというか「分かっているな」と思いました。

 二人の女性が主人公として出てきますが、華子、美紀どちらにも私と重なる要素があり、他人とは思えませんでした。

 テンプレな男尊女卑の世界観やキャラの設定の作品は、作者の主張が先行してキャラが記号に見えてあまり好きではないのですが、この作中の人物はそれぞれリアリティがあり良かったです。後半の美紀の怒涛の主張が作者のメッセージなんでしょう。

 ただ、美紀が会社で働く様子は作中には描写がほとんどないのに、愚痴るセリフだけ言わせるのはややアンバランスな気がしたのが惜しい。華子にもヤキモキしたけど、最後、よかったな、と思えました。

 映画化もされているので、ちょっと気になっています。

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5位 恋する殺人者

 面白くて一気読みしてしまいました。主人公たちの語り口も軽快で読みやすく、どんでん返しも見事。やっぱり倉知淳作品って好きです。

 女性のモノローグや心理描写のわざとらしさはやや気になったものの、主人公の一人は狂った女であることを考えると、おかしいくらいでちょうどいい気もします。これって、東野圭吾容疑者Xの献身 (文春文庫)」みたいな感じかな……と思ったら終盤、かなり意外でびっくりしました。

 色々と異なるけれど、同じ作者の『過ぎ行く風はみどり色 猫丸先輩シリーズ (創元推理文庫)』を思い出します。(『過ぎ行く〜』のほうはは読むのに時間がかかってしまいましたし、シリーズの中ではあまり好きな作品ではなかったのですが)

 そして、作中に出てくる事件現場の場所の一つは、私も行ったことあるエリアなので、あのへんを舞台にしたのか……と思いを馳せてみたりもしました。

 

4位 猫色ケミストリー

 

 こちらも、読み出したら面白くて一気読みしてしまいました。SFというかファンタジックなところもあれば、ゴリゴリの化学に関する知識も出てきて、その、硬軟取り混ぜた設定にまずとても惹かれました。

 男性が女性に、女性が猫に、猫が男性に……という入れ替わり方は、80年代後半に出た、萩原京子『いつか虹を渡るまで (講談社X文庫 126-1 ティーンズハート)』という少女小説と全く同じなのですが、こちらは古いうえに知名度も低い作品なので、さすがに本編でも解説にも言及はありませんでした。

 この「猫色〜」では、単なる入れ替わりモノというだけでなく、化学薬品に関するミステリ要素もあるのがさらに面白い。やっぱりこの作者は、「死香探偵 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)」みたいな、化学×非現実的な要素、の扱い方のバランスが面白いな。

 文庫版の帯に書いてある「猫がスマホで謎解き」という言葉は内容からはだいぶズレていると思いましたが、文庫版が出た2013年はスマホが普及し出した頃だから、目を惹くためにそんなコピーにしたのかもしれません。終盤のジェンダー規範の描写にも時代を感じたりもしました。

 

2位 異邦人

 1〜2月頃だったかな。なんとなく短めの古典作品を読みたい気分だったので、今さらようやく読みました。

 第二部の終盤を読んでいるとき、長年逃げていた指名手配犯・桐島聡の逮捕のニュースで盛り上がっていた時期だったので、彼の人生と、この本の主人公・ムルソーのことをつい重ねてしまいました。

 終盤の主人公のモノローグこそが、この本の肝なんだと思いました。この本は、高円寺の読書カフェで途中まで読み、帰宅してから積読していたもので続きを読む、というカタチで読了しました。私が読んだのは68刷のものです。あらすじを読まずに読むと「主人」という言葉に引きずられて主人公を女性と誤認するかもな、なんてことを思ったりも、

 この本の「あらすじ」、ものによっては「人間らしくホンネで生きていくことって本当は、非常識なことかもしれないな」なんて一文が加わっているようですが、これは最近加わったものでしょうか。私が読んだものにはありませんでした。

 

1位 アルジャーノンに花束を

 この本は3月頃、同じく、なんとなく古典作品を読みたい気分だったときに読みました。今さらだけど読めて良かったな、と痛感。中学時代にこの本を読んでいた同級生もいたけど、私は今読んだことで感じるものが色々とあった気がします。

 主人公のチャーリーは32歳。大人になってから読んだほうが、自分がちょっと変わっただけで周囲の人の態度が変わることへの戸惑いなんかも、より共感できるような気がします。

 序盤は、幼児の知能しか持たないチャーリーの筆致として書かれており、(おかしなところもありつつ)ひらがなも多く読みやすいため、読み始めたら意外とすんなり読み進められました。

 知能が高くなっていき、文章も高尚になっていくことで、チャーリーの追体験をするような、臨場感がありました。

 また、翻訳の仕事をする人たちが身近にいると、「主人公の知能の変化に合わせて文体が変わっていくのは、翻訳が難しかったのではないだろうか」なんてことを考えたりもしてしまいました。

 

 今回は、以上となります。次回は、ノンフィクション編を紹介したいと思います。

買ってよかったもの、2023

 今さらのタイミングですが、買ってよかったものリストでも作ってみたいと思います。

 本来ならこの時期(6月末)は、「2024年上半期」の買ってよかったものリストを作るのがセオリーなんでしょうけど、「買ってよかったもの」は半年ではなく1年単位で作りたいので、あえて2023年の買ってよかったものリストを作成してみます。

 

スライヴ もみギアプロ フットマッサージャー

 こちら、2023年4月に購入しました。

 私は2014年秋から、これの前バージョンのフットマッサージャーを愛用していまして、寝る前に毎晩、髪を乾かしながらこのマッサージャーで脚をマッサージするのが日課でした。

 長年使い続けていたのですが、昨年、とうとう壊れてしまったので買い替えました。

 マッサージの力加減は、前の機種よりもやや力が強めには感じたものの、その強さも私好みでいい感じ。

 他社の機種も色々と見てみたものの、2万円以下の値段と、軽量で移動させやすいところが魅力でこちらの機種を買いました。前と同じメーカーのものを買って良かった。とても満足しています。

 手前が、新しい「もみギア」で、奥のものが旧バージョンのもの。

HAGOOGI 充電式カイロ

 

 2023年11月に購入。友人が「充電式カイロ」を使っているのを見て、私も欲しくなり探した結果、こちらを購入してみました。

 カイロとしてだけでなく、スマホなどのモバイルバッテリーとしても使えるのも嬉しいし、左右を分離できるため、両手に握ってあったまることも可能なのもよかったです。

 カラーバリエーションも豊富でいい感じ。

 

ダニ取りロボ

 ダニ取りグッズは色々試してみたのですが、これが一番、効果があった気がします。布団の下に敷いています。「ロボ」と入ってる名称ですが、特に「ロボ」要素はないですね(笑)。

 

メルル(ソフトコンタクトつけ外し器具)

 2023年はいくつか新たにやってみたことがありまして、そのうちのひとつが「ネイルサロンでのジェルネイル」、もうひとつが「ソフトコンタクトレンズの日常使い」。

 また、家族が目の病気になり、しばらくソフトコンタクトレンズを使う機会があったので、この、つけ外し用の器具の「メルル」には助けられましたし、家族にも勧めました(正確には、コンタクトを「つける」ほうは器具を使わなくとも問題はなく、外す時のみ愛用していました)。

 ソフトコンタクトもメルルも以前使ったことはあるものの、爪が短い頃は、取り外し器具を使わなくてもすぐに指で取り外せるようになったので一度は手放してしまったのですが、ジェルネイルで爪が長い状態だと、これはなくてはならないものとなりました。

 ただ、私の力の入れ方が強いのか、数ヶ月使うと破損してしまったため、買い替えも発生しました。

 今は、自分でジェルネイルをして、爪の長さもそこまで長くならない程度にしているので、使ってはいないのですが、お店でのネイルをしていたときには助けられました。

 

エクスボーテ 化粧下地

 夏、化粧をする際に汗で崩れがちなのに困っていて、クールタイプの化粧品を探しているときに見つけました。

 こちら、ひんやりした使い心地でとても気に入りました。脂性肌の私でもメイクは崩れにくい気がするし、今年の夏もこちらを愛用しています。

 

セザンヌ ハイライト パールグロウニュアンサー

 こちらは美容雑誌でおすすめされていて、値段も安いし、と思って買ってみました。

 最初は今ひとつ使いどころがわからなかったものの、鼻筋や、目の下に入れると程よく肌にツヤがのります。顔が明るくなる感じがして、気に入っているアイテムです。