小学生の頃から地図を眺めることが大好きだった私。幼少期に引っ越しを繰り返していたこともあり、地理は自分にとって身近な学問でした。大学も地理学専攻に進学。卒論は「アニメ聖地の観光地化」について書きました。
卒業してからも、地理や地図に関するいろんな出会いもありました。(というか卒業以降の方が多いかも?)
2013年には、美大卒の友人をきっかけに、空想地図作家の「地理人」さんを紹介してもらいました。2014年からは「名古屋スリバチ学会」に参加。それ以降も、空想空港の地図を描く人やまち歩きのライターさんなど、さまざまな人たちとの出会いや交流がありました。
そして先週末の7月11日(土)、「空想調査員が見た、空想都市」イベントに行ってきました!
これはどういうものかというと、「空想地図作家」の地理人こと今和泉隆行さんが作成している「中村市(なごむるし)」の地図や、それに関連した製作物の展覧会です(説明が難しい……!)。
7月1日から開催されていて、7月11日が最終日でした。この日はトークイベントも行われるとのことだったので、道路や都市計画に詳しい友人と一緒に行ってきました!
一見すると、どこにでもありそうな地図と路線図。でもこれ、どっちも現実には存在しないものなんです!
ほかにも、架空の「店内BGM」や、架空のSNS投稿などの展示もありました。どれも作り込みがすごくって、一見、架空のものだとは信じられないくらいリアリティがありました。
これらのコンテンツは地理人さんのほか、いろいろなデザイナーやクリエイターさんたちが「空想調査員」として制作した作品だそうです。
子どもの頃から空想地図を作っている地理人さん。地図や街づくりを進めていくにあたり、過去に描いたものと整合性が取れなくなってきた部分は「調査が間違っていたようです。こちらが正しい、最新の情報です」という具合に空想地図を描き換え、アップデートしているとのこと。
この展示はもう終了してしまいましたが、動画もあるようなので、興味がある方・行けなかった方は見てみてください。
昨日閉幕しました「空想調査員が見た、空想都市」展。
— 地理人/今和泉隆行「空想調査員が見た、空想都市」展終了 (@chi_ri_jin) 2020年7月11日
地理人が動画で案内します。今日から何回かに分けてお届けします。まずはPart.1。全貌を見てまいりましょう。https://t.co/hFzwwR341x
来れなかった多くの方も、なぜだか再び味わいたい方も。せっかちな無編集撮って出し動画なので、あしからず。
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空想都市展の感想
演劇や小説みたい!
今回、「地図」への関心として観に来た展示でしたが、観ている最中、まるでなにかの小説を読んだり、演劇を観たような没入感がありました。
架空のチラシや賃貸情報を眺めたり、電車内アナウンスなどを聴いていると、なんだか泣けてくる。誰かの生活の気配を感じる。そこには誰もいないはずなのに。
いないはずの人や場所をこんなにも想起させる芸術作品って、なかなかないのではないでしょうか。こんなにも「行ってみたくなった二次元作品」は初めてかもしれません。
私もここで中村市の世界の住人になりきって、地図を指差し「私、昔このあたりに住んでたよ」とか思わず言ってしまいそうになりました。言わなかったけど……w
でも、もし今後同じような展示が行われるなら、「架空の住人」が出てくるような寸劇やショートムービーなどがあっても面白いんじゃないか、とは思いました。
ほかに、こんなものも見てみたい
今回展示してあった架空のSNS投稿は、Facebookを模した画面に3人の大人の生活の記録が書いてありました。
(架空の)公園に行ってきた写真や、(架空の)飲食店に行ってきた写真が載っていて、これはこれで面白かったんですけど、もっと若い世代のSNSや、「爆サイ」のような少し下品なものがあっても面白そうだなと思いました。
……そんな感想をお伝えしたところ、架空の風俗店情報サイトを作ろうとしている人はいるとのこと。なかなか面白そうな目のつけどころですね。
あとは、架空の鉄道のデザインだけでなく、鉄道模型もあったら面白そうですし、ジオラマも見てみたいなと思いました。(ジオラマはリクエストが多いそうです)
まるで世界が反転している
ほかに面白かったこととしては、今回、「架空のチラシ」類について、みんなが手に取りすぎてヨレヨレになっているのが不思議な感じがしました。
不在票やダイレクトメールやチラシって、普段の生活の中では単なるゴミ、生活のノイズになることが多いものですが、「架空のチラシ」となると「すごいね」と言われながら回覧される……というのが、ちょっと面白い光景だなと思いました。
「中村市」の住人の日常ならゴミになっているであろうものが、こちらの世界では「珍しいもの」になる。この「反転」が奇妙な感覚を生み出していて、もしかして異世界転生ってこんな感じ……? なんてことを思ったり。
デザインの力は偉大、地名だけだと弱いのかも
以前もブログに書いたことがありますが、今回特に感じたのは「架空の路線図」は、単体だとやや楽しみにくいな、ということ。
架空の店のロゴやチラシのデザインは「このお店は、きっとこんな人が利用しているんだろうな」「こういうお店、首都圏よりも郊外に多そうだな」などと想像して楽しめますが、「架空の駅名」だけ並んでいると「楽しむもの」としてはちょっと厳しいな……と思ってしまいました。地図と組み合わせると楽しめるんですが。
この中村市、あんまり難読地名もないんですよね。
「どうしてこんな地名になったんだろう」と想像を働かせる余地も少ない上、現実と違い、他のメディアによって作られる地名ブランドのイメージなどもないため、駅名単体だと想像を膨らませる手がかりに欠けるというか。
逆説的に、普段の私たちは、地名にいかにメディアからのイメージを抱いているのかということを痛感させられました。
都市地図は人でできている
ところで、大学の地理学科って、文系扱いか理系扱いかは学校によって異なります。
私の出身の、立命館大学の地理学専攻は文学部の中にあり、文系扱いとなっています。
今回のこの展示を観ていると、地理学が文系に分類される理由も体感として掴めた気がします。
「都市地図って、突き詰めていくとこんなにもひとの営みを感じさせる要素が詰まったものなんだ」ということを身を以て感じた……とでも言いましょうか。
引っ越しが多かった私にとっては、この「中村市」は、「これから住むことになる、まだ知らない街」を彷彿とさせ、転勤族のワクワク感を再燃させられる部分もありました。
その一方で、「ここに住むことは一生あり得ない。物理的に不可能」という現実に切なさも感じて、なんとも言えない、まるで叶わない恋をしているかのように胸がキュっとなる部分も……。
なんだろう。ガラスの膜があるみたいな感じ。
これもどこか「演劇っぽい」感情だなと自分で思いました。
それにしても地図って奥が深い。人々の営みや歴史のような「文学部的」な側面からもいろいろ見えてくるし、気候や地形を意識すると、理系科目の要素も入ってくる。道路や街ができていく際には政策・政治学的な要素も関わっていたりする。地名のブランドイメージなどは社会学の要素も強そう。どの情報をピックアップしどのように地図上で表現するか、という点はデザインや美術が関わってくる。
どの面から見ても、地図や地理は楽しめるし面白い。多趣味な私が地理を好きになるのは必然かも……ということを感じた夜でした。
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おまけ
この展示を観てしばらくしたあと、友人と新橋の日本酒の店に入ると、なんと、隣の席の二人組も地理の話をしていたので驚きました!
小耳に挟んだ会話によると、隣の席の二人は関西の大学の「地理研」の先輩と後輩。先輩のほうは社会人のようです。(石山の花火大会の話をしていて、関西弁で話していたことなどから推測)
飛行機のプラモデルの箱も席に置いてありました。
私も関西の大学の地理学出身なのでなんだか嬉しくなり、私も友人に地理の本の話などをしてみたものの、隣の席の人たちが反応して交流が生まれるような展開は特になかったです(笑)。
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