これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

「地震おっぱい」ツイートはなぜ不快になるのか?

 ブロガー・作家のはあちゅう氏の訴えから端を発した炎上騒動が、一部のネット界隈をここしばらく騒がせている。彼女が、クリエイターの岸勇希氏のパワハラを訴えたことから始まり、はあちゅう氏の「童貞」を揶揄する過去の発言や、Webライターのヨッピー氏の言動など、さまざまなところまで飛び火している。

 ハリウッド女優の性犯罪被害の告発から始まった「#Metoo」ムーブメントは、日本では思わぬ波紋を呼んでいるようだ。

 

 そんな中、目に留まったのはこのツイート。

「ほかの人がしていたからって自分も性差別してもいい理由にはならないだろ」という突っ込みは置いておくとして、この、地震の際の「おっぱい」ツイートは私も不快に思っていた。そのことについて彼女が声を上げたことや、「あれは自分も不愉快に思っていた」「あれも童貞いじりと同じくダメだよね」という声が集まったことは喜ばしいと思っている。

(個人的には、「地震の際にそんなツイートをする人を見たことがない」というはてなブックマークがいくつもあったことがものすごく意外だった。私は旧アカを使ってたときも現在のアカウントでもたくさん見たし、「ラピュタの日はバルス」「台風の日はコロッケ」並みに定着したネット文化のように錯覚していたので。というか「台風の日のコロッケ」のほうが知ったのはずっと最近)

 

 地震の際の「おっぱい」ツイートは、肌感覚だと5年ほど前から見かけるようになった印象がある。このブームの発端は、クリエイターのヨシナガ氏、声優の竹達彩奈氏などの説があるようだ。

 地震に対しての「揺れた」「でかい」などのツイートが並ぶ中に「おっぱい」という単語を入ることによって、「おっぱいが揺れた」「おっぱいがでかい」と錯覚して楽しむ……という遊びが発端のようだ。

 

 今回の投稿がきっかけで、私と同じように、地震の際の「おっぱい」ツイートを不快に思うひとが多いことがわかって嬉しかったのだが、しかし改めて考えてみると、なぜ不快なのか今ひとつ理由がはっきりしなかった。

 セクハラ、性差別にあたる発言になるかどうかも、なぜ不快になるのか、ということがはっきりしないと判断ができない。そこで、あれこれと考えてみることにした。

 

性的な発言だから?

 まぁ、それはそうなんだけど……平時にも、性的・卑猥な発言をするアカウントはフォロイーにそれなりにいる。でも、それらの投稿ひとつひとつにいちいち不愉快になることはあまりない。

 地震が起こった際は、複数の人々がほぼ同時に「おっぱい」発言をするために、タイムラインにそれらの言葉があふれてしまい目障り……というのはありそうだ。

 同じような「言葉があふれる」現象でも、テレビ番組の実況や、流行っているアプリやウェブサービスによる投稿だったら「へぇ、今、あの番組やってるのか」「このサービス流行ってるのかな。私も使ってみよう」と思えるけれど、地震の際の「おっぱい」は、脈絡がないためモヤッとするのかもしれない。

(もちろん、「子どもにおっぱいあげてるときに地震がきた」「セックスの最中に地震が起こっておっぱいが当たった」のような、明確な文脈がわかるものは別に不快ではない)

 

不謹慎だから?

 地震は多数の死者が出ることもある災害。そんなときにおっぱいだのなんだの言って盛り上がるのは不謹慎だから不快なのか……? とも考えたけど、私としてはそれも違う。むしろ、「不謹慎だ」と言って、言葉狩りをしたり、ジョークや、地震とは無関係のことを言いづらいような雰囲気にすることのほうが好きではない。

 私は、揺れを感じた際「地震かな? どこが震源地だろう。震度は?」「へぇ、○○県の友達のところも揺れたのか」と情報収集をする(あるいは記録する)ためにTwitterを開くので、そんな中「おっぱい」の単語が並ぶと邪魔……ということも、不快な理由のひとつとしてはありそうだ。

 

自分の身体を引き受けていないから?

 地震の際の「おっぱい」発言は、観測範囲では男性がしていることが多い。「異性・他者の身体的特徴をネタにいじっているようで気分が悪い」という理由もありそうな気がする。(ここでの「異性・他者」は、特定の誰かを想定したものではなく、侮蔑や揶揄の意図はないとはいえ)

 もちろん、おっぱい自体は男性にもあるし、体型次第では揺れることもあるだろう。しかし、この「地震おっぱい」ツイートの流行は、「脂肪の多い人間が自分の乳房を揺れるさまを想像して楽しむ」ということから始まったとは考えにくい。他人(特に女性)を、性的対象として想定しているケースがほとんどだろう。(グラビアアイドル等の女性が、地震の際に「おっぱいも揺れたよー」と言っているようなケースだったら該当しないが、そのようなものはあまり多くないと思われる)

 

 では、「おっぱい」ではなく「ちんこ」「金玉」だったらどうだろうか。ツイート主が男性の場合は、「自分の身体を引き受けている」と解釈することもできるだろう。

 しかし、そのような単語がタイムラインに溢れたらそれはそれで「こんなにたくさん流れてくると否が応でもそれらを想像してしまう。やめてくれ……」と思ってしまいそうな気がする。

 

ひとの身体は「いじっていいもの」ではないから?

 先ほどの話と繋がるが、「他者の身体はネタにしていじっていいもの」との認識を強化してしまいそうなのが嫌だ、ということもありそうな気がする。私も、ひとつひとつのツイートというよりは、この「地震のときは『おっぱい』とツイートして和もう」という「ブーム」が苦手なのだ。「みんな同じようなこと言ってるから」と、悪気なく他者を傷づけてしまいかねない、その流れが苦手なのだ。

 まぁ、「地震おっぱい」ツイートが「いじり」に該当するかどうかは意見が分かれるかもしれないが。

 過去、こんな炎上騒動があったことも思い出した。

togetter.com

 

別の身体的特徴に置き換えてみたら

 性的シンボル以外で、人体で「揺れやすい」パーツはなにかあるだろうか……と考えてみたが、健常者だとせいぜい「髪」くらいな気がする。

 身近に、病気の後遺症のために片腕の筋肉が弱り、三角巾で固定しないと、腕がダラン、と垂れ下がってしまうひとがいる。

地震の際、『○○さんの腕』って書いて、揺れたのは障害者の腕だと想像して和もう」なんて言ったらおそらく非難されるだろう。(この比喩だと特定の人物を使ってしまうことになるので比較として適切ではないかもしれないが)本来、他者の身体をネタにしていじるのはセンシティブなことなのだ。

 

そもそも愉快じゃないから?

 そもそも女体持ちの立場からすると……と言うと主語が大きいのなら、「私」の立場からすると、乳房が揺れることは決して愉快なことでも、心和むことでもない。

 小学校高学年の頃、体育の授業を終えたあとに同級生の女子から「胸の揺れが目立ってたよ。ブラジャーしたほうがいいよ」と指摘されたことがあり、すごく恥ずかしかったことがある(でも、その指摘はありがたかった)。

 確かに、他人の胸が揺れていたらつい目が行ってしまうのは理解できる。しかしそれを表立って一斉に面白がらなくてもいいのではないか、と思う。

 

単純に面白くない

 あれこれ御託を並べてしまったが、結局はこれに尽きると思った。

「揺れた」「でかい」で、おっぱいを連想させることが単純にギャグとしてつまらないというか。そうやって下ネタではしゃぐのが子どもっぽく感じてしまうというか。

 

「揺れた! でかい!」

「えっ何が? おっぱい?w」

「……そういうの面白くないんだけど」

 

 なんというか、性的だからとか他者の身体が云々とかじゃなくて、ギャグとしてつまらないから不快になるんだな、と気づいた。

 これが、面白かったら、きっとそこまで不快にはなっていなかったと思う。

 以前、私が2chで身内絡みの悪口を書かれたときに下ネタなものもあったりしたが、ギャグとして面白かったものについては、悪口に不快になるよりも先に「上手い!」という気持ちが湧いた。

 地震のときに「おっぱい!」と騒ぐのは、幼いというか子どもっぽいというかガキくさいというか……。

 下ネタではしゃぐ男子たちを冷めた目で見ていたときのような、小学生女子時代を思い出してしまった。

 

 この「地震おっぱい」ツイートを、「他者の身体をネタにしていじる行為だ」と解釈したひとにとっては「性差別」「セクハラ」扱いになり、「やめるべきだ」と主張するひともいることだろう。

 私自身としては、この行為は「差別」には当らないのではないかと考える。なので「やめるべき」とも思わない。

 ただ感想としては、とてもくだらなくてつまらないなぁ……と思うので、そういう意味では廃れて欲しい流行だなと思う。

 まぁ、地震そのものが発生しないことがいちばんなんだけどね。

 

おっぱいの進化史

おっぱいの進化史

 
乳房の神話学 (角川ソフィア文庫)

乳房の神話学 (角川ソフィア文庫)