2024年になり、1ヶ月が経とうとしていますね。遅ればせながら本年もよろしくお願いします。
さて、毎年恒例の「読んでよかった本」ランキング、今回もやってみたいと思います。今回は小説編です。
8位 あるいは酒でいっぱいの海
この本は、フリマで行われていた「本のおみくじ」企画で手に入れました。
包装紙に包まれ、どんな本なのかのキーワードが書かれたメモだけがついている本の中から選んで購入し、出てきたのがこの本でした。
「短編集」よりも短い、ショートショートがたくさん収録されている掌編集です。
シュールなものもあれば、ちょっとよく意味がわからないものもあり、時代を感じるものもあり。何かがすごく心に残った……というわけではありませんでしたが、普段読まないタイプの本を読めた、という読書体験も含めて楽しみました。
7位 狼と香辛料
この作品を初めて知ったのは、2007年頃。大学時代、文芸サークルの中でこの作品が流行っていたときは、経済学がテーマなんて難しそうかも……と思って敬遠していたものの、2021年頃から経済学クラスタの人たちと関わる機会が増えてきたので、改めて読んでみることにしました。
銀貨の取り引きの駆け引きなど少し混乱したものの、難しさに挫折するようなこともなく、普通に面白かったです。現代日本とは違う世界や時代を舞台にした小説もたまには悪くないな。主人公・ロレンスの商人としての姿勢も好きだし、ツンデレなホロとの掛け合いも楽しいです。
6位 ウェディングプランナー
ウェディングプランナーや結婚式についての連作短編集は、飯田雪子『アニバーサリー―しあわせの降る場所 (角川春樹事務所 ハルキ文庫)』、辻村深月『本日は大安なり (角川文庫)』を読んでいて、どちらも好きだったのでこの作品も期待して読みました。
お仕事小説としてはとても面白かったです。個人的には、結婚式に大金をかける必然性をあまり感じておらず、シェアハウスとか公民館とか借りて自力でやるのでもいいのでは、なんて思ってたんですが、この小説を読み、今まで結婚式をちょっとナメてたかも……と思ってしまったりも。
男性作家の作品ということもあり、女性心理や描写のどこか不自然な感じはどうしても多少は気になってしまいましたが、まぁ作品とは関係ない些末なことだな、と思えるレベル。どのエピソードもどんでん返しが意外性あって面白かった、けど、ラストの主人公の結婚式の展開は、ちょっとあり得ないな……という感じ。まぁ、作品全体では面白かったです。
5位 ピュア
ライターとして10年以上前から応援してた美由紀さんが書いたSF小説、ということで気になって読んでみました。noteで無料公開されたことが話題になった時期もありましたね。
「妊娠するためには、男たちを文字通り食べないといけない世界」という設定は面白いし、フェミニズムとSFの親和性の高さを感じて、「こういうのもアリなのか」と新鮮ではあるものの、「遠い未来」という設定なのに現代日本人っぽい名前や「スタバ」などの固有名詞が出るのは(わざとだろうけど)違和感あるし、「男の欲望」も、表題作と最後の話だけは世界観として通っているけど、そのほかは「現代の現実」と変わらなさそうなのも勿体ないな、と思ってしまいました。
なんというか、主張したいテーマが先行して世界観が後付けな印象。類似テーマの作品では、坂井恵理「ヒヤマケンタロウの妊娠 (BE・LOVEコミックス)」とか、村田沙耶香作品のほうが世界観も物語としても上手いな、と思ってしまいました。
美由紀さんの作品は、全て読んでるわけではありませんが、フィクションよりもエッセイのほうが私好みな感じがします。
4位 ハピネスエンディング株式会社
ネット上でも有名な、マーケターで文筆家のトイアンナさん(id:toianna)初の小説。毒親がテーマということで少し身構えてしまいましたが、テンポが良くてすんなり読めました。さらりとした筆致で、虐待描写にもあまり引っ張られずに済みました。冒頭にフラッシュバックへの注意書きがあって覚悟したけど、あれはそういう事例だったのか……。
大学生らしいインターンの描写や、会社経営者の女性なども出てきて、トイアンナさんらしさを良い意味で感じる部分もあり、楽しめました。そもそもこの作品、タイトルも表紙も、「毒親」がテーマとは思えないポップなものにしているという配慮も良いですね。
毒親たちと、主人公・智也たちの「いい親」の対比がやや極端というか、実際はもっとグラデーションだよね、と思う部分はありましたが、これくらいのほうが物語として刺さりやすいのかもな、と思いました。そして作中に出てくる事例は、丸々実話というわけではないんだろうけれども、トイアンナさんが見聞きした事例なんだろうと思うと頭が下がります。メンタルヘルス面でも興味深い描写のある作品でした。
3位 悩み相談、ときどき、謎解き?
好きな作家の本と間違えて購入したものの、連作短編集になっていて意外と面白かったです。最初のほうの心理描写はどうにも不器用さというか、表現の荒さがやや目立っていたけれど、読み進めていくうちに気にならなくなってきました。
「占いで降りてくる言葉を使う」のは謎解きとしてはズルい感じがあるけど、物語を引っ張るアイテムとしては見事。これってラノベなのかな?と思ってレーベルを確認したらメディアワークス文庫でした。大人の女性ためのラノベ、という印象の本でした。
10年前の作品なので、赤外線で連絡先交換する描写が出てくるのも印象的でした。作者は私と同じ魚座ということも、少し親近感を抱きました。
この本はシリーズとして続編も1冊だけ出ているようで、こちらも読み途中です。
2位 空芯手帖
こちらも「本のおみくじ」として手に入れました。
著者とほぼ同い年ということもあり、「同世代の女性の作品」という点からも面白く読めました。職場でブチ切れて「妊娠しているフリ」をすることから始まる物語、という設定がまず面白い。
「30代の独身」ということで主人公に親近感を持った部分もありつつ、今どきこんな古臭い会社ある? という気もする部分も。主人公を気にかけてくれる、少しズレている男性社員の東中野さんと何か起こるのかと思いきや、そうきたか……という展開にびっくり。
そして終盤、あれっ? と思ったものの、さらに読み進めて安心。どう終わるのか読めず、予想していた展開とは違う感じだったけど、読後感は軽い痛快さもあっていい。
装丁も可愛くて好きです。そして、主人公の職場とかけたタイトルも上手いな、と思いました。
1位 雨の日も神様と相撲を
梅雨の時期に読めてよかった作品でした。
推理要素と非現実的な要素が絡まり合う感じは、さすが「スパイラル ~推理の絆~ 1巻 (デジタル版ガンガンコミックス)」「虚構推理(1) (月刊少年マガジンR)」の原作者という感じ。カエルや相撲についての情報も本格的ですごい。何をどうやったらこの話の発想にたどり着くのだろう。
主人公の少年・文季も、ヒロインの真夏も可愛いし、同級生たちも親族もいい味出していて好きです。私も中3になる前くらいに転校したので文季に親近感を抱きました。
ミステリ要素も面白かったです。オチは、倉知淳作品を思い出しました。
あと、作中では「スマホ」でも「ケータイ」でもなく「携帯端末」という表現が使われていたのも印象的でした。
……いかがでしたか?
次回は、ノンフィクション編をお届けする予定です。