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この本がすごい! 2021年下半期

 遅ればせながら、本年もよろしくお願いします。

 そして毎回恒例の「読んで良かった本ランキング」、2021年下半期編も発表したいと思います。

 下半期は就職したり生活が変わったこともあり、上半期に比べて読書量は減りました。ただ、それでもけっこうたくさん本を買いました。

 では、いってみましょう!

(「2021年下半期に読んで良かった本」であり「その時期に発売された本」ではないです。また、記事内ではネタバレは避けていますので安心してお読みください)

 

14位 「一緒に働きたい」と言われる人の仕事術

 人気インスタグラマー・ayaさんによるライフスタイルブック。マナーやライフハックやファッションなどの内容がいろいろ紹介されています。

 どなたかもレビューで書いていた「職場の先輩が教えてくれている感じ」という表現がピッタリな一冊でした。押し付けがましい「マナー講師」っぽさはなく、取り入れやすい内容が多かったです。

 この本を書店で見るまでこの方のことは知らなかったんですが、芸能人でも読者モデルでもない、普通のOLの方が取り入れているちょっとしたテクニック……ということで親近感を持ちました。

 レビューには「インスタの内容と同じ」「普通のことしか書いてない」という声もあるようですが、普通のことをきちんとこなすのは意外と難しかったりしますし、こうして本としてまとまっていることでパラパラと読みやすく、生活に取り入れやすくなる人も、いるのではないかと思います。

13位 どうしても頑張れない人たち

 以前紹介した『ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)』の続刊にあたる本となります。

 前作と同じく、読みやすい中に示唆に富む一冊でした。

 前著を読んだときとは違い、今回は私が実際に「困っている人たち」にも関わりやすい立場になったことや、キャリア相談員養成講座で傾聴やカウンセリングの基本を行ったという経験もあり、「やっぱり、こういう姿勢が大事なのか」とか「実際問題、うまくいかないよね」とか、より「自分ごと」としての立場に引きつけて読むことができたと思います。

 特に印象に残ったのは「他者からの評価なんて気にしなくていい」のくだり。「評価を上げたければ親切になれ」という節の話は、とにかく痛快でした。

 

12位 おカネの切れ目が恋のはじまり

 2020年秋に放送されたドラマのシナリオブックです。三浦春馬氏の遺作ということでも話題になった作品ですね。

 主演俳優が亡くなった都合でドラマは4話で終わりましたが、本来はどのようなストーリーが想定されていたのか気になって読んでみました。

「清貧女子」の玲子と「浪費男子」の慶太によって繰り広げられる、「お金」にまつわるラブコメディ。ドラマでは日常ミステリー要素もあってなかなか面白かったです。

 後半、主人公たちの会社に起こる事件のエピソードはドラマでは完全にカットされていたので、この事件に関与している重要人物の「鷹野」は、ドラマだったら本来は誰が演じていたんだろう……ということが気になったりも。

 そして、キャラの名前はこんな伏線になっていたのか……! というところも楽しめました。

 この作品は漫画版も出ており、私も途中まで読みました。絵柄も綺麗で楽しめます。

 

11位 実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。

 ちょっと過激な性的嗜好について描かれたコミックエッセイ。全2巻と短いものの、中身は濃厚。

 以前、冒頭の部分をTwitterで読んで気になったので購入しました。私の欲望とも近いものを感じた部分もあり、そのむき出しの気持ちに共感できたところもあります。

 以前このブログでも紹介した、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』を読んだときにも思いましたが、ペス山さん永田さんも一筋縄にはいかないような複雑な欲望の言語化や表現がとても上手い。この作品では、セックスやSMは自身にとってどういうものなのかとか、「かばってくれた女子のセリフが辛かった」ことのくだりが印象的でした。

 そして何より、主人公の理解者の二人が素敵。この漫画、男性がマチズモから降りることを考える一助にもなり得そうだと感じました。随所に、出会い系サイトを使う際の注意点についてのエピソードも挟まっているのも良いなと思いました。

 2巻は「悲しみ、喪失との向き合い方」や「自分を肯定すること」にも軸が置かれていて、1巻よりも感情の奥行きを感じました。そして「性別」ってなんだろうなと改めて実感。「恋」ってフィクションでは可愛く微笑ましいものに描かれがちだけど、実際はこのくらい粘度を伴う感情だよなぁ……なんてことを考えたりもしました。

 それにしても、濃厚な感情の揺さぶりを豊かに表現できること、信頼できる幼なじみの友人たちがいる著者の境遇には少し羨ましさもあります。そして、これまで私を邪険に扱ってきた人たちに対して改めて怒りが湧いてきたりもしました。そんなさまざまな感情を喚起させられた作品でした。

 この著者の最新作「女の体をゆるすまで」もとても評判がいいので、読んでみたいと思っているところです。

10位 トコトンやさしい下水道の本

 仕事で、下水道について勉強する必要が出てきたので読みました。

 最初のほうの、下水道の歴史は小ネタとして面白く読めましたが、全体的にそれほど易しくはない本。ただ、分からないなりに目を通しているのといないのでは仕事の資料に目を通す際の理解度が変わってくるのは感じたので、そういう意味では読んでおいてよかった、と思えた一冊です。

 下水道管渠の種類や雨水の処理方法など、専門的な内容がコンパクトに凝縮されています。下水道の情報を業務で必要とする人や、専門として扱っている人でない限りはあまり面白く読めないかもしれませんが……。

9位 動機探偵

 一気読みしました。「化学探偵Mr.キュリー」「死香探偵」などが人気の作家さんの新作のようです。この作品も、Mr.キュリーと死香探偵の両方を彷彿とさせる面白さがありました。

 それにしても、どの作品の主人公たちにもいえますが、変わり者の先生たちのアシスタントとしてこんな探偵みたいな仕事ができるの、楽しそうで憧れます。

 ただ、「感情が理解できない、変わり者の先生」みたいな人、実際にいたらかなり面倒なタイプなのに(笑)、この作品に出てくる名村先生は嫌な感じがせず、絶妙なキャラ設定だなぁ、と思ったりもしました。

 また、この作品は「謎を集める」ための設定が自然なのもよかったです。

 

8位 わかる! 役に立つ! 法律の教科書

 書店で見つけ、対象年齢ではないけれど気になったので購入しました。

 別のレーベルから出ている(このブログでも紹介した)『めちゃカワMAX!!防犯・防災イラストBOOK』や、ベストセラーの『こども六法』に影響を受けて出たのでしょうか。漫画よりも文字のほうが多いけれど、イラスト多めで読みやすい一冊です。

 女児向けの本だからか、犯罪者も女性で描かれているカットが多かったのも印象的。いま議論になっていることや具体的な判例など、もう少し突っ込んで書いて欲しいと思わないこともないけれど、入門書としてはこの範囲で良いのかも、という印象です。

 冒頭には法律を擬人化したようなイラストもあって、いわゆる「大きなお友達」が読んでも楽しめるのではないかと思いました。

7位 プチプラ防災

 1年以上前に書店で見かけて気になっていた本なのですが、昨年、電子書籍版がセールで安くなっていたので購入しました。一気読み。

 タイトルには「プチプラ」と入ってはいるものの、お金や防災用品の値段に関しての記述はほとんどなく、なかなか「ガチ」な防災の本でした。

 被害を防ぐための姿勢やグッズの作り方や日常的にできること、レシピなど写真混じりで説明も豊富で、とても実用的な1冊。子どもや要介護者やペットへの対応なども載っており、一家に1冊あってもいいかもしれません。

 私は電子書籍で買いましたが、紙の本で買ったほうが良いかもしれません。

 

6位 子育て罰

 教育関係の友人がこの本を高く評価しており興味を持ったので、エコノミストの友人と読書会を開催することにして読みました。

 2名の共著となってはいるものの、教育行政学の専門家の、末冨さんメインの本という印象を受けます。データ等も豊富で問題提起も良いとは思いますが、末冨さんの章はところどころ引っかかりが多く、桜井さんの章のほうがスッと入ってきた……というのが正直な感想でした。

 話題にもなっている「児童手当の削減」ですが、私は正直、高所得家庭のぶんを削り再分配するのは「怒っている人も多いけれど、別に構わないのでは」という立場です。ただ、「『子どもの権利』が『親』の状況によって左右される」というのはおかしい、という考え方は確かに一理あるかも、とは思いました。

5位 モテキ

 10年ちょっと前に話題になった作品。映画化、ドラマ化もされましたね。今更ではありますが、4.5巻まで全巻読みました。

 本編そのものも展開がどうなるか最後まで読めず、面白かったのですが、4.5巻の対談もかなり読み応えがありました。賛否あるようですが、私は作者による裏話や解説を読むのがとても好きなので「こういう意図や背景があったのか」とひたすら面白かったです。

 そして、ジェンダー面からも、これは久保さんのような立場だからこそ書けた作品、ということも痛感しました。

 あと本筋と関係なく気になったのは、作中に出てくる「林田」というキャラの名前について。著者の出身地(そして私も住んだことがある)でもある長崎には「林田」姓が多いから、長崎出身の作者は地元のキャラを「林田」さんにしたのかと思ったけど、そういうわけではないらしいのが意外でした。

 この漫画は10年以上前の作品なので、性愛観も時代を感じて「今ならアウトかも?」という気持ちと「こういう時代あったなぁ」という懐かしさを覚えます。今の時代だったらこの作品はどういう描かれ方をしただろうか、と考えてみるのも面白そう。

4位 児童養護施設 施設長殺害事件

 著者の大藪さんは、友人の友人。この本で読書会をすることになったのを機に読みました。

 事件そのものというより、その背景や被害者の生前の取り組み、児童養護施設の実態やそれらを取り巻く背景を幅広く扱った1冊でした。

 加害者はよりにもよって、なんで大森さんみたいな素敵な人を刺してしまったのか……という悔しさと、加害者の気持ちにも寄り添う人々の声が印象に残ります。私はよく犯罪や事件に関する本も読みますが、この本は、加害者にも寄り添う人の声が多く出てきているのがまず印象的でした。

 

 また、児童養護施設で過ごした人たちの声も興味深かったです。

 私の、子どもの頃の仲のいい友人にも養護施設出身の子がいて、施設に遊びに行ったこともありましたが、私はそこしか施設を知らなかったので。

 特に印象に残ったのは、「施設の頃は大勢でご飯を食べていたけれど、施設を出て一人暮らしして食事するのは寂しい」というギャップについて話していた人。そのようなことについてはこれまで考えたことがなかったので、なるほど、と思いました。

 また、本の中では里親制度についても触れられていました。新潟の里親委託率がとても高いことも気になりました。

3位 翻訳スキルハンドブック

 翻訳の仕事をしている人たちと知り合ったとき、書店で見かけて手に取ってみた1冊。そのときはKindle Unlimitedの対象になっていたので、Kindleで読んでみました。

 

 私は翻訳業ではありませんし、外国語の文章を日常的に読んでいるわけでもありませんが、そんな私でも面白く読めました。文章を書いたり、編集関係の仕事をしている人には役立ちそうなところもあるかもしれません(ただ、私は編集業に転職したばかりだから新鮮に映ったという部分もあるかもしれない)。

 自分の仕事と近接する、別業界の仕事の入門書を読んでみるというのは、少し世界が拡張される感じがあって面白いですね。

 

2位 お金のむこうに人がいる

 こちらも、著者が登壇する読書会がきっかけで読んだ本。「予備知識のいらない経済新入門」と帯に書かれているだけあり、比較的すんなり読めました。

 政府の役割やお金の仕組みなど、シンプルなことが丁寧に解説されています。

 クイズも多く平易な文章で書かれていて、中高生くらいのお子さんでも読めるかもしれません。

 特に新鮮だったのは、最後の章の「年金問題」や「少子高齢化」についてのくだり。なるほど、そういう考え方があったか……! と思わせられました。

(読書会のときのメモを書いたノートが今手元にないので、見つかり次第、もう少し内容を追記します)

 

1位 ヤバい選挙

 とにかく面白くて一気読み。紹介されてる事例がどれも、滑稽だったりドラマチックだったり非常に人間臭く、ドラマ化や漫画化との相性が良さそうなものばかりだと思いました。

 この本を読んだのは、2021年7月。下半期に突入したばかりでしたが、「あ、今年後半のNo.1の本はこれになりそう」と思ったくらい。読み終えるのが惜しくなるくらい面白い本だと思いました。

 滑稽なエピソードも多いけど、著者による揶揄などはなく丁寧な筆致にも好感が持てます。

 政治団体名を自分の名前にしている人がいたのには笑ってしまったり、死んだ男が立候補した件については結局よくわからないところもあったり、へたな小説よりよっぽど面白いです。桑絹村の大量立候補事件も、若者からおばあさんまで立候補することになったなんて、ある意味すごく多様性に富んでて先進的かも、なんてことを思ったり……。

 また、大学では地理学を専攻していた私としては、参考文献として学術雑誌「人文地理」が引用されているのも嬉しかったです。

 

 ちなみにこの本は、はてなブロガーの、id:actin 氏の著書だそうです。ブログでの発信がもとになっているそうです。

actin.hatenablog.com

 

 そういえば。すでに何度か書いていますが、昨年2021年は、友人知人の「初の著書」がたくさん出た年でもありました。

 本を出している友人はこれまでもいましたが、仲の良い友人たちが、こんなにも同時期にデビューするのはとても珍しいパターン。

 せっかくなので、2021年発売の友人知人のデビュー本、一挙紹介します。

 

4月14日発売

 

8月30日発売

 

9月3日発売

 

10月8日発売

 

12月3日発売

 

12月14日発売

 

12月21日発売

 

 みんなすごい!

 

 特に感慨深いのは、大学の文芸サークルの同期であり、はてなブロガーとしてもおなじみのベンジャミン・クリッツァーが出版したこと。

 また、ベンジャミンと私の共通の友人である青野浩さんの翻訳した本も同じくらいの時期に出版され、2人の出版記念を友人たちとお祝いできたのも良い思い出です。

 あとは、雨宮純さん、川口美樹くん、本園大介さんは、2015〜18年頃に開催していた「もうやん文京」というミニ講義イベント繋がりでもあるので、そこから3人も同時期に商業出版デビューというのはびっくり!

(雨宮さんと私が知り合ったのは2013年、全く別のコミュニティで、2016年頃にもうやん文京に誘ったところ雨宮さんのプレゼンが面白くて大好評だった……という経緯があります)

 私もみなさんの才能にあやかりたいところです。

 そんなわけで、本年もよろしくお願いします。

 

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