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この本がすごい!2024年上半期

 毎回恒例の「読んでよかった本」、2024年上半期に読んでよかった本の、小説やコミック以外のものを紹介したいと思います。

 

10位 山の突然死

   Kindle Unlimitedに入っていたので読んでみました。このシリーズを読むのはおそらく7年ぶりくらいですが、「本当にあった話」「登山のスリル」というハラハラ感と、登場人物がこれから亡くなる切なさ、どちらも感じて切なくなりました。

 山での突然死の事例について、著者が取材したさまざまな方々のエピソードが収録されています。1話目、真理さんは本当は友達も多い人気者なのに、夫の住む町に来てからうつ病で太ってしまったというところも辛い。チョモランマでの大田さん、なんて多才でパワフルでエリート一家なんだと凄さに胸を打たれたものの、彼女は今も家族のもとに帰れていないのを考えると、幸せって何だろう……と思う部分も。

 そしてこの本、やや校正が甘いと感じた部分があったのと、「行なう」表記なのが気になりました(笑)。

 

9位 女の子よ銃を取れ

 2016年に40歳で亡くなられたライター・雨宮まみさんのエッセイ集。約10年前に書かれたものということもあり、著者のファッションへのこだわりから、ファッションがアツかった時代を懐かしく感じたり、女性へのメイクや美意識についての圧力についての描写には少し時代を感じました。

「私は誰もがみな美しいとは思っていません。けれど、美しくあろうとする人には、美しさへの道はいつでも開かれている」のくだりが心強い。

「好きな服を堂々と着るべき」みたいな言説も増えている昨今、「好きな服を着て良いじゃないかと思っても、いざ映像を観てみたら耐えられなかった」という本音も魅力的。また、海外旅行でのくだりも印象的。ちょうど私の友人が、旅先で出会った素敵な中年女性たちについてまとめた同人誌を出したばかりということもあり、併せて読めて良かったな、と思いました。

 

8位 試験に出る現代思想

 近所の書店で行われていた読書会の課題図書となったので読んでみました。思想・哲学の本は、学生時代〜25歳くらいまではたまに読んでいましたが、最近はあまり読まなくなっていたので、ちょっと懐かしい気持ちで読みました。

 この本はタイトル通り、センター試験などの「試験問題」を切り口にして、思想家のそれぞれの考え方についてを紹介している本(該当する思想家の過去問がない場合、著者が問題を自作しているものもあります)。

 自分でも、解いてみながら読んでみました。結構正解できて嬉しかったな。

 

7位 こじらせ女子の日常

 現在は活動休止中のライター・北条かやさんによる、約9〜10年前のコラムの本。「女子力」についての話題なんかは時代を感じました。「同棲」についても、今とは世間の価値観は大きく違う印象です。そういう点が面白く読めました。

「ミスコン」に関しては、この本では批判の点がそもそもズレてるように思えました。また「英語ができる女」への男の嫉妬の話題は興味深い。

 個人的に一番共感できたのは、痴漢についての「タダで触られる悔しさ」のくだり。後半の、内なる女性嫌悪を呼び覚まされる感覚とか、赤裸々な感情の発露も刺さる部分があった。家族と性愛をテーマに活動する文筆家・佐々木ののかさんのエッセイを思い出す部分があるなぁと思いました。

 

6位 センス・オブ・ワンダー

 こちらも、読書会の課題図書となったので読みました。前半はレイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」で、後半は訳者による、その「続き」となるエッセイ……という、珍しい構成の本。

 後半のエッセイは、自然やそれを受けての感情の動きについての描写が、まるで合唱曲の歌詞を読んでいるかのような気分になりました。私も京都に住んでいたことがあるので、賀茂川が出てくるのも懐かしい。そして、こんなにも自然豊かな子育てっていつの時代の思い出なのかな……と思ったら、著者(というか訳者)は私と3歳ほどしか年が違わなかったので驚いてしまいました。

 この本は、子育てしてから読んだら、また違った読後感になるのかもしれないな、と思いました。

 

5位 10人のワケありな風俗嬢たち

 別の本を探していたときにこの本がヒットし、気になったので読んでみました。

 おそらく著者が取材をしたのは10年ほど前ということもあり、随所で時代を感じる要素がありました。紙の風俗雑誌が出てくるところとか、「逆デリ」「ホモデリ」という単語が出てくるところとか。時代もあってか、当時の30代くらいの嬢は援交経験も多いのも印象的でした。騙されて「ちょんの間」で働くことになった女性については、その手法もちょんの間の実態も全く知らない世界だったので、興味深く読んでしまいました。

 一番印象深いのは、キャストから経営側に回った女の子のエピソード。店ごとの「ブランド」についてのくだりや、「応募者の受け皿を広げるために、店を広げた」姿勢が印象に残りました。

 

4位 人は、こんなことで死んでしまうのか!

 今年、最寄駅にできたばかりの無人書店で見つけ、軽い読み物として面白そうと思い購入しました。

 事件や事故ネタは好きなので興味深く読みました。しかし「◯◯で死ぬ」とはいっても、その◯◯直接の要因ではないケースも多く、「死」は複合的な要素でできているんだなと実感。

 ちょうど、同時期に安楽死についての本も読み始めていたので、最後に安楽死のエピソードが出てきていたのも印象的でした。最後の、医者としての著者の憤りには、なるほど、と納得。

 

3位 引きこもりでポンコツだった私が女子プロレスのアイコンになるまで

 女子プロレス団体「スターダム」の1期生であり王者でもある、岩谷麻優選手のエッセイ。今年、彼女の反省が映画化されたこともあり、読んでみました。

 スターダムは、以前、朱里選手の自伝も読んだことがあるのですが、この本は朱里の自伝とは違い、本当にフランクな書き方で「誌面インタビュー」といった感じの一冊でした。麻優がスターダム1期生なのもあり、本の中でもスターダムの歴史そのものにたくさん触れていて、そのような、ある程度「文脈が分かっている人」向けの本という印象を受けました。タイトルには「引きこもり」という言葉も含まれているものの、この本はあくまでも麻優やスターダムやプロレスのファン向け、というか。

 私がスターダムを初めて観たのは2022年秋で、この本が出たのは2020年夏なので、この本に出てくる人は知らない名前も多くありました。特に、「世Ⅳ虎(よしこ)事件」で知った安川惡斗選手の経歴にはショックを受けてしまいました……。そして木村響子さんの名前のほか、花さんの名前が出てきて、本の中ではどう書かれるか気にしながら読みました。

 

2位 妻はサバイバー

 本を検索していて偶然見つけ、概要が気になったのとレビューが高評価なものばかりだったので読んでみたら、一気に引き込まれてグイグイ読んでしまいました。

 しかし、この妻の言動にはとてもイライラしてしまいました。豊隆さんはそれで大丈夫なのかな、と、本を読みながら著者のことが勝手に心配になってしまうくらい。卑近な言葉で言うなら、究極の「理解のある彼くん」だと思いました。

 著者は私より20歳年上ですが、これが現代の、私と同世代の夫婦の出来事なら、普通に離婚だったかも知れないな……と思いました。

 本の中では、精神疾患やトラウマについての専門家・松本俊彦、宮地尚子先生たちの著書も引用されているのは頼もしく感じました。トラウマの根深さを垣間見た気がする一冊です。

 

1位 累犯障害者

 オンラインの記事か何かでこの本を知り、4年ほど積読していたものの、ようやく読みました。もっと早く読めば良かった、という気持ちと、障害者グループホームの件が話題になったタイミング(※2024年2月頃)で読めて良かったかも、という気持ちになりました。

 さまざまな「障碍者と犯罪」のエピソードがあり、群像劇の物語のように思えたけど、現実なんだよな……と苦しくなりました。

 特に印象的だったのは、浜松の不倫殺人。手話に種類があることを初めて知りました。また、手話の違いにより教育にも影響があったということや、それにより登場人物の倫理観もいわゆる「普通」とは違い、まるでSFの世界観のようでした。終章の終わり方、とても切ない……。江川紹子さんの解説の最後の一文も好きです。

 また、著者の前職と育った場所からは、私の父とも共通する要素があり親近感を覚えました。