これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

書評バトルの観覧に行ってきた

 ビブリオバトル火付け役の先生がいる大学の出身。ブームになっていくさまもSNSで見ていましたが、きちんとしたビブリオバトルはじつは観覧したことがありません。そんな私です。

 

 ある日のこと。小学館からのメールマガジンで「大学対抗 書評バトル」の観覧者の募集を知り、申し込んでみたら当選。

 8月12日(日)、書評バトルの観覧に行ってきました!

 

 会場は小学館ドラえもんが目立ちます。

 

hon.booklog.jp

 この書評バトルは、小学館の「P+D BOOKS」というレーベルから出ている昭和文学を対象に、各大学の文芸サークルの代表が登壇してプレゼンを行い、「最も読まれたくなった本」の投票を行い優勝者を決める……という企画。

※いわゆる「ビブリオバトル」と近いですが、ビブリオバトル公式ルールに則ったものではないので、その名称は使っていないものと思われます。

 

 今回紹介された本は、

1.立教大学 加藤能(ちから)さんによる紹介

  倉橋由美子『アマノン国往還記』

2.慶応義塾大学 末永光さんによる紹介 

  福永武彦『草の花』

3.明治学院大学 小野朝葉さんによる紹介 

  福永武彦『夢見る少年の昼と夜』

4.早稲田大学 伊藤詩緒さんによる紹介 

  三遊亭圓生『噺のまくら』

5.東京大学 山川一平さんによる紹介 

  河野多恵子『蟹』

の、5作品。

 

 どの本も(というか、どの作家も)私は読んだことのないものばかりでした。

 それぞれのプレゼンの概要と感想を簡単に紹介します。

 

1.立教大 加藤さん『アマノン国往還記』

P+D BOOKS アマノン国往還記

P+D BOOKS アマノン国往還記

 

「えー、私は今回の登壇者の中では一番、応援に駆けつけてくれた人が少ないと思います」などと、自虐風の自己紹介で会場を湧かせていました。「性欲の強い宣教師が出てくる」「途中から宗教論の話になるけど、これがかなりガチ。大学のレポートでパクってやろうかと思ったくらい」などのくだりが印象的。また、「この本が出たのは、男女雇用機会均等法が施行された直後の1989年。そんな中でこの作品を出した著者は保守的なのかも」「今だったらポリコレ棒で叩かれるような内容だけど、これを復刊させようと思ったP+D BOOKSはすごいと思った」など、主催側に対する言葉を向けていたのも面白かったです。

 また個人的には、加藤さんご本人の雰囲気や話し方が、私の大学時代の文芸サークルの後輩にいそうな感じがあったので、そのあたりにも懐かしさを覚えました。

 

2.慶応大 末永さん『草の花』

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

 

 先ほどの加藤さんとは違い、落ち着いたプレゼン。結核療養のためにサナトリウムに入院している主人公が出会う人物の、愛の物語……という内容のようですね。作者の福永武彦も病弱だったようで、そのような背景もある上での作品のようです。今回紹介された本の中では、もっとも「昭和文学」っぽそうな作品だなと思いました。

 末永さんは、この作品について「60年以上も前の本なのに、同性愛も異性愛も出てくるところが印象的だった」「この時代にそのような話を書いた福永武彦はすごい」という旨の話をしていました。

 

3. 明学 小野さん『夢見る少年の昼と夜』

P+D BOOKS 夢見る少年の昼と夜

P+D BOOKS 夢見る少年の昼と夜

 

  書評バトル開始前、プレゼンター紹介のときに全員の名前が呼ばれましたが、小野さんは名前を呼ばれたときに「よろしくお願いします!」と、はきはきと挨拶していて印象が良かったです。

 そんな小野さんが紹介していたのは、先ほどの末永さんに続いて福永武彦作品。14作の連作短編集ということで、短編集好きな私は興味を持ちました。少年の、空想と現実の揺れ動きを描いた作品、のようですね。このプレゼンまでの段階では、私が最も読みたくなったのはこの本でした。

 

4.早大 伊藤さん『噺のまくら』

P+D BOOKS 噺のまくら

P+D BOOKS 噺のまくら

 

  耳元で揺れているイヤリングと、素敵なワンピース姿が印象的な伊藤さん。落語好きな私はこのプレゼン、ちょっと楽しみでした。

「まくら」と呼ばれる、落語の冒頭の小噺を収録したエッセイ集。このテの本は、私は柳家小三治『ま・く・ら』しか知らなかったので、ほかにもまくらの本を出している噺家さんがいることを知れたのも良かったです。まくらについて、イチから創作する人もいるというのは初めて知りました。(私は落語の噺そのものへの興味はありますが、あまり落語家については詳しくないので……)

 また、プレゼンターの伊藤さんは、「大学の授業の中で落語に触れる機会があり、それで落語を好きになった」とのこと。私も落語に興味を持ったのは大学時代で、4回生の頃は落語研究会の寄席に行ったりもしていたので、その点も親近感を覚えました。というかこの書評バトルもそもそも「落語」っぽい存在かもしれない……!

 

5.東大 山川さん『蟹』

P+D BOOKS 幼児狩り・蟹

P+D BOOKS 幼児狩り・蟹

 

  なんと、ご自身が大学院で研究している、物理の古典力学の話を始めた山川さん。東大の地震研究所というところにいらっしゃるそうです。

 どこで、河野多恵子「蟹」の話になるのかと思いきや、「自然は人間のように計算はしていない」という話から、小芝居混じりで本の内容に入っていきました。

 この本は、1963年の芥川賞受賞作で、海岸で蟹を探し求める子どもと過ごす主人公の心情を描いた作品とのこと。

 全体的に、上手なプレゼンでした。余談ですが山川さん、私が以前よく交流していた、文学研究をしている年下の友人と雰囲気が似ていたので、その点も印象に残りました。

 

 

 さて、プレゼンが終わり、投票の時間です。

  私はかなり迷った末、『噺のまくら』を紹介していた伊藤さんに入れました。

 

  プレゼンのあとは、若手新人作家の鳥海嶺さんによる書評プレゼンと、中学生作家・鈴木るりかさんのトークショー

 鳥海さんは、遠藤周作『決戦の時』の紹介をされていました。『深い河』など、遠藤氏のほかの本もそうだけど、読み終えたときに問いかけが残る」とおっしゃっていたのが印象的。

 

 中学生作家の鈴木るりかさんは、図書館の近くに住んでいたためもともと読書が大好きで、小4で小説を書き始めた模様。昭和文学も好きなようで、色川武大さんの私小説に感銘を受けた。頑張りすぎなくていいんだと思えた」ということを話していました。三浦哲雄「みのむし」なども好きな作品で、短編集が好きだということもおっしゃっていました。短編集なら、私も読んでみようかな。

 鈴木さんは、今回のプレゼンで出てきた本についても、「まだ読んだことのないものもあったので、読んでみたい」とおっしゃっていました。(きっと、大半は知ってる作品だったんだろうな……!)

「もう亡くなっている文豪の新作は出ないから、ひとつひとつを大切に読んでいきたい」という言葉も印象的でした。

 

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 会場には、鳥海さん、鈴木さんの著書や、今回の書評バトルで紹介された本が置いてありました。この場での販売はしていないようでした。

 

 さて、ここでお待ちかねの、「書評バトル」結果発表!

 結果は、

 特別賞 伊藤さん(『噺のまくら』)

 優勝 山川さん(「蟹」)

でした!

  割と納得の結果です。 

 

 このような書評バトルの観覧は初めてでしたが、なかなか面白かった!

 ただ、プレゼンの「5分」って、けっこう長いなぁと思ってしまいました。本が手元にあるわけでもなく、言葉だけでのプレゼンなので、集中力が途切れそうになったところもしばしば(眠いということではないし、プレゼンがつまらないというわけでもないのですが)。

 私はここ数年、「ええやん!朝活」などの、おすすめ本紹介型の読書会に時々参加していますが、そこでのプレゼン時間はだいたい3分。席に着いたまま、手元にある本を見せながらの紹介なので、プレゼンターとの距離も近く内容も入りやすいです。こうして登壇してのプレゼンとは、だいぶ違うなぁということを感じました。

 

 また今回、登壇者の学生さんたちのプレゼンの中でも、作家さんたちのトークの中でも「今だったら炎上しそうな」「ポリコレ棒が」などの言い回しが出てきたことにも、2010年代後半っぽさを感じたりも。

 この書評バトル、コンテンツとしてなかなか面白かったので、機会があったらまた観覧したいかも、と思いました。良い休日になりました。

 

 

  余談ですが。この書評バトルについての、小学館の公式ページはこちらです。

www.shogakukan.co.jp

 記事の内容すべてに打消し線が引かれて「このイベントは終了しました」と書いてあります。うーん……。

 登壇した学生の大学名や、人の名前や作品名にまで(自社の作家さんとはいえ)打消し線を入れるのはあまり好ましい表現ではないのでは。小学館は好きな出版社なだけに、そこが今回残念。

 記事内に大きく「このイベントは終了しました」と書いておくだけでも良かった気がします。もっとスマートにアップデートできなかったのかな……。

 

さよなら、田中さん

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