忙しさと読書量ってあまり比例しないのかも、と最近思います。どちらかというと忙しさそのものよりも、「精神的な余裕の有無」が大きいような。
さて、7月恒例の「上半期読んで良かった本ランキング」、今回も行いたいと思います!
「2018年に発売された本」ではなく、この時期に「私が読んだ本」なので、古い本が入ることもあるかもしれません。
はてなブログでも、今週のお題は「2018年上半期」だそうですね。
では、いってみましょう!
10位 アスピーガールの心と体を守る性のルール
Facebookで友人が紹介していて知った本。「アスピーガール」とは、アスペルガーの女性のことを指す著者の造語。「発達障害の女性向けの、性愛関係の築き方」についての本です。しかし、アスペルガーや発達障害に限らず、女の子は特に知っておいたほうがいい内容も多く、発達障害の当事者に限らず、女児のいる家庭におすすめの一冊。
著者はスコットランド在住ということで、日本とはやや文化が異なる部分もありますが、洋の東西を問わず参考になるところは多いと思います。
女性向けということでピンクを基調としたデザインだったり、わざわざ「アスピーガール」なんて造語を使うところにあざとさや抵抗を感じる方もいらっしゃるようですが、内容やコンセプトとしてはなかなか良い本でした。細かな部分は自身でカスタマイズしていくと良いでしょう。
9位 SNSでシェアされるコンテンツの作り方
SNSでのシェアやバズについて、体系的にまとまったものを読みたいな、と思い、大型書店でじっくり探して選んだ1冊。
Webメディアは変化が激しく、仕様や流行も変わりやすいため情報の鮮度には注意が必要ですが、2018年現在、この本は使えます。メディアごとの効果的なアプローチ方法の違いやブランディングについて、(そこまで目新しさがあるわけではないものの)丁寧にまとまっていたり、分析の参考になりそうなサービスもたくさん紹介してあって良かったです。あと個人的には、随所に出てくる例が好みでした。
8位 死神の浮力
なぜかここ最近、かつて読んだ伊坂幸太郎作品を再読するのにハマっています。 『死神の精度』 を10年ぶりに再読したあと、「そういえばこれって、続編も出ていたんだっけ」と思い『死神の浮力』も読むことに。
淡々とした死神の千葉と、娘を殺人事件で亡くした山野辺夫妻。どう考えても合わない組み合わせだよどうなるんだ……と思いながら読み進めました。千葉の言動にハラハラしながらも、アクションシーンも多く、先の読めない展開だらけで面白かったです。一番好きなシーンは、宅配弁当の店での意外な人物と再会するところ。終盤は、現実離れした展開と伏線回収があまり好きではないかも……。総評としては、前作のほうが好きです。面白かったし、連作短編集だったので間延びすることもなくて良かったです。
前作の『死神の精度』は、ドラマ「ロス:タイム:ライフ」を思い出しましたが、今回の作品は、伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』や、湊かなえ『告白』っぽい印象も受けました。
死神である主人公・千葉は、1000年ほど生きているという設定。歴史ネタもたまに出てきますが、千葉を主人公にした歴史小説も読んでみたくなりました。参考文献になっていた『良心をもたない人たち』は私も読み途中。
7位 すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』に登場した風俗店「レズっ娘クラブ」の代表が書いたエッセイ。大阪のお店だそうで、立ち上げた経緯やこれまでのトラブルなどのエピソードが書いてあり、興味深かったです。起業家のエッセイとしても面白く読めました。
余談ですが。去年、レズ風俗店を利用したことのある女性の話を聴く機会がありました。その人が利用したところは「普段は男性向け風俗店で働いている女の子が、依頼があったときにレズ嬢として出勤する」というものだったようで、利用してみた満足度はそれほど高くはなかった模様……。
この本の著者が経営する「レズっ娘クラブ」は、そういう店とはまったく異なるようです。実際に「レズっ娘クラブ」のサイトも見てみましたが、お客様もキャストも大切にする気持ちが伝わってきました。
この本の表紙、『~レズ風俗に行きましたレポ』の著者の、永田カビさんによるものなのも良いです。永田さんはこの店を利用して救われて、お店も永田さんの漫画で話題になって。両者にとって喜ばしい出会いだったんでしょうね。
6位 死香探偵
「化学探偵Mr.キュリー」シリーズが好きだったので、同じ著者のこの本を読んでみました。こちらも素直に面白かった! これはミステリーというだけでなく、ある種のSF(サイエンス・フィクション)とも定義できるかもしれません。特殊清掃のアルバイトをしている主人公が、独特の体質をきっかけに事件解決に駆り出されてしまう連作短編集。電子書籍の、中央公論新社のキャンペーンの時に買いました。
余談ですが、作中に「腫瘍マーカーでの診断のビジネス」が出てきます。これは確か、友人の友人が行なっていたはず。科学が専門ではない私もニヤリとしてしまいました。
BLっぽい、というレビューもありましたが、著者はそういう狙いで書いてるのかな、と思えるシーンは確かに多いです(笑)。この著者の本は、この本やMr.キュリーシリーズは「イケメン、いい男な研究者」が出てきますが、別の本では「女性の美人な研究者」がヒロインになっているものもいくつもあります。個人的には、そのあたりのバランスも良いなと思っています。
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5位 星降り山荘の殺人
「猫丸先輩シリーズ」きっかけで倉知淳作品を読むようになりました。この本も、とにかく展開が気になって一気読み。あぁ、人が死ぬ話はやっぱり好きじゃない……読後感はやっぱり苦みと重みを感じる……けど、それでも面白さは否定できないし、この作者のミステリーは定期的に読みたくなります。
この本を買う前にレビューも軽く目を通しましたが、そこでも強調されているように、これは「1996年の作品」だということを念頭に入れておくことは大事だなと。個人的に、携帯電話普及の手前の時代の作品は好きなので、その点も好みでした。冬の作品なのに、初夏に読んでしまったのはやや悔やまれました。
登場するキャラも、みんな良くも悪くも個性的。(誤解を恐れずに言えば、私が今年や一昨年に開催した自分の誕生日会、あのときに集まってくれた人たちの個性の豊かさを思い出しました)
私はこの本はhontoの電子書籍で読んだのですが、電子版だと解説が割愛されている本も多い中、この本はしっかりと解説も収録されていて嬉しかったです。
まぁ、なんだろう。著者の作品では、人が死ななくなってからの猫丸先輩シリーズがやっぱり一番好きかな。「シュークリーム・パニック」のような短編も嫌いじゃないけど、あまり大幅に展開が揺さぶられる作品は読む気分を選んでしまいます。ミステリーって、苦みを感じるタイプと感じないタイプがありますが、これは前者ですね。
小説といえば、この物語の作中に出てくる作家が書いている作品のモデルとなったような小説レーベルは私も好きだったので、その点もニヤリとできました。
4位 風俗嬢の見えない孤立
去年、「建築×都市×インターネット」というトークイベントで著者のことを知り、その真摯な姿勢に好感を持ち、著書を読んでみました。
すごく良かった……! 電子書籍で読みましたが、限度いっぱいまでマーカーをつけてしまいました。
著者の仕事は、風俗業から卒業する女性への、昼間の仕事への就労支援。性風俗サービスは体力仕事なので、40代になると(需要の有無以前に)肉体的に大変らしく、そこから別の仕事への再就職を支援する仕事をしているそうです。
「女性の貧困」「売春せざるを得ない女性の実態」についての本というと、鈴木大介『最貧困女子』が一時期話題になりましたが、あちらはやや下世話な好奇心を煽るような部分があったのに対して、こちらはゴシップ的な描写はほとんどありません。
性風俗業従事に限らず、「他人に知られたくない過去がある人」「社会との接点が少なく、孤立しがちな環境にある人」について考える際に、とても示唆に富む本でした。
印象的だったのは、学費のために風俗で働く女子学生が同級生にバレてしまい、学校を辞めることになってしまった……という事例。どのような対応ができていれば彼女は学校を辞めるようなことはなかったのか? それについての著者の答えは、とても希望を感じました。働き方改革、パラレルキャリアの文脈からも学べる部分があります。
「どんな状態からでも、望めば『次』へ行ける社会へ」
「“どんな過去を持っている人でも受け入れる”ということを目指すのは大変だけど、“他者に、いちいち過去の開示を要求しない人”になら今すぐになれる」という著者の主張、とても励みになります。「未来」について目を向けていくための本でした。
3位 殺人犯はそこにいる
殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―(新潮文庫)
- 作者: 清水潔
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/11/18
- メディア: Kindle版
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一気読み。著者の『桶川ストーカー殺人事件』も読みましたが、この本もまた著者の行動力、想い、ジャーナリズム精神が伝わってきます。映像が浮かんでくるような「魅せる」筆致でぐいぐい読まされました。一部の書店では、この本を「文庫X」として中身を見せずに売り出したキャンペーンも行っていましたね。「多くの人に読んでもらいたい」と言った書店員さんの気持ちはわかる気がします。この本は衝撃的でした。
冤罪の可能性が高い「飯塚事件」の存在を知ってしまったことにも胸が苦しくなりました。同じく冤罪だった「免田事件」の免田さんが、タクシーで運転手にカマをかけて質問したシーンにも衝撃。フェイクニュース、忘れられる権利なども近年話題になったりもしましたが、国家権力が放った情報はいかに重いのかということを痛感させられます。
これまで、私は事件はいろいろ追っていましたが、冤罪には正直あまり関心はありませんでした(もともと、防犯目的で事件を調べるようになったので)。冤罪への関心も高まった一冊でした。
また、この「北関東連続幼女誘拐殺人事件」そのものも、著者はかなりのところまで犯人の目星をつけているようで、そこまでたどり着いた著者の執念にも、胸を打たれました。
2位 県庁そろそろクビですか?
県庁そろそろクビですか? 「はみ出し公務員」の挑戦(小学館新書)
- 作者: 円城寺雄介
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/02/05
- メディア: Kindle版
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地元が同じ、そして私の大学の先輩にもあたる円城寺さんの著書。父が絶賛していたので読みました。著者の功績としては、県内の救急車にiPadを導入し、搬送先の病院の状況を「見える化」したことで搬送時間を短縮したことなどが挙げられます。
「すごい県庁職員」だということは前から耳にしていましたし、救急車へのiPad搭載の話も講演で聴いたことがありましたが、その裏側の熱意が伝わってきて面白かったです。
正直、中盤までは比較的地味な仕事のエピソードが多くなかなかハマれませんでしたが、救急車のくだりからとにかく面白くなり一気読み。実直な姿勢が伝わってきます。
終盤、「スーパー公務員」をもてはやす風潮に疑問を唱えているところは、(私が思うところの)意識高い系批判のようにも読めて共感できました。
特に印象的だったのは、本の終盤のこのくだり。
変革者は物事を変えるだけの人間ではない。変えるということが目的ではなく実現したい理想や未来に近づけるために、たまたま変えるという手段をとったにすぎない。
「これまでやってきた前例や既存の制度を頭から否定してはいけない。たしかに時代に合わなかったりおかしいところもあるかもしれない。しかし、それもこれまで先人たちが汗と涙でつくり上げてきた積み上げなのだ。それは経験や教訓の塊であり、過去すべての人たちがより良い社会を生きたいと血のにじむような努力をしてきた願いや祈りなのだから、まずはしっかりと前例や既存制度を学ぶこと」
どのみち定石を学ばないと矛盾点や変え方もわからない。前例はこれまで多くの人が試行錯誤し失敗を繰り返しながらやってきた尊い先人たちの知恵だと思えば学ぶべきところもたくさんある。(中略)前例を学ばず頭から否定することは思い上がりであり、これまでそのことに尽力してきたすべての人の努力や願い、汗と涙を踏みにじる行為だと私は思う。
この本、タイトルもいいですよね。「はみだし公務員の奮闘記」のようなタイトルにはせず、「クビですか?」なんて入れてしまうセンスも素敵です。
コミカルなエピソードも結構あるので、漫画化されたら面白そう。映画化とも相性が良さそうです。
1位 仕事と家族
仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書)
- 作者: 筒井淳也
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2015/08/14
- メディア: Kindle版
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読み始めたときから、「あぁ、これは名著の予感がするぞ……ページをめくるたびにマーカーや付箋をつけたくなってくる……(電子書籍の)マーカー数の制限に気を付けなければ」と思いながら読んでいた一冊。
読み途中の『結婚と家族のこれから』という本で著者のことを知り、中央公論新社のキャンペーンの時にこちらを買いました。
昨今、「非婚出産や事実婚、シェアハウスでの育児、ポリファミリー」など「既存の枠にとらわれない家族・パートナーシップ」を考える人たちや、「複業やパラレルキャリア、フリーランス、ノマド、リモートワーク」など「雇用関係にとらわれない生き方・働き方」を推奨する人たちなどの意見を目にする機会も増えています。
そのような、“新しい”パートナーシップ/働き方について、「日本は遅れている」という主張もたまに見かけることも(前者だとフランスや北欧、後者だとアメリカや中国が引き合いに出されることが多いイメージ)。
また、「これからの新しい働き方」「既存の枠にとらわれない家族構築」などの事例や主張はいくつも見てきましたが、この両者を絡めて話す人はあまり見たことがありません。(有名どころだと、「しょぼい起業をして、出会って2週間で雑な結婚をし、お金のかからない子育てをしている」えらいてんちょう氏くらいでしょうか)その点からも、この本の存在はありがたいものでした。
この本はタイトル通り、「仕事や働き方」と「家族や育児」の両方について、日本や諸外国のデータを用いて「なぜ、このような現象が起こっているのか」「どの国が日本のお手本となりうるか」などを丁寧に考察しています。
一部、「このデータからこの結論を出すのは少々性急すぎないか?」と思えた箇所もありましたが、全体的には「日本はこうなっていくべき」論は最小限に留めている印象。あくまでも「この本やデータを使ってどのような合意形成を築いていくべきか」ということを考えるための本という印象を受けました。
北欧4ヶ国は、東アジアやヨーロッパ主要国と比べて高い男女平等が実現できてはいるけれど、そのかわり「男は民間企業、女は公務員」という職業の性別分離が目立っていたり。アメリカに代表される「小さな政府」の国と、スウェーデンに代表される「大きな政府」の国では、正反対に見えるけれどどちらも出生力も女性労働力参加率も高いという特徴があったり。勉強になる内容が多かったです。
正直、この本は一回読んだだけでは咀嚼しきれていない部分もあります。統計データや数字も多く、「誰にでも読みやすい本」とは言えないかもしれません。ただ、学ぶところ、もっと知っていきたいことはたくさん出てきました。
私が去年このブログで紹介した『日本で働くのは本当に損なのか』とも近い部分があるなと思いました。
以上が、この2018年上半期での「読んでよかった本、印象的だった本」のランキングになります!!
それにしても。タイトルに「風俗」「死」「殺人」が含まれる本が複数冊ずつ入ってしまいましたね……。
別に、いわゆるエログロが好きなわけではなく、あくまでもセクシャリティや福祉、事件ルポ、ミステリー小説への関心の表れであることをここにお断りしておきます。
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