これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

君の脚をたべたい

 2014年頃、平田さん(id:tomo31415926563)と京都で話したときのこと。

「変わった肉、珍しい肉を食べたことはありますか?」と私が尋ねたら、「おっぱい募金は行ったよ」との返答がありました。

 まぁ、たしかに「珍しい肉」の話ではありますね……。

 

 

 いきなり話は変わりますが、私がこの夏から部屋に飾っているのは、友人の手作りのドリームキャッチャー

ドリームキャッチャー」とは、アメリカインディアンのあいだで幸福のお守りとされている装飾品で、「良い夢を捕まえる」とされているもの。

 クラウドファンディングのリターンです。病気のために足を切断した友人の義足代として、私は50ドル寄付しました。

 自室の窓辺に飾っています。 

 

 先日、このひととシェアハウスでの食事会で会いました。

 義足や脚の話になったとき、

「切断した脚、平田さんが食べたいって言ってたんだよね」

という、衝撃的な話を聞きました……!

 

 切断した友人の脚を食べる……!?

 その発想はなかった……。

 でも確かに、ただ切除して焼却してしまうよりはいいアイデアかもしれません。

 私も、もしじぶんの身体の一部が使えなくなったり、死んでしまったりした場合は、ただ焼却するよりはなるべく有効活用して欲しいなと思います。臓器移植とか、植物の肥料にしたりとか……(現在あるいは将来的な法律問題、そしてじっさいの損傷状態として、そういうことができるのかは不明ですが)。あ、でもヒグマの餌はイヤだな。人肉の味を覚えさせたくないから。

 

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 しかし今回、結論から言うと、脚を食べることはできなかったとのこと。

 切断した脚を食べることは、器物損壊になるそうです。

「器物損壊!? 脚の持ち主の許可があってもダメなの?」

「切断した脚に手を加えることが問題なら、髪や爪を切ったりするのはどうなるの?」

と思ったのですが、

「髪や爪は、死んだ細胞をぶら下げていることになるので、それを切るのは違法ではない」とのこと。

 

 でも、ひとの髪を勝手に切ったら傷害罪になると聞いたこともあるし……。

 ひとの身体の権利って不思議。

 じぶんの身体であっても、意外と自由には取り扱えない部分は多いのかもしれません。

 

 ……というか、思い返してみればけっこういろいろありますね。身体についての自由と制限。

 売春や安楽死、嘱託殺人や自殺ほう助、臓器売買など法的な重い話から、タトゥーによる入場制限、学校や職場での染髪・ピアス・ネイルの制限など卑近なローカルルールの話まで、「身体とルール」にまつわるエピソードはあれこれ思いつきます。

 

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 ちなみにこの友人のケースでは、脚は焼却することになったとのこと。

 このとき、私と一緒に話を聞いていたひとたちが、口々に「遺骨はどうなったの?」と訊いていたのがちょっと印象的でした。

「死んでないんだから、遺骨じゃないよ」と苦笑まじりに友人は訂正していました。「焼骨」が正しそうですね。

(この夏、世間では元死刑囚の遺骨の扱いについて問題になっていたこともあり、「遺骨」のほうが馴染みのある表現なので、口をついて出てきたんでしょう)

 

 焼骨がどうなったのかというと。持ち帰るのにも3万円かかるということで、「それならいいです」と、友人は持ち帰りを断ったそうです。

 身体の持ち帰りにお金がかかる……!?

 これも衝撃的でした。

 お金を取ることは、きっとそれなりの合理性があってのことなんでしょうけど、もとは自身の身体だったものについて「返してほしいならお金を」って、まるで人質(?)みたいで妙な感じがしました……。

 

 身体の扱いについてのルールって、思っている以上に奥が深そうです。

 病院や地域自治体によっても違いはありそうですし、時代や国、宗教規範等の違いによっても大きく異なりそうですよね。他の文化圏の事例についても気になりました。

 

※ここでは聞きかじった話を書いているだけですので、じっさいに法律がどうなっているのかの正確性は担保できません。あしからず。脚だけに

 正確な情報が必要な方は、専門的なところで調べてみてくださいね。私も気になる。

 

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

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身体をめぐるレッスン〈1〉夢みる身体

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虫食文化と公園と

※写真は載せていない記事です。虫が苦手な方も、よかったらぜひお読みくださいませ。

 

 これまでに何回食べたかなぁ、と数えてみたら。2016年は3回、2017年は4回、そして2018年は1回だけ食べていたようです。

 え、何をかって?

 

 虫です。

 ミルワームやコオロギ、食用ゴキブリなども食べましたが、意外とおいしいのはセミ

 

 さて、そんなセミですが、先月、こんな記事が話題になりました。

www.asahi.com

www.j-cast.com

 虫食界隈をはじめ、この看板には抵抗を示す意見も多かったように思います。

 この件について、けっこういろんなことを考えさせられたので思ったコトをまとめていきます。

“虫食は気持ち悪いから”禁止?

 まず気になったのは、

「虫食は気持ち悪いから、という理由で禁止しているようにしか思えない」「異文化の否定だ」という意見がいくつも見受けられたこと。

 少なくとも、「気持ち悪い」や、それに類する文言の記載は記事にも看板にも見受けられなかったので、私はそのようには全く思いませんでした。なので、そういう読みをする人がいることに、むしろ驚きました。虫だけに

 

 たとえば、みかんやりんごの木の近くに「食べないでください」という看板があった場合、「果実を食べる文化を否定している!」と憤る人にはお目にかかったことはありませんし……。

 また、果物とは違い、セミはその場で生で食べるひともまずいないと思うので、「虫食文化が気持ち悪いから」というのは、あまり大きな要因ではないと思っています。

 なので私は「異文化の否定だ。そうとしか思えない」という主張は少々極端では。(そんなこと書かれていないし……)というのがまず思った感想です。

 

「書かれていないことを読み取る」ことについては、芸術批評のほか、フェミニズムジェンダー絡みの話でもたびたび論争になっていますね。

「そんなことどこにも書かれていないのに、これは性的にまなざしている/差別/搾取だと勝手に読み取って騒いでいる輩がうるさい」「こんなの今どき普通なのに、性的だと怒るほうこそが性的に見ている証なのでは」という意見、よく見かけます。

 

 芸術作品はともかく、社会制度や公共のあり方に関しては、私は原則として「明文化されているものベースで考えるべき」だと思ってはいますが、だからといって「書かれていないことを勝手に読み取って騒いでいるみなさんww 想像力が豊かなことでww」と煽る気にはなりません。

 これまでその文化や属性がどのような扱いを受けた背景があったのかを鑑みて、明文化されていない部分を想像することもまた必要な作業だとは思います。なので、被害妄想だと一蹴する姿勢もまた好きではなかったり。

(ただ、それを踏まえても、虫食は「気持ち悪い」と個人ベースで思うひとはいても、それゆえに文化圏単位で差別・迫害されたという話は聞いたことがないので、差別ではないと判断しました)

外国語で書いてあるのは差別?

「わざわざ三ヶ国語で書くなんて、外国人差別のように思える」という意見も見受けられました。

 うーん。そもそもここ3、4年で東京近郊では外国語表記がすごく増えた印象ありますし、この看板がある川口市蕨市は外国人も多い地域看板に外国語も表記されているのは、おかしなことではないと思いました。 

(しかし、これはちょっと面白い現象ですね。日本語onlyの看板に対して「外国人への配慮が足りない」と言うのはわかるのですが、外国語の記載があっても怒る人がいるとは)

 日本語の記載はなく外国語だけだったり、「こういう違反行為をするのは外国人」のような書き方をしていたら「差別的」と言われるのも理解できますが、「食用目的でのセミ採集を禁じる内容を、三ヶ国語で書くこと」自体は、外国人差別には当たらない気がします。

“差別”って、なんだろう

 誰かの権利が侵害されていたら、「差別」にあたる可能性は高いと思います。

 今回、虫を食べるひとの権利が侵害されている、という主張もあるかも知れませんが、公園は公共の財産でもありますよね。個人が自分の私有地で飼育して食べている場合はともかく、公共の場所での採集に関しては制限はあるのは当然かと。

 セミに限らず、そもそも魚釣りを禁止している池や、果実を捕るのを禁止している庭園はいくらでもあるでしょうし、食用目的での採集が禁じられるのはおかしなことではないと思います。

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食用だけが禁止?

 わざわざ「食用」と書いていることが気になった人もいるようですね。
魚や果実を採る人は食用がメインのケースが大半だと思われますが、セミは飼育・観察目的の人が多いので、それらと区別をするために書いたのだと思います。

「食用」のみ禁じているのは、その用途そのものというより、採集する量の多寡が問題なんだと思います。
 SNSを見てみても、子どもが飼育・観察目的で捕まえる場合はせいぜい数匹ですが、虫食をする人たちは一度に数十匹捕まえているケースが散見されます。

 はてなブックマークコメントでも指摘がありましたが、公共財と近代法の相性の悪さも、この問題をややこしくしているのではないかと思いました。
 本当は採集の目的ではなく、採集の総量が問題であったとしても、「昨日Aさんが100匹獲ったので、きょう来たBさんは採集禁止」となっては不公平ですし。それなら一律禁止も致し方ないと思います。

 

 セミは成長に5〜6年かかることを考えると、大量に獲られてしまうと生態系が崩れることへの懸念が出るのも当然でしょう。

「もともとクマゼミは埼玉にいなかったのに、今さら生態系と言われても」という意見もあるかもしれませんが、ここでの「生態系」は、そんなに厳密な意味では使われていないと思います。

クマゼミはいいけどほかのセミは禁止」などと線引きを始めるとキリがありませんし、問い合わせに対応する職員のことを考えても、「セミなどの食用目的の採集は禁止」は妥当な判断なのではないかと思いました。

 

 また、食用ということはある種の「資源」であり、「資源」を巡ってトラブルや争いが起きかねないことへの懸念も考えられそうです。

 セミの羽化は夜なので、夜に「資源」を目的に公園を徘徊するひとがいると、騒音問題の発生も考えられますね。

別の表現にすれば良かった?

 食文化の否定に繋がりかねない書き方ではなく、「草木を傷つけないで」とか「大量に獲らないで」などの表現でいいのでは……という意見もありましたが、「傷つける」「大量に」などの曖昧な表現を使わないのは、むしろ適切なのではと思いました。外国人など、異なる文化圏から来たひとが多い地域なら尚更。

 

 ここまで、この看板について擁護する意見を書きましたが、ただ確かに、セミを大量に捕まえている人がいる」という理由で通報されるのは、ちょっとよくわからないですね……。
 その通報を受けての看板設置、ということだと、たしかに、虫食をするひとへの偏見を強化してしまいかねない気はします。

「通報を受け、どのような点が問題だと判断して、看板設置に至ったのか」の記述があったらなお良かったのでは、と思いました。

 外国の食文化を否定しない・尊重することと、公共の公園での食用目的の生物採集を禁じることは背反ではないと思うので、そのあたりもうまく折り合いがつけられたらいいですよね。せっかくここは外国人が多く、異文化にも触れやすい環境なわけですし。

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 今回の件は、虫食界隈の友人が強く反応していましたが、私のまわりには空間デザイン、公共政策などについて考えている友人もいます。

 友人が以前、まったく別件での投稿で「公共空間としての公園は、単なる行政の持ち物としての施設ではない」と言っていましたが、この言葉のことも今回、ずっと考えていました。

 

 今回、看板設置からこの記事を書くまで時間があったにも関わらず、当該の公園には行けていないので、時間を見つけて足を運んでみたいとも思いました。

 

虫といえば、最近読んだこの漫画すごく面白かったです!

百合要素も虫要素も多め。絵も綺麗!(虫の絵もリアルなので苦手な人は注意) 

麻衣の虫ぐらし 1 (バンブーコミックス)

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書評バトルの観覧に行ってきた

 ビブリオバトル火付け役の先生がいる大学の出身。ブームになっていくさまもSNSで見ていましたが、きちんとしたビブリオバトルはじつは観覧したことがありません。そんな私です。

 

 ある日のこと。小学館からのメールマガジンで「大学対抗 書評バトル」の観覧者の募集を知り、申し込んでみたら当選。

 8月12日(日)、書評バトルの観覧に行ってきました!

 

 会場は小学館ドラえもんが目立ちます。

 

hon.booklog.jp

 この書評バトルは、小学館の「P+D BOOKS」というレーベルから出ている昭和文学を対象に、各大学の文芸サークルの代表が登壇してプレゼンを行い、「最も読まれたくなった本」の投票を行い優勝者を決める……という企画。

※いわゆる「ビブリオバトル」と近いですが、ビブリオバトル公式ルールに則ったものではないので、その名称は使っていないものと思われます。

 

 今回紹介された本は、

1.立教大学 加藤能(ちから)さんによる紹介

  倉橋由美子『アマノン国往還記』

2.慶応義塾大学 末永光さんによる紹介 

  福永武彦『草の花』

3.明治学院大学 小野朝葉さんによる紹介 

  福永武彦『夢見る少年の昼と夜』

4.早稲田大学 伊藤詩緒さんによる紹介 

  三遊亭圓生『噺のまくら』

5.東京大学 山川一平さんによる紹介 

  河野多恵子『蟹』

の、5作品。

 

 どの本も(というか、どの作家も)私は読んだことのないものばかりでした。

 それぞれのプレゼンの概要と感想を簡単に紹介します。

 

1.立教大 加藤さん『アマノン国往還記』

P+D BOOKS アマノン国往還記

P+D BOOKS アマノン国往還記

 

「えー、私は今回の登壇者の中では一番、応援に駆けつけてくれた人が少ないと思います」などと、自虐風の自己紹介で会場を湧かせていました。「性欲の強い宣教師が出てくる」「途中から宗教論の話になるけど、これがかなりガチ。大学のレポートでパクってやろうかと思ったくらい」などのくだりが印象的。また、「この本が出たのは、男女雇用機会均等法が施行された直後の1989年。そんな中でこの作品を出した著者は保守的なのかも」「今だったらポリコレ棒で叩かれるような内容だけど、これを復刊させようと思ったP+D BOOKSはすごいと思った」など、主催側に対する言葉を向けていたのも面白かったです。

 また個人的には、加藤さんご本人の雰囲気や話し方が、私の大学時代の文芸サークルの後輩にいそうな感じがあったので、そのあたりにも懐かしさを覚えました。

 

2.慶応大 末永さん『草の花』

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

 

 先ほどの加藤さんとは違い、落ち着いたプレゼン。結核療養のためにサナトリウムに入院している主人公が出会う人物の、愛の物語……という内容のようですね。作者の福永武彦も病弱だったようで、そのような背景もある上での作品のようです。今回紹介された本の中では、もっとも「昭和文学」っぽそうな作品だなと思いました。

 末永さんは、この作品について「60年以上も前の本なのに、同性愛も異性愛も出てくるところが印象的だった」「この時代にそのような話を書いた福永武彦はすごい」という旨の話をしていました。

 

3. 明学 小野さん『夢見る少年の昼と夜』

P+D BOOKS 夢見る少年の昼と夜

P+D BOOKS 夢見る少年の昼と夜

 

  書評バトル開始前、プレゼンター紹介のときに全員の名前が呼ばれましたが、小野さんは名前を呼ばれたときに「よろしくお願いします!」と、はきはきと挨拶していて印象が良かったです。

 そんな小野さんが紹介していたのは、先ほどの末永さんに続いて福永武彦作品。14作の連作短編集ということで、短編集好きな私は興味を持ちました。少年の、空想と現実の揺れ動きを描いた作品、のようですね。このプレゼンまでの段階では、私が最も読みたくなったのはこの本でした。

 

4.早大 伊藤さん『噺のまくら』

P+D BOOKS 噺のまくら

P+D BOOKS 噺のまくら

 

  耳元で揺れているイヤリングと、素敵なワンピース姿が印象的な伊藤さん。落語好きな私はこのプレゼン、ちょっと楽しみでした。

「まくら」と呼ばれる、落語の冒頭の小噺を収録したエッセイ集。このテの本は、私は柳家小三治『ま・く・ら』しか知らなかったので、ほかにもまくらの本を出している噺家さんがいることを知れたのも良かったです。まくらについて、イチから創作する人もいるというのは初めて知りました。(私は落語の噺そのものへの興味はありますが、あまり落語家については詳しくないので……)

 また、プレゼンターの伊藤さんは、「大学の授業の中で落語に触れる機会があり、それで落語を好きになった」とのこと。私も落語に興味を持ったのは大学時代で、4回生の頃は落語研究会の寄席に行ったりもしていたので、その点も親近感を覚えました。というかこの書評バトルもそもそも「落語」っぽい存在かもしれない……!

 

5.東大 山川さん『蟹』

P+D BOOKS 幼児狩り・蟹

P+D BOOKS 幼児狩り・蟹

 

  なんと、ご自身が大学院で研究している、物理の古典力学の話を始めた山川さん。東大の地震研究所というところにいらっしゃるそうです。

 どこで、河野多恵子「蟹」の話になるのかと思いきや、「自然は人間のように計算はしていない」という話から、小芝居混じりで本の内容に入っていきました。

 この本は、1963年の芥川賞受賞作で、海岸で蟹を探し求める子どもと過ごす主人公の心情を描いた作品とのこと。

 全体的に、上手なプレゼンでした。余談ですが山川さん、私が以前よく交流していた、文学研究をしている年下の友人と雰囲気が似ていたので、その点も印象に残りました。

 

 

 さて、プレゼンが終わり、投票の時間です。

  私はかなり迷った末、『噺のまくら』を紹介していた伊藤さんに入れました。

 

  プレゼンのあとは、若手新人作家の鳥海嶺さんによる書評プレゼンと、中学生作家・鈴木るりかさんのトークショー

 鳥海さんは、遠藤周作『決戦の時』の紹介をされていました。『深い河』など、遠藤氏のほかの本もそうだけど、読み終えたときに問いかけが残る」とおっしゃっていたのが印象的。

 

 中学生作家の鈴木るりかさんは、図書館の近くに住んでいたためもともと読書が大好きで、小4で小説を書き始めた模様。昭和文学も好きなようで、色川武大さんの私小説に感銘を受けた。頑張りすぎなくていいんだと思えた」ということを話していました。三浦哲雄「みのむし」なども好きな作品で、短編集が好きだということもおっしゃっていました。短編集なら、私も読んでみようかな。

 鈴木さんは、今回のプレゼンで出てきた本についても、「まだ読んだことのないものもあったので、読んでみたい」とおっしゃっていました。(きっと、大半は知ってる作品だったんだろうな……!)

「もう亡くなっている文豪の新作は出ないから、ひとつひとつを大切に読んでいきたい」という言葉も印象的でした。

 

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 会場には、鳥海さん、鈴木さんの著書や、今回の書評バトルで紹介された本が置いてありました。この場での販売はしていないようでした。

 

 さて、ここでお待ちかねの、「書評バトル」結果発表!

 結果は、

 特別賞 伊藤さん(『噺のまくら』)

 優勝 山川さん(「蟹」)

でした!

  割と納得の結果です。 

 

 このような書評バトルの観覧は初めてでしたが、なかなか面白かった!

 ただ、プレゼンの「5分」って、けっこう長いなぁと思ってしまいました。本が手元にあるわけでもなく、言葉だけでのプレゼンなので、集中力が途切れそうになったところもしばしば(眠いということではないし、プレゼンがつまらないというわけでもないのですが)。

 私はここ数年、「ええやん!朝活」などの、おすすめ本紹介型の読書会に時々参加していますが、そこでのプレゼン時間はだいたい3分。席に着いたまま、手元にある本を見せながらの紹介なので、プレゼンターとの距離も近く内容も入りやすいです。こうして登壇してのプレゼンとは、だいぶ違うなぁということを感じました。

 

 また今回、登壇者の学生さんたちのプレゼンの中でも、作家さんたちのトークの中でも「今だったら炎上しそうな」「ポリコレ棒が」などの言い回しが出てきたことにも、2010年代後半っぽさを感じたりも。

 この書評バトル、コンテンツとしてなかなか面白かったので、機会があったらまた観覧したいかも、と思いました。良い休日になりました。

 

 

  余談ですが。この書評バトルについての、小学館の公式ページはこちらです。

www.shogakukan.co.jp

 記事の内容すべてに打消し線が引かれて「このイベントは終了しました」と書いてあります。うーん……。

 登壇した学生の大学名や、人の名前や作品名にまで(自社の作家さんとはいえ)打消し線を入れるのはあまり好ましい表現ではないのでは。小学館は好きな出版社なだけに、そこが今回残念。

 記事内に大きく「このイベントは終了しました」と書いておくだけでも良かった気がします。もっとスマートにアップデートできなかったのかな……。

 

さよなら、田中さん

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僕の未来だった君へ

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埼玉県八潮市の「ヤシオスタン」に行ってきた

 自由が丘でカフェやショッピングを楽しんだり、上野で美術館に行ったりお酒を楽しんだり……。

 7月半ばの三連休は、あまり遠出はしなかった私。連休中に訪れたいちばん遠いところは、埼玉県八潮市の「ヤシオスタン」と呼ばれるパキスタン人が多いエリアです。

 八潮市出身の友人を含んだ5人で行ってきました!

 

 19時に八潮駅北口に集合したあと、バス乗り場へ。八潮市役所方面に向かうバスで5分ほどで「八潮市役所南」停留所に着きます。

 

  バスから降りたときにまず思ったのは「郊外の風情がある……!」ということ。

 生活道路に点在する、カローラやホンダなどの車の販売店。見慣れないロゴのドラッグストア。交通量も人通りもそう多くない道路。都心に比べて控えめな街灯。道路の色が目立つ、全体的にグレーがかった景色。住宅街。

 地方都市を思わせる風景が広がっていました。東京23区からほんのちょっと出ただけで、こんな風景が広がっているなんて!

 

 転勤族だった私は、はじめて訪れる土地に来ると、脳内で画像検索をして似た地域を探す癖があります。八潮市役所近くのこのエリアは、名古屋市の北のほうや滋賀近辺のエリアとちょっと近いかも? と思ったり。

 

  バスの停留所からは、徒歩約2分で「カラチの空」に到着。

www.yashio-karachinosora.com

※ちなみにあとで知りましたが、「カラチの空」では八潮駅までの送迎を行っている日もあるようです。必要な方は、お店に問い合わせてみてください。

 

 インドカレービリヤニをいただきました。

 とっても美味! ビリヤニも実は今回はじめて食べたけど、とても食べやすくっていくらでも食べれちゃいそうでした……!

 どの料理も違和感なく美味しかったので、「日本人向けにアレンジしているのかな」と最初は思いました。

 ですが、こちらの記事を見る限り、そういうわけではないようです。

www.huffingtonpost.jp

 

 この量を5人で食べました。最後のほうはちょっと苦しいくらい、おなかいっぱいに。

 ちなみに、宗教上の都合でこの店にお酒は置いていませんが、持ち込みはOKとのこと。徒歩4分の場所にローソンがあるので、そこで友人たち買い出しに行ってもらいました。

 

「カラチの空」の店内、なぜか「防犯カメラ設置」「防犯装置作動中」などのステッカーがやたらと貼ってあったのが少し気になりました。

 店内では調理済みの料理の提供だけでなくパキスタン料理の食材の販売もしているため、その盗難を防ぐために貼ってあるのかな、と推測。

 

 5人で料理をつつきながら、いろんな話をしました。

「どうしてパキスタン人が多いの?」

 このエリアでは、自動車の輸出業を行っているパキスタン人が多いとのこと。

 八潮市は、中古車販売にとっては都合がいい立地のようです。

www.gnavi.co.jp

「自動車の様な大きいものを海外輸出するんだったら、船を使うんだろうし、海沿いのほうがいいんじゃないの? なんで、海のない埼玉県に住むんだろう」と思っていました。調べてみたら、車検場やオークション会場が八潮近辺にあるんですね、なるほど。

 

 中古車輸出に関する統計データも調べてみました。2017年、日本からの中古車輸出先は、パキスタンが第5位!

planetcars.jp

 ちなみに、「日本の自動車輸出相手国上位10カ国の推移」のデータも見つけましたが、こちらにはパキスタンは入っていない模様。あくまでもパキスタン人は「中古車」を輸出しているのですね。

http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/data/y8_1.pdf

財務省貿易統計より)

 

 2014年の記事ですが、こんなものも見つけました。1970年代にパキスタン人の研修生が日本車を本国に送ったことが、パキスタン人の中古自動車ビジネスのきっかけだったようですね。

wedge.ismedia.jp

 今回このブログ記事を書くにあたり、中古車輸出ビジネスについても検索しましたが、個人のサイドビジネスとして自動車輸出を行っている人のブログがいくつか引っかかったことも印象的でした。そうか、そういう人もいるのか。

 

八潮市って、ほかにどんなものがあるの?」

 友人が尋ねたら、アレフの施設があるよ」という返答が……!

 この日はオウム真理教死刑執行から間もない時期だったので、そんな話も少ししました。

「私の誕生日は3月2日、麻原彰晃と同じで、一昨年に誕生日会を開催した某シェアハウスは、オウム真理教病院跡地だった」という話もしました。

 

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おまけ:「公園に寄って帰ろう」

 今回一緒に食事をしたメンバーに、昆虫食が好きな人がいました。

「カラチの空」のそばに公園がある情報を調べてきていた彼は、セミを捕るための袋まで用意していました。

 食後、なぜかみんなで、八潮中央公園でセミ捕りをすることに。

※以下、セミの写真が苦手な方は閲覧注意。

 

 

 

 

 

 セミを捕まえていたら、その様子を見ていた知らないおじさんも「ほら、ここにいるよ」と手伝ってくれました。

 セミ、意外とかわいいですね。脱皮したばかりの白いセミはどこか神秘的。

 

 そんな、郊外の地を楽しんだ半日になりました。

 

 帰宅後しばらくしてFacebookを開いてみたら、友人のシェアハウスの住人による

「お腹を空かせて家に帰ったら、セミの素揚げがあったのでいただいた」

という投稿が……!

 捕ったセミは、さっそく調理されたようでした。

 

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この本がすごい!2018年上半期

 忙しさと読書量ってあまり比例しないのかも、と最近思います。どちらかというと忙しさそのものよりも、「精神的な余裕の有無」が大きいような。

 さて、7月恒例の「上半期読んで良かった本ランキング」、今回も行いたいと思います!

「2018年に発売された本」ではなく、この時期に「私が読んだ本」なので、古い本が入ることもあるかもしれません。

 はてなブログでも、今週のお題は「2018年上半期」だそうですね。

 では、いってみましょう!

10位 アスピーガールの心と体を守る性のルール 

アスピーガールの心と体を守る性のルール

アスピーガールの心と体を守る性のルール

 

  Facebookで友人が紹介していて知った本。「アスピーガール」とは、アスペルガーの女性のことを指す著者の造語。発達障害の女性向けの、性愛関係の築き方」についての本です。しかし、アスペルガー発達障害に限らず、女の子は特に知っておいたほうがいい内容も多く、発達障害の当事者に限らず、女児のいる家庭におすすめの一冊。

 著者はスコットランド在住ということで、日本とはやや文化が異なる部分もありますが、洋の東西を問わず参考になるところは多いと思います。

 女性向けということでピンクを基調としたデザインだったり、わざわざ「アスピーガール」なんて造語を使うところにあざとさや抵抗を感じる方もいらっしゃるようですが、内容やコンセプトとしてはなかなか良い本でした。細かな部分は自身でカスタマイズしていくと良いでしょう。

 

9位 SNSでシェアされるコンテンツの作り方

SNSでシェアされるコンテンツの作り方

SNSでシェアされるコンテンツの作り方

 

  SNSでのシェアやバズについて、体系的にまとまったものを読みたいな、と思い、大型書店でじっくり探して選んだ1冊。

 Webメディアは変化が激しく、仕様や流行も変わりやすいため情報の鮮度には注意が必要ですが、2018年現在、この本は使えます。メディアごとの効果的なアプローチ方法の違いやブランディングについて、(そこまで目新しさがあるわけではないものの)丁寧にまとまっていたり、分析の参考になりそうなサービスもたくさん紹介してあって良かったです。あと個人的には、随所に出てくる例が好みでした。

 

8位 死神の浮力

死神の浮力 (文春文庫)

死神の浮力 (文春文庫)

 

  なぜかここ最近、かつて読んだ伊坂幸太郎作品を再読するのにハマっています。 『死神の精度』 を10年ぶりに再読したあと、「そういえばこれって、続編も出ていたんだっけ」と思い『死神の浮力』も読むことに。

 淡々とした死神の千葉と、娘を殺人事件で亡くした山野辺夫妻。どう考えても合わない組み合わせだよどうなるんだ……と思いながら読み進めました。千葉の言動にハラハラしながらも、アクションシーンも多く、先の読めない展開だらけで面白かったです。一番好きなシーンは、宅配弁当の店での意外な人物と再会するところ。終盤は、現実離れした展開と伏線回収があまり好きではないかも……。総評としては、前作のほうが好きです。面白かったし、連作短編集だったので間延びすることもなくて良かったです。

 前作の『死神の精度』は、ドラマ「ロス:タイム:ライフ」を思い出しましたが、今回の作品は、伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』や、湊かなえ『告白』っぽい印象も受けました。

 死神である主人公・千葉は、1000年ほど生きているという設定。歴史ネタもたまに出てきますが、千葉を主人公にした歴史小説も読んでみたくなりました。参考文献になっていた『良心をもたない人たち』は私も読み途中。

 

7位 すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない

すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない。

すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない。

 

『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』に登場した風俗店「レズっ娘クラブ」の代表が書いたエッセイ。大阪のお店だそうで、立ち上げた経緯やこれまでのトラブルなどのエピソードが書いてあり、興味深かったです。起業家のエッセイとしても面白く読めました。

 余談ですが。去年、レズ風俗店を利用したことのある女性の話を聴く機会がありました。その人が利用したところは「普段は男性向け風俗店で働いている女の子が、依頼があったときにレズ嬢として出勤する」というものだったようで、利用してみた満足度はそれほど高くはなかった模様……。

 この本の著者が経営する「レズっ娘クラブ」は、そういう店とはまったく異なるようです。実際に「レズっ娘クラブ」のサイトも見てみましたが、お客様もキャストも大切にする気持ちが伝わってきました。

 この本の表紙、『~レズ風俗に行きましたレポ』の著者の、永田カビさんによるものなのも良いです。永田さんはこの店を利用して救われて、お店も永田さんの漫画で話題になって。両者にとって喜ばしい出会いだったんでしょうね。

 

6位 死香探偵

死香探偵 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

死香探偵 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

 

「化学探偵Mr.キュリー」シリーズが好きだったので、同じ著者のこの本を読んでみました。こちらも素直に面白かった! これはミステリーというだけでなく、ある種のSF(サイエンス・フィクション)とも定義できるかもしれません。特殊清掃のアルバイトをしている主人公が、独特の体質をきっかけに事件解決に駆り出されてしまう連作短編集。電子書籍の、中央公論新社のキャンペーンの時に買いました。

 余談ですが、作中に「腫瘍マーカーでの診断のビジネス」が出てきます。これは確か、友人の友人が行なっていたはず。科学が専門ではない私もニヤリとしてしまいました。

 BLっぽい、というレビューもありましたが、著者はそういう狙いで書いてるのかな、と思えるシーンは確かに多いです(笑)。この著者の本は、この本やMr.キュリーシリーズは「イケメン、いい男な研究者」が出てきますが、別の本では「女性の美人な研究者」がヒロインになっているものもいくつもあります。個人的には、そのあたりのバランスも良いなと思っています。

 

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5位 星降り山荘の殺人

新装版 星降り山荘の殺人 (講談社文庫)
 

 「猫丸先輩シリーズ」きっかけで倉知淳作品を読むようになりました。この本も、とにかく展開が気になって一気読み。あぁ、人が死ぬ話はやっぱり好きじゃない……読後感はやっぱり苦みと重みを感じる……けど、それでも面白さは否定できないし、この作者のミステリーは定期的に読みたくなります。

 この本を買う前にレビューも軽く目を通しましたが、そこでも強調されているように、これは「1996年の作品」だということを念頭に入れておくことは大事だなと。個人的に、携帯電話普及の手前の時代の作品は好きなので、その点も好みでした。冬の作品なのに、初夏に読んでしまったのはやや悔やまれました。

 登場するキャラも、みんな良くも悪くも個性的。(誤解を恐れずに言えば、私が今年や一昨年に開催した自分の誕生日会、あのときに集まってくれた人たちの個性の豊かさを思い出しました)

 私はこの本はhontoの電子書籍で読んだのですが、電子版だと解説が割愛されている本も多い中、この本はしっかりと解説も収録されていて嬉しかったです。

 まぁ、なんだろう。著者の作品では、人が死ななくなってからの猫丸先輩シリーズがやっぱり一番好きかな。「シュークリーム・パニック」のような短編も嫌いじゃないけど、あまり大幅に展開が揺さぶられる作品は読む気分を選んでしまいます。ミステリーって、苦みを感じるタイプと感じないタイプがありますが、これは前者ですね。

 小説といえば、この物語の作中に出てくる作家が書いている作品のモデルとなったような小説レーベルは私も好きだったので、その点もニヤリとできました。

 

4位 風俗嬢の見えない孤立

風俗嬢の見えない孤立 (光文社新書)

風俗嬢の見えない孤立 (光文社新書)

 

  去年、「建築×都市×インターネット」というトークイベントで著者のことを知り、その真摯な姿勢に好感を持ち、著書を読んでみました。

 すごく良かった……! 電子書籍で読みましたが、限度いっぱいまでマーカーをつけてしまいました。

 著者の仕事は、風俗業から卒業する女性への、昼間の仕事への就労支援。性風俗サービスは体力仕事なので、40代になると(需要の有無以前に)肉体的に大変らしく、そこから別の仕事への再就職を支援する仕事をしているそうです。

「女性の貧困」「売春せざるを得ない女性の実態」についての本というと、鈴木大介『最貧困女子』が一時期話題になりましたが、あちらはやや下世話な好奇心を煽るような部分があったのに対して、こちらはゴシップ的な描写はほとんどありません。

 性風俗業従事に限らず、「他人に知られたくない過去がある人」「社会との接点が少なく、孤立しがちな環境にある人」について考える際に、とても示唆に富む本でした。

 印象的だったのは、学費のために風俗で働く女子学生が同級生にバレてしまい、学校を辞めることになってしまった……という事例。どのような対応ができていれば彼女は学校を辞めるようなことはなかったのか? それについての著者の答えは、とても希望を感じました。働き方改革、パラレルキャリアの文脈からも学べる部分があります。

「どんな状態からでも、望めば『次』へ行ける社会へ」

「“どんな過去を持っている人でも受け入れる”ということを目指すのは大変だけど、“他者に、いちいち過去の開示を要求しない人”になら今すぐになれる」という著者の主張、とても励みになります。「未来」について目を向けていくための本でした。

 

3位 殺人犯はそこにいる

  一気読み。著者の『桶川ストーカー殺人事件』も読みましたが、この本もまた著者の行動力、想い、ジャーナリズム精神が伝わってきます。映像が浮かんでくるような「魅せる」筆致でぐいぐい読まされました。一部の書店では、この本を「文庫X」として中身を見せずに売り出したキャンペーンも行っていましたね。「多くの人に読んでもらいたい」と言った書店員さんの気持ちはわかる気がします。この本は衝撃的でした。

 冤罪の可能性が高い「飯塚事件」の存在を知ってしまったことにも胸が苦しくなりました。同じく冤罪だった「免田事件」の免田さんが、タクシーで運転手にカマをかけて質問したシーンにも衝撃。フェイクニュース、忘れられる権利なども近年話題になったりもしましたが、国家権力が放った情報はいかに重いのかということを痛感させられます。

 これまで、私は事件はいろいろ追っていましたが、冤罪には正直あまり関心はありませんでした(もともと、防犯目的で事件を調べるようになったので)。冤罪への関心も高まった一冊でした。

 また、この「北関東連続幼女誘拐殺人事件」そのものも、著者はかなりのところまで犯人の目星をつけているようで、そこまでたどり着いた著者の執念にも、胸を打たれました。

 

2位 県庁そろそろクビですか?

  地元が同じ、そして私の大学の先輩にもあたる円城寺さんの著書。父が絶賛していたので読みました。著者の功績としては、県内の救急車にiPadを導入し、搬送先の病院の状況を「見える化」したことで搬送時間を短縮したことなどが挙げられます。

「すごい県庁職員」だということは前から耳にしていましたし、救急車へのiPad搭載の話も講演で聴いたことがありましたが、その裏側の熱意が伝わってきて面白かったです。

 正直、中盤までは比較的地味な仕事のエピソードが多くなかなかハマれませんでしたが、救急車のくだりからとにかく面白くなり一気読み。実直な姿勢が伝わってきます。

 終盤、「スーパー公務員」をもてはやす風潮に疑問を唱えているところは、(私が思うところの)意識高い系批判のようにも読めて共感できました。

 特に印象的だったのは、本の終盤のこのくだり。

変革者は物事を変えるだけの人間ではない。変えるということが目的ではなく実現したい理想や未来に近づけるために、たまたま変えるという手段をとったにすぎない。 

「これまでやってきた前例や既存の制度を頭から否定してはいけない。たしかに時代に合わなかったりおかしいところもあるかもしれない。しかし、それもこれまで先人たちが汗と涙でつくり上げてきた積み上げなのだ。それは経験や教訓の塊であり、過去すべての人たちがより良い社会を生きたいと血のにじむような努力をしてきた願いや祈りなのだから、まずはしっかりと前例や既存制度を学ぶこと」

どのみち定石を学ばないと矛盾点や変え方もわからない。前例はこれまで多くの人が試行錯誤し失敗を繰り返しながらやってきた尊い先人たちの知恵だと思えば学ぶべきところもたくさんある。(中略)前例を学ばず頭から否定することは思い上がりであり、これまでそのことに尽力してきたすべての人の努力や願い、汗と涙を踏みにじる行為だと私は思う。

 この本、タイトルもいいですよね。「はみだし公務員の奮闘記」のようなタイトルにはせず、「クビですか?」なんて入れてしまうセンスも素敵です。

 コミカルなエピソードも結構あるので、漫画化されたら面白そう。映画化とも相性が良さそうです。

 

1位 仕事と家族

 読み始めたときから、「あぁ、これは名著の予感がするぞ……ページをめくるたびにマーカーや付箋をつけたくなってくる……電子書籍の)マーカー数の制限に気を付けなければ」と思いながら読んでいた一冊。

 読み途中の『結婚と家族のこれから』という本で著者のことを知り、中央公論新社のキャンペーンの時にこちらを買いました。

 昨今、「非婚出産や事実婚、シェアハウスでの育児、ポリファミリー」など「既存の枠にとらわれない家族・パートナーシップ」を考える人たちや、「複業やパラレルキャリア、フリーランスノマド、リモートワーク」など「雇用関係にとらわれない生き方・働き方」を推奨する人たちなどの意見を目にする機会も増えています。

 そのような、“新しい”パートナーシップ/働き方について、「日本は遅れている」という主張もたまに見かけることも(前者だとフランスや北欧、後者だとアメリカや中国が引き合いに出されることが多いイメージ)

 また、「これからの新しい働き方」「既存の枠にとらわれない家族構築」などの事例や主張はいくつも見てきましたが、この両者を絡めて話す人はあまり見たことがありません。(有名どころだと、「しょぼい起業をして、出会って2週間で雑な結婚をし、お金のかからない子育てをしている」えらいてんちょう氏くらいでしょうか)その点からも、この本の存在はありがたいものでした。

 この本はタイトル通り、「仕事や働き方」と「家族や育児」の両方について、日本や諸外国のデータを用いて「なぜ、このような現象が起こっているのか」「どの国が日本のお手本となりうるか」などを丁寧に考察しています。

 

 一部、「このデータからこの結論を出すのは少々性急すぎないか?」と思えた箇所もありましたが、全体的には「日本はこうなっていくべき」論は最小限に留めている印象。あくまでも「この本やデータを使ってどのような合意形成を築いていくべきか」ということを考えるための本という印象を受けました。

 北欧4ヶ国は、東アジアやヨーロッパ主要国と比べて高い男女平等が実現できてはいるけれど、そのかわり「男は民間企業、女は公務員」という職業の性別分離が目立っていたり。アメリカに代表される「小さな政府」の国と、スウェーデンに代表される「大きな政府」の国では、正反対に見えるけれどどちらも出生力も女性労働力参加率も高いという特徴があったり。勉強になる内容が多かったです。

 正直、この本は一回読んだだけでは咀嚼しきれていない部分もあります。統計データや数字も多く、「誰にでも読みやすい本」とは言えないかもしれません。ただ、学ぶところ、もっと知っていきたいことはたくさん出てきました。

 私が去年このブログで紹介した『日本で働くのは本当に損なのか』とも近い部分があるなと思いました。

 

 以上が、この2018年上半期での「読んでよかった本、印象的だった本」のランキングになります!!

 

 それにしても。タイトルに「風俗」「死」「殺人」が含まれる本が複数冊ずつ入ってしまいましたね……。

 別に、いわゆるエログロが好きなわけではなく、あくまでもセクシャリティや福祉、事件ルポ、ミステリー小説への関心の表れであることをここにお断りしておきます。

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プーシキン美術館展の感想あれこれ

プーシキン美術館展、気になってたんだ。ロシアだよね。楽しみ!」

「あれ、フランスじゃなかったっけ」

「あれっ、どっちだっけ?」

 

 調べてみたら、「ロシアのプーシキン美術館に収蔵されている、フランスの風景画を中心とした作品展」のようですね。

 そんなプーシキン美術館展が東京都美術館で開催されていたので、イラストレーターの女友達と行ってきました!

pushkin2018.jp

 図録も買ってきたので、いくつか引用して、好きな作品などを紹介しようと思います。

 厳密には、「好き」というより「目を引いた」「気になった」「引っ掛かりを覚えた」などの表現のほうが的確な気はしますが、見出しはわかりやすく「好き」で統一します。

構図が好き!

 アダム・フランス・ファン・デル・ムーラン工房「ルイ14世の到着、ヴァンセンヌ」。見るべきところが画面の各所に散りばめられていて見応えがあります。

 解説によると、この作品は風景そのものだけでなく、衣服や隊の編成などについて後世に伝える資料としても有用だったようですね。

 

 

  ニコラ・アントワーヌ・トーネー「アルカディアの牧人たち」。

 このプーシキン美術館展の最初のほうは、神話や聖書に主題を求めた絵が多かったです。宗教画や歴史に関することには私は明るくないですが、これらは絵の構成を楽しみました。

 

 ジャン=ルイ・ドゥマルヌ「街道沿いの農場」。奥行きに目がいきました。中央でないところに消失点があるのもいいですね。

 

 モーリス・ド・ヴラマンク「オーヴェールの風景」。上に同じく、消失点に目を奪われました。

 

 ウジェーヌ・ルイ・ガブリエル・イザベイ「ムーア式の入口」。これ、どうやらアルジェリアに出兵した経験をもとに描かれた作品だそうで。まさかここで、アルジェリアの風景画(?)を見ることになるとは思っていなかったので驚いた作品でした。

筆致が好き!

 

 クロード・モネ「ジヴェルニーの積みわら」。これ、影のタッチがすごいなと。いろいろな色が入っていて、見入ってしまいました。

 

 モーリス・ド・ヴラマンク「小川」。この筆使いも色合いも、すごく好みでした。遠くからつい眺めていたくなった作品です。

 

 アルフレッド・シスレー「オシュデの庭、モンジュロン」。この、空が丸みを帯びたような感じに描かれているのが気に入りました。

 

 アンドレ・ドラン「岩の間の小道、ソセ=レ=パン」。日本の海辺の松林を思い起こさせられました。

 

  ルイ・ヴァルタ「アンティオールの海」。これも、日本っぽさを感じました。

 

 ピエール・カリエ=ベルーズ「パリのピガール広場」。作品としても好きですが、制作された年は不明で、描かれていた人の服装から1890年前後と推測された、というエピソードも好きです。

 

 ジョルジュ・レオン・デュフレノワ「パリの広場」。絵のタッチも味があって良いですが、解説にあった「上から眺めるやや冷めた視点であることがうかがえる」という記述が印象的でした。そうか、そういうふうに読まれることがあるのか。

 

 レオポルド・シュルヴァージュ「赤い人物のいる風景」。絵本に出てきそうな、ファミレスに飾ってあったりするような親しみの沸いた作品。そして「これも風景画なんだ」と思いました。

懐かしくて好き! 

 アルベール・マルケ「パリのサン=ミシェル橋」。私は長崎に住んでいたことがあるので、長崎の眼鏡橋を思い出して少し懐かしかったです。私も小学校で眼鏡橋の絵を描いたので、川面に映る橋に目が行ってしまいます。

 あと、最初は気づかなかったのですが、解説に「遠くにいくにしたがってぼんやりと灰色がかかっていく」とあり、あ、確かに奥のほうは少し色が薄いな、と気づきました。

 

 エドヴァール=レオン・コルテス「夜のパリ」。こういう薄明かりが灯った街の絵や写真、大好きです。郷愁をそそられます。

 

 クロード・モネ「草上の昼食」。私は木漏れ日が描かれている写真や絵画が好きなのですが、この美術展のメインビジュアルにもなったこの作品、やっぱりいいですね。

 大きな絵なので、実際に立って見ていると、私もこの風景にお邪魔しているような感じにもなれます。人物の表情は見えないもののみんな楽しそうで、すごくフォトジェニックで素敵な光景。

 

 

 クロード・モネ「陽だまりのライラック」。暗さも少し感じますが、子どもの頃に行ったピクニックを思い出します。あと、まったく関係ありませんが、私の好きな小説家(名木田恵子)のファンサイトに「ライラック館」というページがあり、そこによく出入りしていたので、その点でも目を引いた作品でした。

 

 クロード・モネ「白い睡蓮」。私がモネの「睡蓮」を初めて知ったのは中学生の頃。私の好きな小説家(小林深雪)が、作品内でモネの「睡蓮」を書いていたことから興味を持ちました。いちばん有名な「睡蓮」は、あまり好みではなかったのですが、この「白い睡蓮」はすごく好きです。私は川とか橋とか木漏れ日とか、緑色多めの景色が好きなのかもしれません。 

 

 アンリ・ルソー「馬を襲うジャガー」。まるで、昔、絵本や図鑑で見たような感じで懐かしいです。この作品、物販コーナーではマグネットにもなっていましたが、マグネットとしてもっとも可愛いなと思いました。

そのほか気になったこと

 美術展の順路、「どうしてこの作品は、この作品群の並びに置いてあるんだろう」と思うことはしばしばあります。出品作品リストに振り分けてある番号と、実際の並びが一致していないものはよくありますが、今回、セザンヌの絵画の並びが「なぜこの順なんだろう」と、少し気になったりもしました。

 あと、今回の展示、流れているピアノ演奏のBGMも素敵でした。調べてみると、ピアニストの三浦友理枝さんによる演奏のようですね。

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おみやげも充実!

 物販のコーナーも充実していました。「風景画=外で描かれた絵」ということで、アウトドアグッズも置いてあったりも。

 また、ロシアっぽい赤色をベースにした小物も充実していて、ロシア雑貨に興味のある友人はその点も興味深そうにしていました。

 私は、図録、手ぬぐい、ポストカード、マグネットを購入。同じ作品でも、マグネットやポストカードにする加工によって若干色合いが違ったりするので、雰囲気の違いを楽しんだりもできます。

 ちなみに、図録の帯はいくつかの種類があって、選ぶことができますよ。

都美セレクショングループ展2018 

 同時開催されているグループ展も眺めてきました。 

www.tobikan.jp

「Quiet Dialogue: インビジブルな存在と私たち」
「複数形の世界のはじまりに」

「蝶の羽ばたき Time Difference 時差 vol.3 New York-Seattle-London-Tokyo」

の3つ。(※これは7月1日までなので、私がこのブログを書いている時点では明日までです)

インビジブルな存在と私たち」は、フェミニズムに関する映像や本などの資料が置いてあり、ブックガイドとしても面白くて好みでした。

  

 

「複数形の世界の始まりに」は、民俗学とか地域とか文化とか、そういうモチーフを扱っていてとても私好みでした……!

  

 

「蝶の羽ばたき」は、風船にプロジェクターの映像が投影されていたり、すごく「現代アート」っぽい作品が多いなという印象でした。ここは写真は撮っていないです。あいちトリエンナーレなどの、アートイベントを思い出すような作品群でした。

 

 ジェンダーも地図もアートにも興味のある私には、どれも楽しかったです。フライヤーも素敵でした。

 

美術館のあとはカフェに行こう

 美術館を出たあとは上野駅まで行き、「WIRED CAFE」に行ってきました。

tabelog.com

 ここは、都立美術館チケットの半券があると、なんとドリンクが無料!

(※2018年6月現在の情報ですので、ご利用の際にはあらかじめ確認をお願いします)

 以前、別の美術系の女友達と都美に行ったときにも帰りに寄りましたが、ここは上野公園周辺のカフェよりは混まないため、美術館帰りに寄るにはとても良いと思います◎

 パンケーキをシェアしあって楽しみました。

  

 プーシキン美術館展、これを書いている時点では来週、7月8日(日)までの開催。

 終了間近なので混むかもしれませんが、興味がありましたらぜひ、行ってみてください……!

もっと知りたいモネ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

もっと知りたいモネ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

 
かわいいロシアのA to Z

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