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この本がすごい!2020年下半期

 毎回恒例「読んで良かった本ランキング」、今回は2020年の下半期分を紹介したいと思います。

 2020年上半期は、テレワークやおうち時間が増えたことにより読書量が激増しましたが、8〜11月まで勤務した会社では通勤していたので、下半期は若干、読書量は減りました。

 それでも比較的たくさんの本を読めたと思います。では、いってみましょう!

 

15位 部長、その恋愛はセクハラです! 

 やや著者の感情が強く乗っている面は否めませんでしたが、 それでも一読する価値はあると思えた1冊でした。

 特に印象に残っているのは、女性研究者が、懇親会の座興で男性器をかたどって盛り付けられた料理を食べさせられた屈辱についての記述。

 昨年、バナナを食べる少女の写真を使った車の広告の炎上が話題になった際、このことを思い出しました。

 

14位 あえて数字からおりる働き方

 読書会が開催されたので読んでみました。

 同じ読書会で以前読んだ、山口周『ニュータイプの時代』を平易にした本、という印象です。

 あまり「数字からおりる」という感じはせず、「ライフワーク、これからの働き方」について言及している本。SNSで気になっている人とお近づきになる方法など、具体的なテクニックも豊富で良かったです。

 どちらかというと抽象的な内容が多い本ではありましたが、そのぶん応用が効きそうな感じもします。「giveし続けること」「意外と嫌がられない」というくだりが特に印象に残りました。

 イベント告知を頼まれたときの返し方などは、「SNSあるある」としても楽しめましたし、その対応についても勉強になりました。

 

13位 正しく怖がる感染症

正しく怖がる感染症 (ちくまプリマー新書)

正しく怖がる感染症 (ちくまプリマー新書)

 

 電子書籍セールで安くなっていたときに購入しました。

 この本が書かれたときは新型コロナウイルスはなかったため、その記述はありませんでしたが、そのほかの多様な感染症について比較的分かりやすく説明がされており、今の時期に読めてよかったと思えた1冊。

 ピルの容認は梅毒の予防の観点から反対していた人がいたことや、産褥熱の原因は医師にとっては残酷な結論だったエピソードや、「新型インフルエンザ対策には2週間の食べ物の備蓄」などのくだりが特に印象的でした。また、梅毒について、東京都内の女性感染者は2010年からの6年で10倍に増えているという点にも衝撃を受けました。

 現代日本では認知度が低いけれど海外には多い感染症についても知れて、身が引き締まる思いもしました。

 

12位 その桃は、桃の味しかしない

その桃は、桃の味しかしない

その桃は、桃の味しかしない

 

  結構前に買って積読していたのを読みました。やっぱりこの人の書く心情描写はとても馴染みやすく、複雑な心情を表す形容もスッと入ってきます。

 恋敵である女性と同居している主人公。こうなるまでの色々な経緯が明かされていくのかと思いきや、謎のまま始まり、謎のまま終わる、思ったよりも軽く読める作品でした。この作品は長編作品扱いにはなっていますが、「短編の内容にボリュームを出して長編にした」ような感じの読後感。

 ラストは最悪の結末も覚悟したけど、そうきたか……! 登場人物たちについて最小限の情報しか書かれていないから、かれらの魅力は、読者にはほかの登場人物を通して間接的にしか分からないのもややミステリアスな雰囲気に拍車を掛けている気がしました。

 私がこの本を読んだのは夏。夏に読めたのは季節感があって結果的に良かったですが、通信機器や流行りの音楽などの描写には、時代を感じる部分もありました。

 作中に出てくる料理も美味しそうだし、バレエについての描写が細かいところも良かったです。

  

11位 自分を傷つけずにはいられない 

 読書会が行われたので読みました。

 松本俊彦さんの本、生きづらさやコミュニケーションについて考えている人たちのあいだで評判がいいので、ずっと気になっていました。

 この本は、広義の「自傷癖」がある人への具体的なノウハウが多い本でした。幸い現在の私には自傷癖は出ていないため、ノウハウの部分は良い意味で役に立ちませんでしたが、「耳たぶ以外へのピアスやタトゥは自傷か」というコラムや、自傷癖のある女性は公共交通機関の利用を苦手とすること、男を頼らず同性の友人と年賀状で繋がることの大切さなどのくだりが印象に残りました。

 また、性的に奔放であることや、風俗産業従事と自傷の関係についても、著者は否定の姿勢を取っていないところもこの本は良いと思えました。

 

 ちなみにこの本の読書会、再度行われるそうなので、気になる方は主催のホリィさんに連絡してみてください。

 

10位 ぽんしゅでGO!~僕らの巫女とほろ酔い列車 

 この作者の別のシリーズが好きだったので、この本も読んでみました。

 日本酒も、鉄道(というか豊田巧作品)も好きなので楽しめた1冊。良くも悪くも既存シリーズ作品と展開は似ていますが、同じような展開でも、鉄道や日本酒の知識や魅力が伝わってくるのが豊田作品の良いところ。

 同じ著者の作品には、小学生が主人公の児童書「電車で行こう!」シリーズや、高校生が主人公のラノベ僕は君たちほどうまく時刻表をめくれない (ガガガ文庫)」などがありますが、その流れを踏まえて主人公を20歳にしたらこうなるのか……という感じ。お色気描写がやや多めなところも、未成年が主人公だったこれまでの作品とは別の味わいを感じました。

 この作品の舞台は福井県福井県にはもう10年以上行っていませんが、お隣の新潟県なら2年半前に行ったところですし、昨年は新潟出身の人と交流する機会が多かったので、そういう点でも楽しく読めました。

 

9位 愛と欲望の雑談 

愛と欲望の雑談 (コーヒーと一冊)

愛と欲望の雑談 (コーヒーと一冊)

 

 この本を読んだのは、人気俳優の自死のニュースがあった日。ふと「今こそ読むべきだ」と思い一気読みしました。

 薄い本だけど対談の中身はかなり濃く、1ページ読むごとに付箋を貼っていきたいくらい随所に興味深い話がありました。

 総括するなら、個人的なモヤモヤや世の中への厭世観などを少しずつほぐされていくような1冊。

 個人的なことと社会的なことについてや、生きづらさなど、まさしく「社会学」のエッセンスをふんだんに感じる本でした。

 この本が出てからの雨宮さんのことを知っている状態で読むと、お葬式のくだりは「実際どうだったんだろうな……」と気になってしまいます。ご本人なりに折り合いがついていれば良いのですが。

 

 また今期は、雨宮さんの『ずっと独身でいるつもり?』も読みました。こちらは「結婚したい」欲望について、その葛藤を丁寧に解きほぐしたエッセイ。

 似たような感情を綴った記事はネットにも色々ありますが、雨宮さんの筆致は優しく配慮に溢れ、且つユーモアもあって安心して読めます。雨宮さんのエッセイの体をとっているけれど、いわゆる婚活女子、いや「結婚したい」男女全員に共通する心情が描かれていると感じました。

 このエッセイが描かれたのは2012年で、やや時代を感じる部分もありました。でも、たった8年前のことなのにこんなにも時代の変化を感じるのか、という点には驚きも感じました。

 

8位 ぼくらの未来を作る仕事 

ぼくらの未来をつくる仕事

ぼくらの未来をつくる仕事

  • 作者:豊田 剛一郎
  • 発売日: 2018/01/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  尊敬する友人がかつてメドレーに勤めていたとき、興味を持ってこの本を買いました。読みかけたままにしていたので、コロナ禍の今こそ読んでおきたいと思い一気読み。

 私の妹も医療関係の仕事に従事しており、家族も私も近年は病院のお世話になることが増えているので、医療関係をめぐる現状としても面白く読めました。いい意味で専門的ではなく、とても読みやすい1冊。医療関係云々を抜きにしても、マッキンゼーから起業したスタートアップのエッセイとしても読み応えがあります。

 延命治療の是非についても、嘱託殺人や安楽死が話題になった昨年読めたことはタイムリーでした。遠隔治療についても、コロナ禍の今読むとそのありがたさを感じます。

 

7位 はじめてでもわかる! イラストでお金を生み出す秘訣

  絵の仕事をしたいという友人と本屋を回っていたとき、この本を見つけました。絵やイラストに限らず、文筆業やその他フリーランスで仕事をする際にも広く参考になりそうなことが書いてありそうだと思い、電子書籍版が安くなっていたときに購入。

 これから絵の仕事をしていきたいという初心者から、絵の仕事についてある程度キャリアを積んだ人まで、いろいろな人の質問に答えていく形式になっていて読みやすいです。「業界裏話」的な意味でも面白く読めるかもしれません。

 

6位 ど素人がはじめる起業の本 

ど素人がはじめる起業の本

ど素人がはじめる起業の本

  • 作者:滝岡 幸子
  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  この本を買ったのはおそらく4年ほど前で、正直、どういうモチベーションで買ったのかよく覚えていません。

 思うところがあり、この本を引っ張り出して読んでみました。

 軽く読めるけれど、多様な視点やアイデアをくれる本でした。数多くのさまざまな形態で起業した人たちの事例が載っていて、説得力があります。

 Q&A形式になっており、「○○したいけど××ができません」=>「こういうやり方があるよ」と具体的なエピソードを混じえているので、読んでいるだけでも自信がついてくる1冊。

 難しい専門用語もなく、図表も平易な表現で書かれていて、なんなら中高生にも読みやすいかも。6年前の本ではあるけれど、具体的なツールやトレンド紹介の本というわけではないので、今でも十分役立ちそうな1冊です。

 

5位 皇帝と拳銃と 

皇帝と拳銃と (創元推理文庫)

皇帝と拳銃と (創元推理文庫)

 

 著者のファンなので購入。人が殺される作品があまり好きじゃない私でも、この著者の作品なら、殺人モノの作品でも抵抗なく読めます。

 何の気なしに読み始めたら、面白くて一気読みしてしまいました。

 この本は倒叙ミステリーの短編集。収録されている4編ともそれぞれ雰囲気が異なっているので、このタイトルではややミスマッチかも。

 最初の2編(「運命の銀輪」「皇帝と拳銃と」)は痛快な作品として素直に楽しめました。3編目「恋人たちの汀」は被害者があまりにも嫌な奴で、犯人に肩入れしたくなりました。この作品ではアリバイがキモになってきますが、こういうのも今だったらスマホの位置情報があるから、アリバイ偽装は難しいかもなぁ……。

 4編目「吊られた男と語らぬ女」は、事件の性質も被害者も、昨年人気俳優が自死した件を連想してしまいやや切なかったです。

 表題作「皇帝と拳銃と」は、大学が舞台になっているところなどが、喜多喜久作品っぽいとも思いました。

 著者は個性的な探偵役が好きなんだな、ということも改めて感じた1冊。これは続編は出ていないようですが、個人的にはぜひシリーズとして読んでみたいです。

 

4位 丸の内魔法少女ラクリーナ

 思ってた以上に、私好みな作品多めの短編集でした。4編の作品が収録されています。

 本谷有希子三崎亜記作品を彷彿とさせられる部分もあるような気がしました。

 以前このブログでも紹介した、本谷有希子静かに、ねぇ、静かに』を連想する部分もありましたが、本谷作品は「SNS」を割と真正面から描いているのに対し、こちらは直接的にはSNSはほとんど出てこないのに、すごく「SNS的」な作品が多い、不思議な読後感の1冊でした。

 特に、表題作「丸の内魔法少女ラクリーナ」と「変容」は、「これって、インターネットでの怒りや世代間論争やハラスメントについてのメタファーだよね?」と思ってしまうような描写が随所にあり、痛快なようなむず痒いような感覚になりました。(特に表題作は、昨今の「行き過ぎた正義」のようなものを感じたのに、2013年の作品だということを知った時は驚きました)

「無性教室」はちょっと幻想的でもある一方、現代のポリコレへの皮肉も感じます。「秘密の花園」は、10年ちょっと前に流行ったヤンデレ感を思い出して懐かしさもあったけど、設定は面白いのに終わり方がやや物足りないかな、という感じ。

 どの作品が好きか、結構好みが分かれそうな気がします。この本を読んだ人とはそういう話もしてみたいですね。(私は「変容」がダントツで好きです)

 なんだか女性向けのようなタイトルですが、個人的には、この本は男性こそ面白く読めるのではないかと思ってます。

 

3位 聖なるズー

聖なるズー (集英社学芸単行本)

聖なるズー (集英社学芸単行本)

 

 動物性愛の当事者研究をめぐるノンフィクション。冒頭、性暴力の描写から始まるのでやや読み進めるのに抵抗がありましたが、そこを超えると比較的すんなり読めました。

 対動物に限らない「性愛」のあり方セクシュアリティとの付き合い方、そして性愛に限らない、動物の権利や性についてなど、多方面に於いてひたすら学ぶことが多かった1冊。

 特に終盤に出てくる、他の「ズー」(動物性愛者)の人とは異なる接し方をする青年の、セクシュアリティとの向き合い方が印象に残りました。

 セクシュアリティを「選択」する試みやその背後にある考え方について、改めて、人間や生き物の奥深さを感じる部分もありました。

 また、本編とは直接関係ありませんが、本書を通じてドイツの文化を垣間見れたのも印象に残りました。

 

2位 断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

 

「これは私のために書かれた本だ……」と思わず呟きたくなる、そんな作品でした。

 まさか、小説でも音楽でも演劇でもなく、学術エッセイを読んでこんな感情を抱くことがあるなんて。今期、この本を1位にしようかどうかギリギリまで迷いました。

 著者である岸さんの持つ社会の見つめ方、解像度の上げ方はまさに私が憧れた仕事そのものだと感じて、読みながらずっと興奮していました。

 私自身、関西の大学時代に釜ヶ崎に訪れたことや、中学時代に沖縄に研修旅行に行ったことがあり、そのあたりの地域の描写はイメージが湧きやすい部分もありました。

 というか、私が転勤族として生きてきた経験と、この本で語られる内容はとても共鳴するものを感じ、そういう意味でも強い親近感を抱いた1冊でした。

 

1位 「健康」から生活をまもる 

 これは医療の本というより、広義の「メディアリテラシー」の本だ。読みながらそんな感想を抱いていました。

 著者の大脇さんのことは8年前から知的に信頼を置いており、さすがメディアと医療どちらにも関わった立場からの内容だ……と、読んでいて圧倒されました。

(先述した「メドレーに勤めていた尊敬する友人」は大脇さんのことです)

 

 医療や健康に関する様々なデータが引用され、「どのような立場を選択し、どのように生きていくか」を都度考えさせられる1冊。

 命や健康を重視する価値観だけが全てではないこと、エビデンスとは何か、予防とその限界など、読み進めるたびに発見がありました。あまりにも考えさせられることが多く、付箋をなかなかつけられない本でした。

「読みやすく」はありますが、「わかりやすく」はない本、でも、コロナ禍の時期にこの本を読めて良かったと思えました。

 この本は昨年出たばかりの本のため、新型コロナウイルスについての記述もあります。まさに「2020年」を象徴する本だと感じたので、この本を今期の1位に選びたいと思います。 

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