これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

「オープンキャンパスJCイラスト炎上」について思うこと

 数日前、TwitterまとめサイトでもあるTogetterにて、この記事が一部界隈で話題になった。

「昔大学のオープンキャンパスのワークショップで接客した女の子です」14歳とは思えない巨乳美少女にTwitter民騒然 - Togetterまとめ 

 早い話が、炎上していた。

 Togetterのコメント欄の目立つ色で表示されているものや、はてなブックマークコメントの人気コメント、がたくさんついているものを見ていただければ、どのような点を問題視している声が大きいのか把握していただけると思う。

 このイラストについての否定的な意見は、

「当人がこれを見たらどう思うか」

「こういうことは隠れてするべき」

「同人界隈でいうところの“ナマモノジャンル”の扱いには気をつけろ」

「14歳を性的対象として見ていると堂々と公言するのは気持ち悪い」という声が多く、

 肯定的な意見としては、

「個人特定はしづらいので構わないのではないか」

「昔は14歳でも結婚していたし、性的対象としてまなざすのはおかしなことではないのでは」

「着衣のイラストなので問題はないだろう」

「法律に違反しているとも思えないし、良いのでは」

というものが多いように思う。

 

 私の意見としては以下の通りだ。いわゆる萌え・アニメタッチの少女のイラスト自体はむしろ好きなほうではあるが、今回の件に関しては「否定的」な立場を取っている。

 

 私は広告業界従事者ということもあり、いわゆる「政治的正しさ」よりも、「ネット炎上」の現象そのものに関心がある。

 一方で、同人作家(と名乗れるほどの作品量も技術も売上も持っていないが……)の立場からは、表現の自由はどこで制限されるべきか」ということにも関心がある。

 

 そのようなわけで、「どのように批判・行動すれば政治的に正しいのか」ということよりも(それはそれとして思考実験対象としての関心はあるが)、「炎上した要因はどのようなことか」という分析への関心が強い、ということを留意して読んでいただきたい。

 

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それ、言っちゃっていいの?

 そもそも、サービスにおけるスタッフや店員が、業務上知り得た客の情報を、外部で半永久的に残る場所で公開することをまずあまり肯定できない。

 今回はオープンキャンパスのスタッフということで、描き手はおそらく学生か職員だったのだと思うが、その報酬や責任の多寡は問わず、手放しに肯定できる行為ではないと思った。

 飲み会の場などで、職場に不利益が発生しない限りでの仕事の体験談を、内輪のメンバーで話すことくらいは誰しもあると思うが、不特定多数の閲覧が可能な場で表出させるのが適切な話題とは言えないだろう。

「これがダメなら、ほかの実話エッセイ・イラスト等にも同じことが言えるのでは」という意見も散見されたが、もちろんそれに関しても、程度問題で同じ批判が可能だと思う。今回の事例と同じように、性的な要素としてフォーカスを当てていて、当人に許可を取っていないと思われる「実話エッセイ・イラスト」は、批判を受けている事例はいくつかあったようだ。(イラストレーターが実在の複数の女子中高生をスケッチしたイラストや、マッサージ店従業員が男性客のことを性的消費していると思われる言動をしていたツイートは炎上したことがあった)

 

 性的なものでない、「接客業でのユニークな来客の体験談」のようなものは、雑誌・新聞・ウェブなどメディアを問わず比較的人気があるテーマではあると思う。

 しかしそのようなものは、どちらかというと、客の「言動」に焦点を当てたものが多く、「容姿」について言及しているものはあまり見かけない。

(イラストや文章ではないので例として適切ではないかもしれないが)数年前、読者モデルが電車内で見かけた中年男性を撮影し、容姿に言及するキャプションをつけていたツイートが炎上した事例もあった。

 これらの事例から、「ユニークな“言動の”来客の体験談」の公表は、社会通念上認められやすいが、ユニークな“容姿の”客の体験談の公表は、「認められていない」と判断する。

 

それ、絵にしちゃって大丈夫?

 今回の場合、絵にしたことで生々しさを帯びているということが、炎上の要因としてはもっとも大きいのではないかと思われる。

 絵に添えられているキャプションの擬音・擬態語からも、「性的に見ている」と思われかねない内容であるとの判断は可能だろう。

 

 以前、「同じ授業受けてる学生にとんでもない巨乳がいた」というツイートが私のタイムラインにも流れてきたことがあったが、このようなツイートが炎上するところは見たことがない。だが、これは添えられるイラストやキャプションによっては炎上していた可能性はあるだろう。

「街ですれ違った人」というキャプションで巨乳女性のイラストが添えられていたツイートも見かけたことがあるが、こちらも炎上はしていなかった。その絵に関しては特定の地域や制服などが書かれていなかったことが大きかったと思われる。

 また、「特定の地域にいた人物」を描いたイラストについても、「代官山によくいる女」「中央線沿いに住んでいそうな男」といった抽象化をしたものは比較的受け入れられやすいと言えそうだ。

 

本人ではないけれども

 この絵に対する肯定的な意見の中で、「この絵と情報だけでは特定できないだろうから構わないのではないか」という意見があった。モデルとなった人物がわからないので似ているか似ていないかの判断はできないが、写実的な絵というわけでもないため、確かに「プライバシー侵害」の観点からの批判は難しいかもしれない。

 しかし、オープンスクール・オープンキャンパスに行くつもりでいた女子生徒がこの絵を見て、「私が行ってもこんなふうに勝手に絵にされて、身体のことでネットであれこれ言われるのかな」と不必要に委縮してしまう可能性は考えられると思う。

 ましてや、オープンキャンパスの来客が来客を描いたものだというのならまだしも、スタッフ側の人間が描いたとなると、必要以上に警戒・委縮する生徒が出てくることは起こり得るだろう。そのような観点からも、この絵の公開は相応しくないのではないかと思われる。

 

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ネットはオープンな場ではない?

 今回、納得はできないが印象的だった意見のひとつに、「この絵を見て不快になったという人がいるけれど、それは、このような絵をツイート・RT・お気に入りするユーザーをフォローしたり、検索したりして絵を見つけた自分の責任では」というものがあった。

 この意見は衝撃的だった。

 私はかれこれ20年近くインターネットを利用しているが、パスワード付き・限定公開記事でない限りは、インターネットは「世界中の誰もがアクセスできる、公の場」という認識だった(今もその意見は変わっていない)。

 

 2010年台初頭、試験のカンニング、犯罪被害者の罵倒、飲酒運転、置き引き、不倫、店の商品や機材を不適切・不衛生に扱ったことをTwitterに投稿するユーザーが後を絶たず、たびたび炎上していたことを覚えている人も多いだろう。

 不適切な投稿をしていた人は、往々にして「ネットに慣れていない、非オタク≒いわゆる“リア充”(最近の表現でいうと、ウェイ系、パリピ、などだろうか)」が多く、内輪話をするノリで投稿していた人が多かったようだ。それらに対して、オタク(ギーク・ナードという方が適切だろうか)寄りな“ネット”民が、かれらの炎上を焚きつけたり、冷ややかな目で見る……という図が多かったように思う。

 今回の炎上は、かつてのこのような炎上とは、まったく違う図式が垣間見えたのが新鮮ではあった。Twitterは落ち目だと言われているが、それでもそれだけネットが多くの人のものになり、オタクとリア充の境目もなくなっているのだろう。

 

 また、この絵のツイートに対して、「“不適切な内容が含まれている可能性があるツイート”と設定した上で投稿しているのだから良いのではないか」「嫌なら見なければ良いのでは」という意見もあった。

 これは、主だった批判の対象となっているものについて理解できていない(あるいは意図的に無視している)と思われる。

 今回おもに批判の対象となっているのは、絵そのものではなく、絵が描かれることになった経緯についてである。また、そもそも当該の絵を見ないことには批判も賞賛も不可能だ。よって、「嫌なら見なければいい」という意見は的外れな批判だと言えるだろう。

 

 そして、もし私がこの被写体、あるいは似た属性の少女の立場だったら、自分のような姿を描いた絵が「不適切な内容」扱いで投稿されていると知ったら傷つくと思う。

 

「“エロい”というのは褒め言葉にもなり得るから良いのでは」「嬉しいか傷つくかはは本人次第なので、外野があれこれ言うことではないのでは」という意見も散見され、それはそれとして一理あるとは思う。だが、絵とキャプションを見る限り、グラビアアイドル活動や自分撮り写真とは違い、当人が自分の意志で性的に魅せようと振る舞っていたとは考えにくい。

 おそらく当人が望んではいないカタチで、性的にネタにされ消費されているという点からも、この絵の公表はは被写体への配慮に欠けていると言える。

 

じゃあ、どうすれば良かったか

 今回、炎上しないためにはどのように対応していれば良かったのだろうか。私は、以下のいずれかがベストだったのではないかと考えている。

  • 公開しない
  • 公開範囲を制限する

 非公開アカウントや、友人限定公開のSNSやパスワード付きのページ、同人誌即売会、有料noteなどを利用し、「限られた人しか閲覧できない状態にする」ことで、批判・炎上をまのがれることができたのではないだろうか。

  • 許可を取った上で描く

 今回の被写体は14歳とのことで、本人および保護者(芸能活動をしているなら事務所などが含まれる場合もあるだろう)から許可をもらうことができれば、着衣姿のスケッチは問題ないと思われる。(下着やヌードなど、アダルトなものは条例違反になる可能性が高いと考えられるが)

  • キャプションを変える

「お兄ちゃんに会いにオープンキャンパスに来た巨乳JCを描きました」や、「こんな妹が欲しい!」などと書いておけば、あくまでもフィクションだとの言い訳が可能だろう。

「実話だからこそ萌えるんだ!」という意見もあると思う。二次元にしかいないと思っていたような人物が実在した興奮、その気持ちは私も決して分からなくはない。

 しかし、相手は生身の人間である。これから成長し、経験を積み、やがて老いていくという命を持った女性である。彼女および似た属性の人物を傷つけてしまう可能性への最大限の配慮は必要だろう。

 描きたいままの状態で公表できないことはやや残念ではあるが、不特定多数の場に公開する際には多少の表現を犠牲にするということもまた、創作・制作の醍醐味とも言えるのではないだらうか。

 

 私は表立って公表している作品は少ないものの、際どい事象を扱った作品もごくたまに描くことがある。発表の際はどのような点に留意すべきかを考え、人権と、表現の自由の狭間をこれからも泳いでゆきたい。

 

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