これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

この本がすごい!2019年下半期

 昨年はとにかく、とにかく良い本にたっっくさん出会えました。上半期もいい本をいっぱい読めたけど、下半期は近年稀に見るくらい良質な読書ができました。

 毎半期恒例の「今期読んで良かった本ランキング」。前置きすらもどかしいのでサクサク紹介していきたいと思います。

「2019年に発売された本」ではなく、この時期に「私が読んだ本」なので、古い本が入ることもあるかもしれません。

 では、いってみましょう!

 

※本のAmazonリンクは、基本的にKindle版を貼っています。Kindle版がないものは紙の本のリンクです。

16位 欲望する「ことば」 

 広告会社のCEOと、大学の経営学者による共著。私はWebマーケティング系の業界にいたことがあるので、より興味深く読みました。ビジネス的な視点もアカデミック的な視点も、どちらも知ることができたのが面白かった。言葉と社会記号、フレーミングについてのくだりが特に印象的でした。

15位 誰でもできるロビイング入門 

誰でもできるロビイング入門~社会を変える技術~ (光文社新書)

誰でもできるロビイング入門~社会を変える技術~ (光文社新書)

  数年前に買って読みかけたまま放置していた本。NPO活動に取り組む友人が「日本語で書かれたロビイングの本は少ないから励みにしている」と紹介していたのをきっかけに読み進めてみました。

 ボリュームがあり、やや読むのに時間がかかったけれど、ロビイングについてはあまり知らなかったため勉強になりました。著者の明智さんだけでなく、駒崎弘樹さんや荻上チキさんなど、ほかの人の経験談も掲載されていた点も良かったです。

 国会議員や自民党の取り組みについて知れたのも有意義でした。当事者が取り組むことの大変さ、Allyの人たちの重要性も再認識。

14位 カスハラ モンスター化する「お客様」たち

  NHK勤務の友人がこの本(というか、番組)の制作に関わっているということを知り、読んでみました。

 個人的な興味から、これまでクレーマーについての本は何冊か読んだことはありましたが、この本は「本当にいたヤバい客!」のようなゴシップ的な視点ではなく、問題が起こる背景にまで視点を向けているところがさすがNHKという感じ。クレーマー本人への取材を読めたのも良かったです。

 ところで、個人的には「クレーマー」という用語の使い方が気になりました。私は、ごく一般的なクレームを入れる人のこともクレーマーと呼ぶと思っていて、悪質な人は「悪質クレーマー、モンスタークレーマー」と呼ぶと思っていましたが、この本では悪質な人だけ「クレーマー」と呼んでいるようでした。

13位 ダメOLの私が起業して1年で3億円手に入れた方法

ダメOLの私が起業して1年で3億円手に入れた方法

ダメOLの私が起業して1年で3億円手に入れた方法

 ファッション雑誌「美人百花」で著者が紹介されていてこの本を知りました。年が近いので親近感が湧く部分もありつつ、「全然ダメOLじゃないじゃん!」と思う部分も。でもたしかに、ここで紹介されているひとつひとつの要素はどれもすごい能力が必要なことではなく、とても基本的なことかもしれない。そういう、地道な積み重ねの大切さや自己肯定感について学ぶことは多い本でした。

 仕事のために女をアピールすることや、恋愛の相手を頼ることについての考え方は、読む人によって好みが分かれるかもしれないし、ポリコレ的には危ういなと思う部分はありました。でも、他にはないとても実用的な考え方ではあり、面白かったです。

12位 鴻上尚史のほがらか人生相談

鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋

 ネットで時々話題になっている、劇作家の鴻上尚史さんによる人生相談の連載をまとめた本。

 私は鴻上さんは劇作家としては大ファンで、「第三舞台」や「虚構の劇団」のDVDもいくつも持っていますし、講演を聴きに京都まで行ったこともあります。

 鴻上さんが、日本の空気・世間について書いている論考も大好きなんですけど、この人生相談は正直そこまでもてはやされるほどかなぁ……? と思っていました。(鴻上ファンの友人も同じような意見だった)

 なんというか、私は鴻上さんのキレッキレの言葉やグイグイ引き摺り込んでいく世界観、シビれるような演出センスが大好きなので、優しく寄り添うようなこの人生相談のスタイルは、私が求めている仕事とはちょっと違うんですよね……。

 ただ、そんな私でもこの本から得たものは大きかった。1冊通して読むことで、思考方法をトレースでき、自己拡張できたことは大きかったです。

 この本を読んでいた頃、友人の相談混じりの愚痴を聞く機会があったのですが、その際に「その考え方はなかった」と言ってもらえたこともありました。

 

 ちなみに私は、岡田斗司夫オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)』が人生相談本の最高峰だと思っていて、この前も久しぶりに読み返しました。(2012年の、今年読んで良かった本の第1位に選んでいます)

 鴻上さんにしても上野千鶴子先生にしても、朝日新聞の人生相談は読み応えあるものがとても多いですね。

11位 地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門

 友人たちとの小規模な読書会を開催した際、この本が課題図書になったので読みました。「読みやすくて面白い」という友人からの評判通り、小説形式だったのであっという間に読み進められました。

 東京で働く平凡なサラリーマンの主人公が、地元で再会した同級生とひょんなことから地域活性化事業に取り組むことになった……という物語。

 お盆の時期に読みましたが、帰省してたらよりリアリティを持って読めたかもしれません。小説としてはやや駆け足で詰め込まれている感じもありましたが、著者の実際の経験がもとになっているという点もすごい。モデルになった場所にも訪れてみたいと思いました。

 また、地域再生が主題の本ではありますが、コミュニティ運営、コミュニティデザインの側面からも示唆に富む部分が多かったです。

 詳しい感想は、こちらのnoteにも書きました。

note.com

10位 学校を辞めます 51歳・ある教員の選択

学校を辞めます

学校を辞めます

  • 作者:湯本雅典
  • 出版社/メーカー: 合同出版
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: Kindle

 私の、小学校3〜4年の頃の担任の先生が書いた本。著者の湯本先生は約14年前に教員の仕事を自主退職され、現在はドキュメンタリー映画を撮っています。

 この本では、私が通っていた学校の次に赴任された、荒川区の小学校での出来事がメインに書かれていました。

 個人的には、まず冒頭の内容がショッキングでした。私にとっては、小3〜4の頃は割と楽しかった時期だったから、その頃から先生はかなり思い詰めていた、ということを知ってしまったのは衝撃的でした。その一方で、「そうか、だからこそ不登校の子の苦しみにも理解があり、いじめ、友達、動物の命に関する取り組みにもあんなに心がこもっていたのか……」と腑に落ちる部分も。

 この本は、教育現場で起こった問題点を中心にしたエッセイ。薄い本で、すぐに読めました。まるで、noteやブログで時々バズっているような、ブラック企業の告発文を読んでいるような気分になりました。

 私が通っていた渋谷区の小学校のことも少し書かれていましたが、放課後の公園で遊ぶ子どもについての認識は私と大きく違うことが個人的には気になりました。(これはどちらが正しいということではなく、大人と子どもの視点の違いだと思います)

 また、私が小4の頃から先生が放課後に行っていた、居残り勉強の会「じゃがいもじゅく」がやがて私塾になった経緯も知ることができ、思わず目頭が熱くなりました。

9位 ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた

  研究者の友人がSNSで紹介していたことで知りました。一橋大学のゼミ生たちが、教授と一緒に書いた本だそうです。

 ジェンダーセクシャルマイノリティフェミニズムの入門書としての読みやすさはあるものの、適度に骨があり、ポイントはしっかり押さえられていて読み応えもありました。大学生向けの本という印象が強いものの、企業のダイバーシティ担当者にも良いかもしれません。

 個人的には、アセクシュアルの存在や「童貞いじり」の問題点についても触れられていたのが良いなと思いました。
 惜しむらくは、(紙面の都合だとは思いますが)ここで紹介されている考え方はやや一面的かなと思えたこと。欲を言うなら、もう少し賛否分かれるような、多様な意見も取り上げて欲しかったな、と思いました。

8位 この顔と生きるということ 

この顔と生きるということ

この顔と生きるということ

 ユニークフェイスの本をいくつか読んでいた矢先に、この本の発売を知りました。中学時代に立ち読みした『ジロジロ見ないで―“普通の顔”を喪った9人の物語』や、2年前に発売された『顔ニモマケズ─どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』という本に出ていた方も何人か再登場していることを知り、興味を持って読みました。

 結論からいうと、これまで読んだユニークフェイスの本の中では、この本がいちばん良かったです。

 著者の岩井記者が、あざの特殊メイクをして街を歩いたときの記事も、ライターのヨッピーさんが紹介したことで話題になりましたね。(この記事の内容、本の中でも紹介されています)

withnews.jp

 この本は、見た目が特徴的な人たちへのインタビュー集。就職や恋愛でのつまづきや喜びなども垣間見れ、いろんな一社会人のエッセイとしても純粋に面白さはありました。

 また、「小人プロレス」についての是非や、「アルビノになりたい」と発信したユーチューバーの炎上など、考えさせられる論点もたくさんありました。

 顔にゆがみのあるお子さんを持つ、岩井記者の父親としての葛藤も伝わってきました。「顔について何か学校で言われてないか?」と心配することは、「君の顔は、いじめられやすい顔だ」というメッセージを含んでしまうことにもなりうる。見た目問題を抱える当事者に「内面を磨けば大丈夫」と安易に言うことは、当事者にばかり努力を押し付けることにも繋がるのではないか……

「結局、ユニークフェイスの人にはどう接すればいいのか」ということについても、私の中でもある程度の答えが出た気がします。どのようなことに傷つき、どのようなことに喜ぶかは人それぞれだし関係性によっても異なってくるということ。そんな当たり前のことを再確認した1冊でもありました。

 この本は、見た目問題に限らず、「他者とのコミュニケーションのあり方」について多方向から考えさせられる1冊でした。

7位 ケーキの切れない非行少年たち

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)

  • 作者:宮口幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/26
  • メディア: Kindle

 ネットの記事で話題になっていて知った本。薄く読みやすい本で一気に読んでしまったものの、内容としてはとても読みごたえがありました。

 私自身にも心当たりがある挙動があってドキッとしたり、昔、私をいじめていた男子たちももしかしたら該当していたのかも……と思えたエピソードも。確かに、不良っぽい男子の中には、忘れ物の回数が異様に多かったり、じっとしていられず教室を出ていくタイプの人もいたなぁ……。

 また、性の問題は、違法薬物や殺人などと違い「適切さ」を教えるのが難しいこと、学校の勉強以前の認知能力を鍛えることの重要性、精神科病院に連れてこられる子どもと非行少年の違いの話も興味深かったです。病院に連れてこられる子は家庭環境もそこそこ安定していて、親も「子どもを診てもらいたい」というモチベーションがあり、その点は非行少年とは違う……というのは納得。

 あと、私も働き方の文脈でたびたび言及している「第1次産業や第2次産業が減り、人間関係が苦手でも第3次産業を選ばざるを得なくなっていること」についても触れられており、その点も印象に残りました。

 

 そして、本筋と直接関係ありませんが、この本の著者は私の出身大の教授であることや、前任者の教授が亡くなられていたこともこの本で知り、驚きました。(前任の教授は、『反省させると犯罪者になります(新潮新書)』などの著書が有名な、岡本茂樹先生です)

6位 ダイエット幻想 やせること、愛されること

  SNSでも評判が良く、読書家な男友達も勧めていたので読んでみました。

 文化人類学者の著者が、「やせたい」という気持ちはどのように生まれるのかということや、理想とされる体型の歴史的変遷を明らかにしていく1冊。「ダイエット」とタイトルに入っていますが、医学的・栄養学的にどうだという話はなく、文化的な側面からアプローチしている点が面白いなと思いました。

 私はダイエットの経験はあまりありませんが、これはダイエットの本というより、SNS依存やジェンダー、承認欲求、自分らしさなど、広い意味でのコミュニケーション、生き方についての本でした。

「#MeToo」運動や芸能ネタなど、卑近な話題を扱っていてとっつきやすさもあります。

 とある広告に使われていた「Girls Power」という言葉や、「かわいさ」「若さ」についての考察も、著者の主観的な主張がやや強いかなと思う部分はありつつも、その分析には一定の説得力があるなと思ったり。

 

 近年は美容整形を肯定的に捉える人も増えており、それ自体は悪いことではないと思っています。

 ですが、「他者からまなざされること」や、「他者と比較して生きること」を自明のものとせず、そこをもう少し疑問視した方が生きやすくなるかも……? と考えることができた1冊。

 この本が出たレーベルの「ちくまプリマー新書」は、中高生向けで読みやすいだけでなく、テーマも見事に私好みのものが多いです。

5位 炎上しない企業情報発信 

 私は去年までWeb広告関係の企業に勤めており、且つ、SNSでの炎上案件にも関心があるのでとても面白く読めました。

 著者の主観は強すぎず、あくまでも「ビジネスの世界的な潮流と合致しているか」の観点からの批判が主で、いわゆる過激なフェミニズムっぽさがないのも良かったです。女性差別的かどうかだけなく、CMでの男性の扱われ方への批判も取り上げられており、バランスも取れていて良い本。異文化論としても興味深さがありました。

 この本が出たのは2018年10月。2019年は、西武そごうやLoft、献血ポスターなど様々なジェンダー広告炎上案件が起こりましたが、著者はそれぞれどう評価したかな……ということも気になりました。

 

 後半のディズニープリンセスのくだりも、想像以上に興味深いメディア批評や表象論が展開されており、女児向けアニメ論としても面白かったです。

 ディズニープリンセスだけでなく、プリキュアなどについても取り上げられています。フェミニストにもオタクにも楽しめる1冊。

(……しかし、この本でこれだけ絶賛されているディズニーが、アナ雪ステマ問題のような騒動を起こしてしまったのはとても残念)

4位 みんなの「わがまま」入門

みんなの「わがまま」入門

みんなの「わがまま」入門

  • 作者:富永京子
  • 出版社/メーカー: 左右社*
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: Kindle

 この本が20年前にあればよかったのに。

 ただただ、そう思えて仕方がありませんでした。中高生時代の自分に貸したい1冊。

 この本は若い世代向けの、広義の「社会運動」の入門書。実際に中高生に向けた講演で盛り上がった内容だそうです。

「廊下が寒いのでエアコンをつけて欲しい」「売店のパンを増やして」など、卑近な「わがまま」を扱っていて平易な書き口であるものの、しっかりとポイントは押さえてある良書。「わがままを言う」ことを、困りごとを抑圧しない、ポジティブなこととして扱っていることもとても良い。

「わがまま」までいかないような「モヤモヤ」についての受け止め方も良かったです。

 例えば、「『浪人にならないために』というメッセージを出している学習塾の広告にモヤッとする」という学生さんの意見に対し、著者が「『ふつう』のキャリアを理想視してそのコースを進ませようとすることに対してモヤモヤするというのは、すばらしく社会的な着眼点。それは『大企業に勤めたほうがいい』とか『結婚して一人前』という社会規範に対する疑問とも繋がってくる」と述べていたくだりは、とても印象的でした。

 近年は、ともすると「そんなの単なる『お気持ち』案件だろう」「私企業がどのようなメッセージを打ち出そうが自由では」と一蹴されがちな中、わだかまりを社会問題として解きほぐしていくアプローチには心強さを覚えました。

 

 広義の「ダイバーシティ」や多様性、ポリコレ的な言動についても平易な言葉で触れられていて、若い世代だけでなく、多くの人におすすめできる本です。「ツンデレ」や「保育園落ちた日本死ね」など、漫画やネットスラングの引用も多く、気軽に読み進めやすい内容となっています。

 

 とはいえ「わがまま」を言うことに抵抗がある、デモも怖い、炎上もしたくない、田舎だからできることが少ない、お金もない……という人でもできることも具体的に書いてあり、一歩踏み出す勇気をもらえる1冊。

 社会問題との向き合い方に関しても「ブレていい、途中でやめてもいい」ということが書いてあり、とても励まされました。

「社会運動やデモとか、政治的なことはなんだか怖そうなイメージ」という人でも、世の中や学校・職場での不満や困りごとがあるひとは多いはず。些細な困りごとをどう解決していけばいいか、異なる他者とどのようにすり合わせを行えばいいか、広義の「コミュニケーション」の本とも言えると思います。

 

 余談ですが、著者の冨永先生は私と年齢も問題意識も近く、今は、私の出身大である立命館大学で教えているそうです。その点でも親近感を持っています。

3位 美容は自尊心の筋トレ 

美容は自尊心の筋トレ (ele-king books)

美容は自尊心の筋トレ (ele-king books)

  • 作者:長田 杏奈
  • 出版社/メーカー: Pヴァイン
  • 発売日: 2019/06/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 編集者や文筆業の女友達たちが絶賛していたので読んでみました。なるほど、たしかにこれは良いものを読めた。

 読み始めた当初は、美容家の齋藤薫さんのコラムと似たような感じっぽいかな……と思っていましたが、ぜんぜん違うものでした(齋藤さんのコラムはそれはそれで大好きです)

 あとがきに、著者は編集さんから「美容本のコーナーではなく、フェミニズムの棚に置いてもらえる一冊にしたい」と言われたというくだりがありましたが、まさにそんな本。

 美容そのもののテクニック集や、精神論の本ではありません。「キラキラした華やかな美容の本は苦手」「地味で陰キャな私には、美容なんて関係ない」と思っている人に、まさに読んでもらいたい1冊。

 自尊心や自己肯定感、モテ非モテ、こじらせ、生きづらさ、ルッキズム、障害やユニークフェイスなど、最近の私や友人たちの関心ごととピッタリでその点もタイムリーでした。

 また、文章内での予防線の貼り方というか、多様な人への配慮が丁寧なところも、文筆家の仕事としてとても憧れました。

 モテるための美容だって大いに結構、だけど「あなたの美容はモテるためでしょ?」と決めつけることには異を唱える。口ひげや脇毛をあえて処理しない美意識にも目を向けつつ、長田さん自身は処理をする派。ご機嫌でポジティブなことは素敵だと賞賛しつつ、怒るべきときに怒り悲しいときに涙を流す人のことも魅力的だと肯定する。

 同じような言葉でも、「どのような文脈なら違和感はなく受け入れられ、どういうシチュエーションだとネガティブになるか」ということもかなり解きほぐされて書かれています。ここまで多方面に配慮しつつ、且つ、文章としてのツヤを失わないものが書けることも素直に尊敬します。

 

 長田さんは、世渡り仕草としての「謙遜」は否定しないし、美のストライクゾーンが狭い人の価値観もリスペクトする。自虐する人のことをそれだけで嫌いになることもない。でも、それだけではない世界の可能性を「美容」のカテゴリから大風呂敷で見せてくれます。

 気休めの感情論ではなく、文化の違いやメンタルに与える影響など、丁寧でロジカルな部分も多く、力強い納得感を持って読むことができます。「仕事で多くの人と関わっている、美容業界のプロが言っているのだから」という部分にも頼もしさがあり、まるで、信頼できる先輩に心を預けて話をしているような気分になります。

 

 以前、この本を勧めていた友人と話したとき、読書嫌いを自称する彼女が「良い本だったので、もう一度読み返している」と話していたことも印象的でした。私もこのブログを書くにあたり本棚からこの本を取り出しましたが、読み返したくなってもう一度最初から読み返しました。

 印象的な箇所が多すぎて、逆に1枚も付箋を貼れなかったのがこの本です。そして、読み返すたびに印象に残るエピソードが変わる本だと思っています。年を重ねたりライフステージを迎えるごとに、この本からもらえるパワーの質も変わってくるんだろうな。きっとこれから先の人生、何度も読み返すことになるんだろうなと思える1冊。発売から早いスピードで重版がかかったというのも納得です。

 女性に限らず、見た目や非モテ、こじらせ、ポリコレなどのワードに関心のある男性も、一読の価値はあると思っています。「魅力をインストール」「美のアーカイブ」などの比喩も多用されており、生々しい女性性も薄く、とっつきやすいかと思います。

 個人的にはこの本、もっとも「2019年らしい」本だと思いました。世の中の多様な美に目を向けていくことになる潮目として、とても象徴的な本だと考えています。

2位 欲望会議 「超」ポリコレ宣言

 2日間で一気に読了しました。1年前の発売当初から話題になっていましたが、評判通りの面白さでもっと早く読むべきだったと後悔した1冊。1ページ読むごとに電子書籍の付箋やマーカーをつけて、久しぶりに、付箋やマーカー数の上限を気にしながら読んだ本。

 小説『デッドライン』が芥川賞候補にもなった哲学者の千葉雅也さん、恋愛本の著作も人気なAV監督の二村ヒトシさん、いわゆるネトフェミとは違い、まともなフェミニストとしても評価の高い美術作家の柴田英里さんの、3人の対談形式の本です。

 内容的には全面に賛同できるというわけではないんですが、ここで語られていた視点を脳内にダウンロードすることで、世の中の炎上案件や傷つきへの解像度が高まった気がします。

 エログロやサブカルフェミニズムジェンダーセクシュアリティ現代アート現代思想どの観点からも面白かった1冊。

 千葉さんの話からは、私が知的にもっとも信頼している友人のひとりである、文学研究者の友人との会話を思い出します。

 二村さんは実業家ということもあり、現実に即した考え方でとてもバランスが取れている方だな、と思いました。

 柴田さんの考え方には支持できる部分と支持できない部分があり、自分にない視点はそれとして興味深く受け取りました。

 例えば表象の問題に関しても、私は、ドラマやアニメや小説、漫画など、観たい人がお金を払って観る「コンテンツ」と、それを見たくもない人に見せることを目的とした「広告」では許容される表現の範囲は異なると思っているのですが、柴田さんはどちらのケースでも「表現の多様性を認めるべき」という立場である点は、そこは私とは大きく違うなと思いました。

「本当のマイノリティの欲望は、ゾーニングを超えなければ延命できないという思いもある」

「私は、ジェンダーは構築されたものであり、自ら構築することも可能なものだと考えているけれど、セクシュアリティに関しては、変更不能な本質的な部分もあると考えます。

 つまり、完全なゾーニングをすると、必然的に異性愛の欲望ばかりが表面に出てきてしまう。」

 などのくだりも、印象的でした。


 この本は、タイトル通り「欲望」について多方向から丁寧に向き合っている本。

 この本を読んでいる最中、自分自身の欲望についても突きつけられる部分がありました。本の前半では私の中学時代、後半では私の小学生時代の、一般的でない「欲望」についてたびたび思い出し、「あの頃の“こじらせ”の大半はこの本で説明可能だ」ということに気づいてスッキリしたと同時に、12歳が悩むにはあまりにも重すぎるし、どう向き合うべきだったかは未だに結論が出ないな……なんてことを思ったりも。

 

 また、私はかつて自動車の広告関連の会社にいたので、

「F1のグリッドガールが、表向きには女性がセクシーすぎるということで廃止されたけれど、背景にはイスラムマネーが強くなっているからというのもある。ポリコレ的な配慮というのが社会的には前面に出てくるけれども、背景には資本の力がある」

イスラムの資本が圧倒的になったら、『ポリコレ的に正しくないから顔や身体を露出した女性を描くな、ゲイやレズビアンは描くな』になる」

 という点も、そういうことだったのか……と目から鱗でした。

(あと、私は「ポリコレに配慮」するならむしろ「ゲイやレズビアンを出せ」という方向になるかと思っていたので、その点はやや意外な気もしました) 

「ポリコレというのは、なるべく交換がスムーズにいくようにするということ」という定義も一理あると思いました。

1位 こんな夜更けにバナナかよ

『欲望会議』とどっちを1位にするか迷いましたが、こちらを1位にすることにします。2018年に大泉洋主演で映画化もされたノンフィクション。

 福祉系の友人が薦めていた本をネットで探していたとき、渡辺一史なぜ人と人は支え合うのか ──「障害」から考える (ちくまプリマー新書)』という本を見つけました。評価が高かったので読んでみたら、案の定とても良い本。本の中でたびたび言及されている『こんな夜更けにバナナかよ』の方も気になったので読んでみたらそちらも名著だった……というのが、この本との出会いのきっかけです。

 

 北海道で暮らすライターの著者が、ひょんなことから重度身体障害者鹿野靖明さんを取材することになり、その2年4ヶ月を描いたノンフィクション。

 筋ジストロフィーを患い、24時間のサポートが必要な鹿野さん。「病院ではなく、自宅で自立生活を送りたい」ということで集めたボランティアたちとの交流や葛藤が描かれています。

 タイトルは、鹿野さんが夜中に「バナナが食べたい」と言い、ボランティアにバナナを買いに行かせたエピソードから抜粋したとのこと。

 障害者のワガママはどこまでが妥当? タバコを吸うのはアリか?

 自慰行為など、性の介助はどうあるべきか?

 とにかくいろんなことを考えさせられた作品。

「タバコは身体に良くないですよ」と反対するボランティアに「うるさいな、俺の勝手だろ」と言う鹿野さん。そこでボランティアと揉めて険悪になるかと思いきや、「あいつはなかなか骨のあるボランティアだ」と鹿野さんが評したエピソードも印象的です。

 鹿野さんのエピソードのほかにも、さまざまな障害者運動について引用されており、大きな駅にエレベーターが設置されていることはかつての障害者運動の結果だということなどを知れたことも大きかったです。

 鹿野さんは結婚していたこともあるそうです。また、鹿野さんと元カノとのやり取りを読んだときは、「これ、今で言うところの『メンヘラ』や『メサコン』かも……」と思うところもあり、その観点からの興味深さもありました。

 

 また、「鹿野のワガママに、どす黒い気持ちになったこともある」ということにも、著者は本の中で触れています。(この本が発売される前年である、2002年に鹿野さんは亡くなっています)

 私自身は「そんなふうにワガママに振舞いつつも、これだけ多くの人がボランティアに集まるのだから、鹿野さんはなんだかんだ憎めない存在で愛されキャラだったんだろう。私もお会いしてみたかったなぁ」なんてことを考えたのも束の間……いや、ちょっと待てよ。

 そういえば私自身も以前、障害のある知人に振り回されていたことがありました。

「自分は障害者なんだから」を盾にワガママを言う友人がおり、立場上なかなか離れることができず、どうすれば離れられるかひたすら悩んでいた時期がありました。

 その人に会うまでは「障害のある人は、人の痛みが分かる心優しい人なんだろう」と勝手に思っていました。やがて、その人の家族とも交流していくうちに「この人は『あなたは障害があるんだから』と、親から甘やかされて育ったのではないだろうか」と推測しました。

 当時、「こいつ以上にワガママな人間には、今後の人生、出会うことはないだろうな……」とはっきり思ったのを覚えています。(そして実際、その人以上にワガママな人物にはその後、出会うことはありませんでした)

 この人は障害と関係ないワガママがほとんどでしたし、私は別にボランティアとして関わっていたわけではありません。なので、鹿野さんとボランティアの関係と比べてしまうのが乱暴であることは承知していますが、他者のワガママに振る舞われることの面倒くささを思い出し、「あぁ、鹿ボラの人たちもあんな気持ちだったのかもしれないな……」と想像することができました。

 あと私は現在、身内に車椅子生活で意思疎通がやや困難な者もいるので、他人事とは思えない部分もありました。また、知人のお子さんが筋ジストロフィーということもあり、その点でも興味深かったです。

 

 「障害者のワガママ」を考える際、特に印象的だった箇所について(一部編集した上で)以下、抜粋します。

 自立生活の場面では、障害者の側は常に「日常生活」を営んでいる。

 例えば、痰の吸引、体位交換、食事介助、ガーゼ交換、歯磨き介助など……言うまでもなく、これらの介助を鹿野が要求することは、何らワガママではない。これをワガママと言われたら鹿野の立場はないし、それをサポートするのが介助者の仕事であるのは当然である。

 しかし、健常者なら、誰でも自分のカラダで実現できること──気分しだいでテレビのチャンネルをパチパチ換えたり、CDを入れ換えたり、ファミコンに熱を上げたり、夜中に突然腹を減らして何かを食べたり、ということも当然のことながら介助者がサポートしなければならない。

 さらに、ときに人間がそれとわかっていながら求める有害なもの、危険なもの、あるいは、障害者にも悪徳を犯したり自殺したりする自由があるともし考えるなら、「自立を支える介助とは何なのか?」という問題はわからなくなる。

 同様に、暴飲暴食は止めるべきなのか、電話で気に入らない人間に悪態をついているのを聞けば何か言うべきなのか、ムシャクシャしてひっくり返したものの後始末は黙ってすべきなのか……。それが障害からくるものなのか、性格によるものなのか、体調によるものなのか、一時的なものなのか、しばし見分けがつきづらいのが日常生活である。また、恋愛やマスターベーション、セックス介助など、より私的な部分にまで踏み込むとき、「障害者も健常者も同じ人間」という大原則は、どこまで無条件に適用できるものなのか──。

 

 あと、高等教育や若者文化、社会運動の歴史について興味がある私は、

1980年半ばには、「ボランティアはまだまだマイナーな存在」であり、「どこか左翼くさい雰囲気」が漂っていた。

「当時の大学は、テニスサークルやナンパサークルの全盛期。ただ、前の時代の余韻で『社会変革』というキーワードもかろうじて生き残っていた。ボランティアに集まってくる学生は、良くいえば社会問題に関心が高くて一人ひとり魅力があるんだけど、悪くいえば、ナンパサークルの雰囲気から取り残された“イケテない”ダサイ感じの人たちが多かった」

 という部分も印象に残りました。

 

 映画版も観ましたし、映画は映画としていい作品ではありましたが、あの映画はこのノンフィクション書籍とは別物だな、という印象です。

 映画では、ボランティアスタッフの医大生とその彼女、そして鹿野さんの三角関係がコミカルに描かれています。ですが、原作のこのノンフィクションは、さまざまなボランティアたちの群像劇であり、著者の渡辺さんの物書きとしての成長物語としても面白かったです。

 この本の文庫版・Kindle版には、鹿ボラの主要メンバーの後日談も掲載されていました。ボランティア当時は学生で、その後教員になり「あのボランティアは自分にとって大きな経験になった」という人もいれば、メディアの記者になり「あの場所だったからできたことだと思う。今はもう目の前の現場のことに精一杯で、ボランティアのことを思い出すこともあまりない」という人もいて、ボランティアの経験の受け取り方も様々なんだな、ということを実感しました。

 ボランティア内で結婚したカップルも複数いて、鹿野さんのお葬式の時には赤ん坊のぐずる声も聞こえており、生と死の繋がりを感じた……というエピソードも印象的です。

 この本の出来事は、1990年代後半〜2000年代初頭のことがメイン。当時はネットもケータイも一般的ではなく、ボランティアスタッフ同士は「介助ノート」での交流も多かったようです。鹿野さんのワガママっぷりも、今なら絶対炎上しただろうな。

 鹿野さんの映像って残っていないんだろうか……と探してみましたが、カメラ付きケータイすらあったか怪しい時代ということもあり、ネットでは見つけることはできませんでした。(映画のエンディングでは一瞬、本物の鹿野さんの映像も映し出されていました)

 

 この本は7月下旬、青春18きっぷを使った旅の帰りに読み終えました。終盤は、電車の中でボロボロ泣きながら読みました。

 ちょうど、ALSの参議院議員が誕生したこともニュースになっていた時期で、そういった意味でもタイムリーでした。(筋ジストロフィーとALSは異なる病気ではありますが、近似するところがあるようですね)

 タイムリーといえば、この本を知るきっかけとなった『なぜ人と人は支え合うのか』にも言えます。今年の1月、相模原障害者殺傷事件の植松被告の公判がありましたが、この『なぜ人と人は〜』では、この事件や植松被告の生い立ちについても多くのページ数が割かれています。中高生向けの新書(ちくまプリマー新書)なので読みやすさもあります。

 

『こんな夜更けにバナナかよ』はページ数が多くて読むのに抵抗があるし、そもそも障害者の福祉にそこまで興味ない……という人には、まず『なぜ人と人は支え合うのか』を読むことをおすすめします。私もその順番で読みましたし。

 こちらの本では、

「障害者が社会に贈与を『与え返す』機会について」

「システム化された福祉は誰も傷つかない代わりに、ドラマもない。ドラマのないところに人間の尊厳も生まれない」

「障害のある自分のことを、ちゃんと、かわいそうな存在として見てほしい。仕事だからやるんじゃなく、心が動かないとダメ」

「介護というのは、お互いに気持ちのいいところを探り合うもので、その意味ではセックスと一緒」などのくだりが印象的でした。

 近年は、感情労働への批判が高まり、きちんと対価を払って依頼することこそ正義とされがちなところがありますよね。それに反するかのような意見はとても興味深く、読んだことでこれまでと考え方が変わった部分もあります。

 

 それにしても今期は、近いテーマの本を同時期に読むことが多く、情報の吸収率というか考察が特に捗りました。おすすめの組み合わせをいくつか紹介すると、

『こんな夜更けにバナナかよ』×『みんなの「わがまま」入門』

 障害者が「普通に生きたい」と思うことは「わがまま」なの?

 そもそも「わがまま」って悪いこと? 自分だったらどうする? どこまでならOK?

 多くのボランティアを巻き込み、命がけのワガママを主張して福祉にも影響を与えた鹿野さんの生き様に目を向けたり、近年の「社会運動」をめぐる世の中の動きについて思いを馳せたり、いま自分自身が抱えているモヤモヤを考察してみると、より深い内省や読書体験ができることでしょう。

『欲望会議』×『炎上しない企業情報発信』

「多様な欲望を肯定すること」と「多様な人に向けた情報発信」は、どうすれば両立可能?

 情報の受け手側は、不快なものとどう折り合いをつけていくべき?

 情報の発信側は、どのように配慮すべき? 

 それぞれ、どのような影響が考えられる?

 ある意味では主張が正反対とも言える2冊を読み比べると、いい感じに脳内のバランスが乱れてきます。

『美容は自尊心の筋トレ』×『ダイエット幻想』

 いくつになっても「若さ」「かわいさ」を追求することについてどう思う?

 そもそも「若く見られたい」「いくつになっても可愛くありたい」というのは、本当に当人が望んでいること? 社会的な抑圧によるものではないのか?

 類似のテーマを扱いつつ、エイジズムや「イタさ」についてはこの2冊では微妙に立場が異なる部分も。特に『美容は自尊心〜』の方では、1冊の本の中でも立場の揺らぎが見受けられて、それもまた面白いなと思いました。

『こんな夜更けにバナナかよ』×『この顔で生きるということ』

  それぞれ障害の質は異なり、恋愛や仕事の上での問題も異なってきています。どこまでは個人で引き受けるべきことであって、社会の側はどのような考慮をすれば良いのか? この2冊を読むことで少しずつ自分なりの答えが見えてくるかもしれません。

『ケーキの切れない非行少年たち』×『カスハラ』

 非行少年やモンスタークレーマー。彼らはどのような理由からそのような行為に至ってしまうのか。両者について思いをめぐらせることで、人間の認知の歪みについて考えさせられるのではないでしょうか。 

 

 

 ……あぁ、とっても長い記事になってしまった。

 今回取り上げた本は、大きく価値観が揺さぶられたものがとても多く、私と問題意識が近い方(必ずしも賛否が一致する必要はなく、社会課題として興味を持つものが近い方)には、上位の本は特に自信を持っておすすめできるものばかりです。

 ぜひ、読んでみてください!