これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

この本がすごい!2017年下半期

 年が明けたばかりの真新しい空気、大好き。SNSの投稿にも気合の入ったものが多くて、読み応えがあります。(そういうのを見てばかりだと、それはそれでちょっぴり疲れちゃうから、ほどほどにはしていましたが)

 そろそろ新年ムードも落ち着いてきて、日常が始まりましたね。

 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

 

 さて、毎年恒例の「昨年読んで良かった本ランキング」、今年も発表したいと思います。

 7月に「上半期編」を発表したので、今回は、下半期に読んで良かった本を紹介したいと思います。

 この「読んで良かった本ランキング」、だいたい10冊か5冊を紹介することが多いのですが、今回どうしても絞れなかったので、12冊紹介したいと思います。

12位 文学に見る異文化コミュニケーション

文学に見る異文化コミュニケーション―川端康成『伊豆の踊子』の場合

文学に見る異文化コミュニケーション―川端康成『伊豆の踊子』の場合

 

 9月、国会図書館に行ったときに読みました。絶版の上、中古でも売られていない本のため、読めるのはここしかなかったので。

 この本はどういうものかというと、『伊豆の踊子』を、原文と中国語で読み比べた際の違いについて分析したもの。文学も異文化比較も好きなので興味深く読めましたが、中国語を勉強していたらもっと楽しめたかも。

 ちなみにこれは、大学生の卒業論文が本になったもの。インターネットのない時代の大学生の卒論は新鮮でした。

 

 この本の著者は、29年前に起こった「比叡山女子大生殺人事件」の被害者。さまざまな事件について調べているときにこの事件を知り、その流れで、被害者の卒論が書籍化されたということを知りました。

 だから実は本編よりも、アグネス・チャンによる前書きや、著者の父親によるあとがき、そして奥付の著者遍歴を興味深く読んでしまいました。

 メディアに残っている情報を読む限り、被害者の女性は、知的でアクティブでパワフル。同年代で同時代に生きていたら、友達になりたかったです。

 

 国会図書館からの帰り道、「何の本を読んだの?」と同行者に訊かれました。「殺人事件被害者の本」と答えるのは憚られたので、「あ、えっと……大学生の卒論が本になったもの」と答えたことも、読書体験とともに印象に残っています。

 

11位 墜落現場

  この『墜落現場』よりも、同じ著者の『墜落遺体』のほうが先に書かれた本のようでしたが、私は『墜落現場』のほうを先に読んでしまいました。

 1985年に起こった、日航機墜落事故についての本。あえて、帰省する飛行機の中で読みました。

 事故そのものの記録のほか、1980年代の村の雰囲気や、葬儀社、病院、マスコミの事情なども垣間見ることができ、民俗学的にも興味深かったです。生存者4人のうち、日航職員のスチュワーデスはほかの生存者から敵視されてしまったというエピソードには、胸が締め付けられました。太った外国人の遺体のケアをした看護婦がその後何年もトラウマになった……というエピソードなども、極限状態の人間の姿が垣間見えて切なかったです。

 

10位 多動力

多動力 (NewsPicks Book)

多動力 (NewsPicks Book)

 

 自分を奮い立たせたいとき、一歩を踏み出す気力がないとき。そんなときに、動き出したり、堂々と振る舞えるようになる勇気をもらえた一冊。

「パラレルワーク」という単語こそ出なかったものの、それに関する内容でもありました。この本の前半部までは夏の終わりに一気読みしましたが、残り半分は、行動に勢いをつけたいときに少しずつ読んで摂取していく、という読書スタイルを取りました。

 結構過激な箇所もありますが、そこをどう自分なりに中和して、現実解として取り入れていくかがキモなんだと思います。「これまでの自分でやっぱりいいんだ」という自信と、「まだ結果が出てないことについては頑張らねば」という激励を感じた一冊。

 

9位 羆嵐

羆嵐(新潮文庫)

羆嵐(新潮文庫)

 

 本のタイトルは「ひぐまあらし」ではなく「くまあらし」と読むようです。

 今からおよそ100年前の北海道で起こった、「三毛別(さんけべつ)羆事件」を元にした小説。

 Wikipediaの「三毛別羆事件」の項目も読み応えがありますが、こちらの本も読み応えがありました。風景の描写やそれぞれの人物の振る舞いから、時間の流れ、心情の変化も伝わってきて、ノンフィクションとしても小説としても良作。終盤は、「早く銀四郎さん来て。ヒグマをやっつけて!」と、私も村民になったかのようにハラハラ。

 現代の東京でデスクワークをしている私からは、大正時代の六線沢で、羆撃ちの仕事をしている銀四郎のプロ意識はかなり遠いものに感じましたが、それに触れることができたのも、読書ならではの体験だと思います。また、撃ったあとの羆の肉の分配についてなど、地域の風習について垣間見ることができたのも、文化人類学民俗学的な観点から興味深かったです。

 

8位 人はなぜ物語を求めるのか

 やっぱりちくまプリマー新書は良いなぁ、と思わせられた一冊。良質な「物語論」。同じく、ちくまプリマ―新書の『未来形の読書術』を読んだときと同じくらいの密度の濃さを感じました。

 事件について調べることに興味がある私に取っては、「黒子のバスケ事件」が引用されていたところも興味深く読めました。また、「自分の人生をメタ的に俯瞰して物語風に楽しむ」ということは普段からよく行っていたので、すごく面白く読めました。

 たくさんの本が引用されていて、ブックガイドとしても楽しめた一冊。(惜しむらくは、紹介された本は全てまとめて一覧にして掲載して欲しかった)

「物語としての滑らかさ」についての点は、昨今の炎上CMを考える上でも大事な視点な気もしました。

 

7位 さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

 

 ネットで話題になったコミックエッセイ。どこかの大学の学術系サークルが読書会の課題図書にしていたようだったので、興味を持って読んでみました。

 タイトルは良くも悪くも強烈ですが、これ、レズの話でもなければ風俗の話でもありませんでした。レズ風俗に「行くまで」がメインの話で、鬱、摂食障害非モテ、こじらせ、親の目を気にしてしまうことなど「生きづらさ」についてのエピソードが描かれた作品でした。著者と年齢が近いので親近感を持って読めたし、こじらせる感覚も「わかるわかる……」と思い、無職期間中の焦る感情にも共感。また、「想像したエロを描くほうが、実体験のエロを描くよりも恥ずかしい」というくだりにも「それは確かに」と納得しました(笑)。

 

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6位 僕の父は母を殺した

僕の父は母を殺した

僕の父は母を殺した

 

 私の11歳の誕生日の直前に、ひとつ年上の男の子が、同じ西日本でこんな境遇に巻き込まれていたなんて。

 タイトル通りの内容のエッセイ。とても読みやすく一気読みしてしまいました。

 事故に見せかけて殺されてしまった母親について「お母さんは生きている」と嘘をつかれたというエピソードや、恋愛についてのくだりが特に印象的でした。「親が殺人犯だなんて、恋愛も就職も大変なんだろうなぁ……」と思っていたので、彼女ができることは何度かあったというのは少々意外でした。

 でも、彼女たちは「ウチの彼氏の親父、人殺しじゃけぇマジやばいよ」「寛人もキレたら半端ないから」と自慢していたこと、彼女たちは「悪いことやってる男」が好きなだけで大山さんのことが好きなわけではなかった……というエピソードは切なかったです。

 

 どの事件だったかは忘れてしまいましたが、別の犯罪加害者の子どもが、「グレそうになったけど、蛙の子は蛙と言われないよう必死で堪えた」と言っていたのを以前ネットで読んだことがあったのも思い出しました。

 ちなみに私は、死刑制度には賛成でも反対でもありません。でも、この事件に関しては「被害者の遺族にも死刑を望まない人がいる」ことや、「先進国では死刑の導入は少ない」ということを踏まえると、少なくともこの件は、死刑でなくていいのでは……という気はしてしまいます。

 著者の大山さんは、現在の仕事のほかに講演活動も行なっているようなので、今度講演があったらぜひ行ってみたいなと思いました。私と年齢も誕生日も近いし、私も、大山さんと同じく名古屋に住んでいた時期があるので、少し親近感を覚えます。

 以前はブログなどもされていたようですが、今はないみたいですね。うさぎや猫と暮らしている様子が載っていたみたいでした。見れなくて残念です。

 

5位 今を生きるための現代詩 

  私は、小学校中学年の頃の担任教師の影響もあって、詩はむかしから好きでした。

 趣味として詩を書いたり、それを評価していただける機会もあったりしましたが、いざ「読み方」となるとどう読めばいいものか、これまでよくわかっていませんでした。

 この本は、タイトル通り、「詩の読み方」の手引書としても良質な一冊であることはもちろん、エッセイとしても面白く読めました。

 あまり「講談社現代新書」っぽくない、文学的な描写が多いのが新鮮でもありました。読みやすい、しかしその反面読み応えもある不思議な本。とにかくたくさん付箋やブックマークをつけてしまって、限度いっぱいにつけてしまいました。

 限度いっぱいまでブックマークをつけてしまったところとか、知性と感受性どちらの豊かさも感じられる文章とか、光文社新書『目の見えない人は世界をどう見ているのか』と近いものを感じました。

  詩のブックガイドとしても良かったです。ここで紹介されているものは絶版のものも多かったので、今度国会図書館に行くときには、ここで紹介された詩集を読んでみよう、と心に決めています。

 

4位 人はなぜ不倫をするのか

人はなぜ不倫をするのか (SB新書)

人はなぜ不倫をするのか (SB新書)

 

 とても面白かったです。動物行動学や昆虫学、宗教学、脳、ジェンダーなどさまざまな方向から「不倫」について論じていて、ヒトだけでない、さまざまな種の特性や文化(?)を知ることができました。ダイバーシティの観点からも面白かったし、「生きものの不思議」的な楽しみ方もできました。

 この本の帯に「興味深かったのは学者が誰ひとり不倫を否定しなかったことだ」とありますが、私は、それがむしろ学者っぽいなと思いました。
 個人として思うところはみなさんいろいろあるでしょうけれど、学者の仕事は倫理面の批判をすることではなく、現実に存在する現象に対してどう理解するか、どういう分析を加えるかということでしょうし、眼前で起こっていくことを否定せずに受け入れるというのはむしろ当然の態度なのかな、と思いました。 

 また、個人的には、「フリーセックスコミュニティはどこも最終的には崩壊している」というエピソードが印象的でした。

 あと、同時に読んでいた、光文社新書『結婚と家族のこれから』という本とも重複するエピソードがあり、婚姻制度を再考する上でも参考になりました。

 

3位 悲しみを生きる力に

 日本でいちばん有名な未解決事件「世田谷一家殺害事件」の被害者遺族の方による著書。被害者の「宮澤泰子さん」のお姉さんが書かれました。

 事件について書いてあるメディアでは、「泰子さん」と書かれていることが多いですが、この本では「やっちゃん」と書かれており、事件被害者としてではない泰子さんの一面を垣間見ることができたことが、まずは印象的でした。

 殺人事件被害の話に留まらず、母親や夫の喪失体験についても書かれています。

「妹一家を奪われた時は、悲しみ以上に怒りや悔しさがあった。けれど、夫の死は『これが本当の悲しみだったんだ』と改めて思い知らされるほどの辛さだった」というところは、「そうだったんだ」とやや意外な気がしました。(殺人事件のほうが病死よりも強い悲しみが湧いてくるものだろう、と勝手に思ってしまっていたので……)

 大阪の附属池田小事件の遺族の方との交流エピソードも出てきましたが、私は中学時代、その遺族の方が書かれた本も読んでいたので、そのくだりも印象に残りました。

 この本は、殺人事件や身近な人の死などの重たい喪失体験の話に限らず、負の感情との向き合い方などについても丁寧に書かれています。

 私が以前、トラウマについて考える上でとても参考になった本『環状島 トラウマの地政学』の引用があったのも良かったです。東日本大震災以降に書かれた本ということもあり、震災での「曖昧な喪失」についてのエピソードなども書かれています。

 また、入江さんご本人も、旦那さんもとても知的で活動的な方だったようで、その仕事や活動のエピソードを読むのは素直に面白かったです。

 就活の面接で「一番辛い体験をどう乗り越えたか」について訊ねることについても触れられていたことも印象的でした。

 全体的に、悲しい本ではなく、希望を感じることができる本でした。

 

2位 消された一家

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件―(新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件―(新潮文庫)

 

 読了後、ここまで気分が悪くなった本は初めてかもしれません。

 はっきり言って、万人におすすめできる本ではないです。読むひとの精神状態をかなり選びます。凄惨な写真などはありませんが、文章だけでもかなり刺激の強い本です。

 気分が悪くなって読むのをやめたときもありましたが、途中からは一気読みしてしまいました。(まったく関係ないのですが、奇しくも、世田谷一家殺害事件が発生した12月30日に読了)

 この監禁殺害事件は北九州市で起こったものなので、九州弁の描写もちらほら出てきます。

「かずくん、私死ぬと?」など、時折出てくる被害者の九州弁は、同じく九州に住んでいた人間として切なかったです。

 

 この事件は発覚当時、あまりの残虐さに報道規制がかけられていたようですが、ネットで調べて概要は知っていました。昨年、主犯二人の息子さんがテレビ出演されたことが話題になったりもしましたね。

「洗脳されて家族が殺し合った」というのはどういうことなのか、これまでよくわからなかったのですが、この本を読んで詳細が理解できました。なるほど、家族同士で殺し合ったり、子どもも殺害や解体作業に加わるというのはそういう感じだったのか……。

 特に、家族が殺し合う前に衰弱死した、第一の被害者の服部清志さん(仮名)への虐待の描写が凄惨すぎて、とにかくひたすら可哀想でした。

 読後、心が麻痺してしまい、その後しばらくはどうやって生活をすればいいのかよくわからなく感じました。「私、こんなに平和な日常送っていていいんだろうか」「普通に眠れて、トイレやお風呂に行けて、食事ができることってとても幸せなことなのかもしれないな」「私がこうしているあいだにも、どこかでひどい暴力に晒されているひとがいるんだよなぁ……」などなど、とにかくとりとめもなくいろんな気持ちが湧いてきました。

 最近、寝屋川でも長期に渡る監禁事件が発覚しましたが、監禁虐待をするのはどういう心理なんでしょうね。この本では、加害者の一人である緒方純子受刑者サイドのエピソードが多めでしたが、主犯の、松永太死刑囚サイドの事情も知りたかったです。

 

1位 困難な結婚

困難な結婚

困難な結婚

 

  殺人事件に関する本の紹介が続いてしまいましたが、最後は明るい本で締めましょう。下半期もっとも印象的だったのは、この本です。

「雑な結婚」をした人気ブロガーの、えらいてんちょう氏が絶賛していたので読んだのですが、彼のレビュー通りとても良かったです。

eraitencho.blogspot.com

 私はもともと内田樹先生の本は大好きで、大学4回生の頃は読み漁っていましたし、だいぶ思想にも影響を受けました。ただ、3.11以降引っかかる言動が目につくようになってきたので、しばらく著書は読んでいませんでした。

 ですが、この本は良かったです。往年のウチダ節も健在でした。

 昨今、浮気OK婚とかいつでも離婚できるようにしている夫婦の話もよく聞きますが、そんな今だからこそ結婚制度の原点に立ち帰ってみるのも悪くないな、と思いました。また、この本は結婚に関することだけでなく、転職や仕事、生き方についても示唆に富む良書。今の時期に読めて良かった本です。

「結婚すると好きなことができなくなるというけれど、誰にも制約されない生き方ということは、誰にも頼りにされない生き方ということ。いてもいなくてもいい人になるということ」というくだりにはハッとさせられました……!

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「生き方」を考えさせられた本たち

  今年読んで印象的だった本、12冊の紹介は、以上です。

 とりあえず私、今期は、事件と性に関する読書が多いな……。

 

 あ、ここに上げた以外の本もいろいろ読んでますよ。佐藤ねじさんのクリエイティブの本とか、ぱぷりこさんやフジコさん、くらげさんのブログ本とか、新鋭短歌シリーズとか児童文庫とか。事件と性に関する本ばかり読んでいるわけではないです。(エログロはむしろ本当は苦手です……)

 

 今年は、軽めの本をたくさん読むよりは、重ためな学術書を読破できたらな、と思っています。ピケティの系列本とか(だいぶ今更感ありますがw)。

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