これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

この本がすごい!2017年上半期

 私が2008年頃から行っている、「今年読んで良かった本ランキング」。

 たくさんの本を読めた時期は、「上半期編、下半期編」「フィクション編、ノンフィクション編、コミック編」などと分けることがあります。就職してからはあまり読書時間が確保できなかったので、ランキングを分けるまでにはなかなか至らなかったのですが、2017年上半期は、読書時間が比較的多く確保できました。

 そんなわけで、今年読んで良かった本ランキングの「上半期編」を発表したいと思います。

(「この半年のあいだに発売された本」ではなく「この半年のあいだに私が読了した本」なので、古い本が混ざることもあります。悪しからず)

 

10位 ひとりを愛し続ける本

ひとりを愛し続ける本 (講談社文庫)

ひとりを愛し続ける本 (講談社文庫)

 

  私が憧れていた友人たちは、だいたい、遠藤周作の『深い河』を読んでいたので、私もいつか読みたいなぁと思っていました。(長崎の、遠藤周作記念館には行ったことがあるのですが)
 いきなり長編小説を読むよりは、手始めにエッセイ集を読んでみようかな……と思って読んだのがこの一冊。タイトルは、「一人の人を一途に愛し続ける」ことではなく「ひとりで過ごすことを愛する」ことの意味か、どちらも含んでいるのか。
 いちばん印象的だったのは、北欧の事例を引き合いに出していた、保育園不足や女性の活躍についてのくだり。このエッセイは1980年台前半に書かれたもののようですが、2016年も同じようなことが話題になっていたのは味わい深かったです。また、馴染みのある地名が随所に出てきたことにも親近感を覚えました。まるで、ブログを読んでいるみたいで。
 遠藤周作の本を一冊読了するのはこれが初めてですが、友人たちがかれの作品を好きなのがわかる気がしました。

 

9位 ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

 

  地方に暮らす女の子たちの姿を描いた連作短編集。

 この本に関しては、以前、感想をブログに書いたので割愛します。今の時期に読めて良かった一冊でした。

『ここは退屈迎えにきて』感想 - これからも君と話をしよう

 

8位 「読ませる」ための文章センスが身につく本

「読ませる」ための文章センスが身につく本

「読ませる」ための文章センスが身につく本

 

  憧れている哲学者の、千葉雅也さん(最近は、著書『勉強の哲学』が話題になったりもしましたね)がTwitterで紹介していて気になった本。文章の書き方や伝え方の本は数あれど、この本は、「炎上を恐れないこと」「予防線は張らないこと」「大風呂敷を広げること」について特に言及しており、ネット時代に相応しい本だな、と思いました。
 私なんて特に顕著なのですが、SNSの投稿や同人誌での論考などでは、多方面に配慮するつもりで予防線を張りすぎて、文章としてのツヤを失ってしまうこともしばしば……。

 特に印象的だったのは、

「読者の疑問に答えよう」というサービス心ではなく、「自分が批判されたくない」という保身のために書いている。そんな心根は読み手にすぐに見透かされます。

 これには、グサッときました。

 いわゆる「炎上商法」として予防線を張らないことを推奨しているわけではなく、あくまでも「読者に伝わりやすくするため」に使わない、話を大風呂敷に広げるのも「期待感を持って読んでもらうため」というスタンスには好感が持てます。

 この本は、一般のビジネスマン、あるいはブロガーが使うことを想定しているようでしたが、千葉さんは「学術にも応用ができる部分があるかも」ということをおっしゃっていました。

 

7位 すぐやる!

すぐやる! 「行動力」を高める“科学的な”方法

すぐやる! 「行動力」を高める“科学的な”方法

 

  この本をどこで知ったのかはよく思い出せません。(Kindleセールで見つけて気になったので購入したように思います)作業療法士の著者による、脳の特性を踏まえての行動変革の本です。意志の力ではなく、脳を「”すぐやらない、できない状態”にしない」という方向性からのさまざまな提案が書かれており、興味深かったです。

 また、私は、「紙の本で買っていたものを、電子書籍で買い直す」ということはたまにするのですが、こちらは電子書籍で買っていたものを、紙の本でも買い直した」唯一の本だったりもします。ひとのリハビリにも活用できる部分がありそうだな、と思ったので、ほかの人にも手に取ってもらうために紙の本を買い直しました。

 

6位 ルポ 虐待

ルポ 虐待 ――大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)
 

 この事件が起こったのは2010年、私が大学4回生のときでしたが、このときのことは実はあまり覚えていません。ただ、以前、友人が論考で取り上げていたので興味を持ってはいました。

 私が京都の大学生で、TwitterやW杯で盛り上がっていた頃、隣の大阪ではひとつ年上の女の子がこんな事件を起こしていたなんて……。よくここまで情報を集めたな、と思うほど充実したルポルタージュでした。

 今年はほかにも、児童虐待や行方不明者などに関するルポを何冊か読みましたが、もっとも衝撃が強かったのはこの本でした。

 この本、タイトルは「虐待」とあるものの、SNS依存や性暴力、性に関する権利、家族やコミュニティのあり方、教育、福祉の連携、法律など様々な問題を孕んだ事件だったことがわかります。

 読んでいて苛立ったり、苦しんだりしました。

 この本はいろんな視点から読書感想文が書けそうな気がします。また、人によって目を向ける部分が変わりそう。この本で読書会を行ってみても面白いかもしれないな、と思いました。

 

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5位 ”一生美人”力

“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき

“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき

 

  女性向けの美容雑誌などでよくコラムをお見かけする、齋藤薫さんの本。齋藤さんの美容関係のコラムは大好きで、雑誌を読むたびに毎回楽しみにしています。

 これは、そんな連載を一冊にまとめたエッセイ集。齊藤さんの著書は『「美人」へのレッスン』という本も読みましたが、こちらのほうが私は好きです。ひとつひとつのコラムが短く読みやすいし、生活に応用もしやすい気がします。

「女としてどのように歳を重ねていきたいか」について意識を向けたくなる一冊。この本は、30代以上の女性向けだとは思いますが、当てはまらないひとにとっても有益な部分はあると思います。読み終えた直後は、思わず背筋をぴんと伸ばしてしまいます。

 

4位 二番目の悪者

二番目の悪者

二番目の悪者

 

 ある村で次の王様を決めることになり、金のたてがみを持つライオンは自分こそが王に相応しいと思っていました。ところが、心優しい銀のライオンが次期候補だと知り、それを知った金のライオンはとんでもない行動に出ることに……。

 

 人から「読んでごらん」と勧められて読んだ絵本です。読後、思わず奥付を見て発行日を確認してしまいました。

 内容はしっかりと絵本ですが、SNS全盛、ポストトゥルースなこの2010年代に、大人も子どもも一読する価値があると思いました。私にこの本を勧めてくれた人は、読後、アメリカ大統領選挙のことを思い出したといいます。言われてみれば確かに。

 そして、絵本に、ごく自然に「メール」が出てくるところに現代っぽさを感じました。ただ、別に今風な話というわけではなく、普遍性を扱った作品だと思います。後世にもぜひ、読み継がれていって欲しいと思えた一冊です。

 

3位 目の見えない人は世界をどう見ているのか

  去年、Kindleの光文社セールで購入して積読していました。そんなある日、久しぶりに参加した「ええやん!朝活」読書会にて友人がこの本を絶賛していたので読んでみることに。おもしろくて一気読み。この本を読書会で紹介していた友人も、別の友人から「人生を変えた本だ」と紹介されていたそうですが、そこまで絶賛したくなる気持ちはよくわかります。

 視覚障害やケア、生物、美学についてが主要テーマの本書ですが、モテ、気遣い、コミュニケーションの本としてもとても秀逸だと思います。文章の表現にも、学者としての知性を感じる箇所も多々あり、読んでいて安心できました。上限いっぱい、たくさんのブックマークとマーカーを引いた本。惜しむらくは、タイトルが光文社新書っぽい軽さを伴ったもので内容とやや乖離しているかな、と思ったこと。このタイトルの軽さは、良くも悪くも作用していそうだなと思いました。

 

2位 うずく、まる

うずく、まる (新鋭短歌シリーズ)

うずく、まる (新鋭短歌シリーズ)

 

 読んでいて、とにかく「音」を感じた短歌集。風のような「動き、揺らぎ」や、鼓動のような「轟き」がひたすら伝わってきました。

 この本を手に取ることになったきっかけは、短歌を詠む友人のツイート。彼女の投稿で歌人加藤治郎さんのことを知り、その流れでこの「新鋭短歌シリーズ」に当たりました。Amazonレビューで評判が良さげなものをとりあえず一冊買って読んでみよう、と思って購入したのがこちらです。

 短歌だけでなく、散文詩も挟み込まれています。情感は統一されているため違和感なく読めます。この詩からとにかく躍動のようなものを感じて、読んでいるうちに彼女の世界観に引き込まれていくのを感じました。

 

 特に好きな短歌は、このあたりの作品。

遠くからあなたがつれてきた雨は歌を覚えて銀色に降る

ゴッホとかサンドイッチの耳のこと気になったまま学校へ行く

グーグルの夜の地球の写真にはあきれるほどに輝くTokyo

星々が空はこんなにさびしいとささやくたびに ス ペ ー ス を押す

朝の陽に背中あわせで目覚めても抱きよせられてふたたび眠る

やわらかな月のゆばりを浴びるのはひばりの声をさえぎった窓

 ひらがなの含有率高めでやわらかな自然を感じさせるものも、どこか無機質なものを感じさせる描写も、どちらも好みです。

 ところで著者の中家さんは旭川の出身のようですが、私が大好きな、小説家兼歌人加藤千恵さんも旭川出身。旭川のひとは、私好みの短歌的な言葉遣いと相性が良いのでしょうか。

 また私は、この本の解説のおかげで、岡井隆正岡子規などの作品にも興味が湧きました。

 

1位 カブキブ!

カブキブ! 1 (角川文庫)
 

  上半期のダントツ1位はこの小説。アニメ化もされましたね。

 電子書籍のキャンペーンではじめてこの本を知りました。私は「オチケン!」などの落語ミステリーが好きだから、部活で歌舞伎をやるお話も楽しめるかな……と思って購入したら、これが大当たり! 語り口も、構成も、題材も、個性的なキャラクターも、今風な雰囲気も、何もかもがドンピシャで好みでした。

 文章は、まるで、文芸サークルの学生が書いたりしていそうな若々しさがあり、ポリコレ的にも気を使っていそうな部分が垣間見れたのも個人的には好みでした。

 私は、続きものの小説や漫画はあまり立て続けに読んだりはしないほうなのですが、これは最新刊まですぐに追いかけました。漫画版も購入、アニメも放送直後にチェック、数年ぶりにアニメイトにも行ってステッカーをもらったりもしてきました。そして、この作品に影響されて本物の歌舞伎も観に行ってしまったくらい。

 そんな、オタクだったころの気持ちが蘇ってきたくらいハマったシリーズです(ただ、アニメはまだ全話は観れていません)。

 

 あと、作品と直接関係のない感想を言わせてもらうと。4月に小説を6巻まで一気に読んだときは「憧れ、新鮮」な感じでしたが、5月に漫画版を読んだときは「共感」できました。

 これはなにが言いたいのかというと、4~5月から、私の交友関係もいろいろと変わってきたところなのです。私自身も、「カブキブ!」の主人公のクロと同じように「魅力的な人を巻き込んでいくこと」の楽しさと難しさを痛感し、ほかのキャラクターたちのように、親戚の影響を受けたひとや、ミシンやパソコンでいろんなものを作るひとたちと仲良くなったから……というのも「共感」できた要因として大きかった気がします。(おそらく、一昨年に東京に戻ってこなかったら、こんなふうに「共感」できることもなかっただろうな。その点にも喜びを感じます)

 本編とは関係ないけれど、こうやって、読むたびに異なった感想を抱けることもまた、読書の楽しみのひとつだと改めて感じました。

 そのあたりのことも踏まえて、この本が今年上半期の1位です。