遅ればせながら、昨年2022年下半期に読んで良かった本の紹介、今回も行いたいと思います。今回は、新書も小説も短歌集も学術書も全部ごちゃ混ぜのランキングです!
17位 「18歳選挙権」で社会はどう変わるか
著者を含んだトークイベントが数年前にあり、その時に購入し、途中まで読みかけていたままでしたが昨年、読了しました。
何気に一番印象的だったのは、冒頭に出てくる、著者の娘さんのセリフと、それに対する著者の姿勢です。選挙ポスターを見た幼い娘さんの「私は女だから、女の人がいい」と考えることを尊重する姿勢がまず、印象に残りました。
16位 言語が消滅する前に
哲学者ふたりの対談本。千葉雅也さんは、サイゼリヤのメニューの番号表記をめぐるツイートが話題になったりもしましたね。
この、サイゼリヤの炎上の後にこの本を読むと、このひとはほんとうに「言葉」を大切にしているんだなぁと痛感しました。
千葉さんの『勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版 (文春文庫)』、國分さんの『中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)』はいずれも買っていたけど積読で、それらを読んでから読んだほうが良かったかも、と少し後悔しました。
國分さんの、住民運動をめぐる新書『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』は2014年頃に読んでいたので、懐かしくなりました。
そのほか、「詩」についてのカルチャー、勉強して「キモく」なること、法的な責任の話や「正義」の話、セクシャルマイノリティとクィア・ポリティクスの本質の話が特に興味深く読めました。
15位 男が介護する
確かこの本を知ったのは、「家族と性愛」を軸に活動する文筆家の、佐々木ののかさんが紹介していたのがきっかけ。
これまで介護は女性のものとされてきていて、介護をする男性は「ケアメン」などと呼ばれるようになったけれど、そもそも「男が家族を守るもの」として男性が介護をすることも歴史的には珍しくなかったことなどの話から始まり、興味深く読めました。
男性介護者の集うコミュニティがどのような盛り上がりを見せるかについてのくだりも面白かったです。そのほか、介護保険制度の話や、「弱いロボット」の話からの「弱さや脆さが、周囲との関わりの欲求につながる」エピソードなど、タイトルよりも幅広い「介護」をめぐる一冊でした。
14位 ケアとは何か
これも確か、ののかさんが紹介していて知った本だった気がします。先述の『男が介護する』よりも平易で読みやすかったような。
いわゆる「介護」の話だけでなく、幅広い「包摂、コミュニケーション」について言及している本という印象を受けました。
私は広告の炎上に興味があるので、2018年の「人生会議」のポスターに対する批判のくだりは興味深かったです。また、私の大好きなノンフィクション『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち (文春文庫 わ)』も引用されていたのも嬉しかったです。
13位 アルバイトの誕生
編集者の友人が関わった本ということで知り、テーマも気になったので読んでみました。
「アルバイト」の概念そのものの歴史というより「大学生活におけるアルバイトの位置づけの変遷」の本、というかんじでした。
終盤での、アルバイトと大学の授業をつなげるのは良い案に思えるもののあまり実例がないのは、双方ともにあまり需要がないのかもしれません。
「ブラックバイト」の章での、「ブラック」という言葉の使い方についても著者の慎重な姿勢が垣間見れて好感が持てます。職業訓練のためのバイトと言いつつ実際は異なることの違和感は私も同意できました。
12位 対岸の家事
友人主催の読書会の課題図書になったので読んでみました。
連作短編集っぽくなっていた点は私好みだったものの、どうにも登場人物があまりにもステレオタイプというか「記号」的で、リアリティを感じられず最初はなかなか感情移入がしづらかったです。ただ、話が進むにつれて、仲が悪かった人たちが次々連携していく様子は痛快だし、キャラのベタさも相まって、ドラマ化したらすごく映えそうな気がするなぁ、と思いました。
(そういえば私は、著者の別作品「わたし、定時で帰ります。」も、ドラマ版も全話見て原作小説も読みましたが、こちらもドラマのほうが作品として魅力的でした)
この作品に登場する誰の立場だったとしても、この展開は「この人たちに出会えてよかった」と思えそうな気がします。ラストも番外編も好きです。
11位 こころとカラダが楽になるツボ押し養生
マッサージや整体、セルフケアに関する本は割と好きなのですが、「ツボ押し」に関するものは読んだことがなかったので購入。
どこを押したりさすることでどのような部位や不調に効くのか、わかりやすく丁寧に書かれています。この本の使い方としては、「ここに効くツボってないかな」と探しながらパラパラめくって読む、という読み方が想定されているとは思いますが、この本は読みやすかったので、普通に読み物として一冊通して読んじゃいました。
読んでる最中、自分でもいろんな部位を触ったりさすったりして、少し自分を労れるようになった気がします。
「ほんとうにあたしでいいの?〜」の歌が有名な歌人による短歌集。ほかの歌も、好みなものが多かったです。
著者は私と歳が近いことにも親近感を抱きました。全体的に「犬」への愛を歌ったものが多かったのが印象に残ります。
この人の歌は「わかる」部分と、少し想像力を膨らませるといろんなシチュエーションをイメージできる部分のバランスが見事だなぁ、と思いました。なんというか、「歌としてのリズム、綺麗さ」と「共感」の配分がとても良いな、という感じです。
この本は、神保町のブックフェスのときに出版社から新刊本を買ったのですが、挟まれている読者カードや挟み込みチラシの言葉選びもとても粋で、お気に入りです。
9位 日本の下水道を守る! 地下の勇士たち
私が仕事でお世話になっている、管清工業の歴史や取り組みについての本。下水道の敷設やメンテナンスがどのような会社によって行われているのか、垣間見ることができます。
……といっても、会社の歴史や取り組みに関して、創業者や役員などの「会社を経営する側」の目線ではなく、社員に焦点を当てた部分が多く、読み物として面白く読めました。
有名なインフルエンサーや経営者などの仕事論ではなく、土木業の、ごく一般のサラリーマンの仕事に関する「お仕事本」はなかなか手に取る機会がなかったので、そういう意味では新鮮でした。
本筋と関係ないところで印象に残ってしまったのは、創業者の方が亡くなられてしまった経緯について。そんなことがあったのか……とショックを受けました。
8位 月経と犯罪
一昨年、図書館で見かけて気になっていたところ、電子版がセールになっていたので購入しました。
犯罪に関してもジェンダー関連についても興味があったので読んだものの、「月経と犯罪の因果」ではなく「月経と犯罪はどのように結びつけられて語られてきたか」という視点の内容の本でした。
昔の女性蔑視的な価値観の記述も多いため、読んでいてイラッとくる部分も多いものの(苦笑)、生理休暇や女性の労働環境をめぐる歴史も垣間見れて興味深い一冊でした。
7位 ブルシット・ジョブの謎
2020年に邦訳が発売されて話題になった『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』をもとに、そこでの論点をまとめた本。私は『ブルシット・ジョブ』そのものは読んでいませんでしたが、それでも問題なく理解できました。
「ブルシット・ジョブ」は、邦訳本では「クソどうでもいい仕事」と訳されています。いわゆる「無駄な仕事」という意味だけに限らず「取り繕い、ごまかし、欺瞞がある」など、さまざまな意味を含んだ言葉の模様。
特に印象的だったのは「他者の助けやケアに関する仕事は、それ自体が報いになるため、報酬は少なくあるべきとされる」といったニュアンスのくだり。これは一理ありそうな気がします。そして、教育や保育や介護などのエッセンシャルワークのあり方や、セックスワークの賛否を考える上での一助になりそうな考え方に思えました。
秋に、3週連続で少子化に関する本の読書会を行ったとき、最初に読んだ本。
「左翼寄りの本と、右翼寄りの本と、学術的な本を読もう」ということで、「左翼寄りの本」として読んだのがこちらの本です。
この本は「経済成長」の観点から少子化を論じています。
もっとも印象的だったのは、冒頭にある「日本の根本的な問題は財政難。もし仮に日本のあちこちに油田があって外貨を稼げるなら少子高齢化はこれほどまでには問題にはならない」「極論をいえば、オイルマネーなどによって財政に十分な余裕があれば、いくら少子高齢化が進んでも社会保障を手厚くできる」といった意味のくだり。
少子化問題を考える際、つい、子どもの数を増やすことばかり考えてしまいがちですが「そもそも、少子高齢化によって何が起こるのが問題なのか」が置き去りにされがちだよなぁ……と再確認しました。
また、私は社会学者の古市憲寿さんが大好きなので、あとがきで古市さんのことが賞賛されており、嬉しかったです。
5位 これが答えだ! 少子化問題
この本は、少子化本読書会の第2回の課題図書になりました。「右翼寄りの本」としての扱いです。
著者はクセのありそうな人かな、と覚悟して読みましたが、ところどころ引っかかる箇所や主観の強さが気になる言い回しはあるとはいえ、思ったより腑に落ちる内容でした。
そもそも私自身も、もともと少子化に関してはこの著者と考え方が近いので、そういう意味でもあまり違和感はなく読めました(政府が行っているのは的外れな政策だし、そもそも子ども増えないのは仕方ないし、でもそれはそれで良いのでは、という立場)。
少子化の本というよりは「データの読み方」「メディアリテラシー」の本としての興味深さを感じました。
そして、知人である、KYさんのブログが引用されていたのには驚きました。
crossacross.org
4位 死刑 その哲学的考察
昨年は、この本以外にも死刑に関する本を2冊とも読みましたが(半年前の「読んで良かった本」でも紹介しています)、この本はそのどちらとも違う視点から「死刑」を扱った本でした。
「道徳」という言葉が頻繁に出てきて、哲学的な観点から死刑はどうあるべきかの問いを考えてゆく本。実在の事件を用いての思考実験は興味深かったです。
途中、読んでいてやや飽きがきたものの、終盤の「冤罪」をめぐるエピソードからは、死刑に限らず「公権力はどうあるべきか」を考えさせられ示唆に富みましたし、飯塚事件は(別の本で概要は知ってはいたものの)改めて悔しくなり、国家権力が恐ろしくなりました。また「遺族感情に寄り添うこと」についても考えさせられます。
3位 身体を売ったらサヨウナラ
ずっと前に買って積読していたものを読みました。著者は、夜のお店で働き美意識も高く華やかな生活をしつつも、東大の大学院を出て記者になるほどの知性もある。私とはほぼ別世界の人だなぁ……と思いつつ、時々すごく共感できる描写を見つけてしまうと嬉しくなる、そんな一冊でした。
前回の「読んで良かった本」記事でも紹介した『JJとその時代 女のコは雑誌に何を夢見たのか (光文社新書)』に比べると文章が冗長で若干の読みづらさも感じたものの、これはあえてそういう書き方をしているんだろう、と思いました。
知性ある筆致で、性愛やお金にまつわる感情の吐露をする書き手という意味では、佐々木ののかさん、雨宮美奈子さん、北条かやさんの書いたものを彷彿とさせるものを感じました。また、親子で性愛の価値観の話をするところは、下田美咲さんのことも思い出します。
2位 経済政策で人は死ぬか?
フォロワーさんがTwitterで紹介していて知った本。
私はソフトカバーの単行本で買いましたが、最近、文庫版も出たようです。
ロシアの経済政策についても触れているということで気になり読んでみましたが、読書中にちょうど安倍元首相銃撃事件が起こり、安倍政権が見直されている中でこの本を読めたのも、なんだかタイムリーでした。べつに経済政策の失敗で殺されたわけではないけれど……。
さまざまな国のデータから、失業と自殺率やうつ病の関係、不況下での政策決定についてはどのようにあるべきかを考察した一冊。
「禁酒法が撤廃されたのは倫理ではなく、政治や経済による出来事だった」というエピソードや、うつ病と自殺の関係の国による違い、不況下での政策決定はどうあるべきか、データからどのようなことが読み取れるか……など、さまざまな論点が出てきて読み応えがありました。
経済と公衆衛生についてのくだりは、前回の「読んで良かった本」の中でも紹介した、『自由の国と感染症――法制度が映すアメリカのイデオロギー』を彷彿とさせる部分もありました。
1位 [続]少子化論
少子化本読書会の、最後に読んだ本。ハードカバーの学術書ですが、テーマに関心が強かったというのもあり、比較的短期間で読み切りました。
いろいろな「少子化」本を読んだ中で、この本がいちばん分析も考察も提案も丁寧だったと思います。本の最後に書かれている結論には納得しました。
「少子化対策のためにはこれをすべき」という意見としてはさまざまなものが出るものの、「地域によって、少子化対策の課題はそれぞれ異なる」ということは忘れられがちですよね。この本で出てくる提案のひとつには「各自治体に合った対策を実施できるように」ということが出てきていて、これまであまりそのあたりのことは言われてこなかったので新鮮に感じました。
また「現物給付か、現金給付か」という論争よりも「いずれにしても、それが本当に少子化対策になっているのかを考慮すべき」という趣旨のことも書かれており、この本もまた、メディアリテラシーについて再考させられる部分もあり、そういう点でも読んで良かったと思えた一冊でした。