これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

ヒトの権利に重きを置くのは自明なこと? 「社会はリベラルに運営〜」記事への雑感①

 ──12月3日。とうとうこの日がやってきた。

 ベンジャミンの、初の著書の発売日だ。

 

 彼は今でこそはてなブログで有名になり、私もはてなブックマークでそこそこ知られるようになったようだが、私たちの出会いは2008年、大学の文芸サークルだった。

 彼は学生時代から小説が飛び抜けて上手かったので、小説ではなく評論の本で商業出版デビューというのは少々意外な気はしたが、ベンジャミンのブログ「動物的道徳日記」も、外部メディアの記事もどれもSNSでたびたび話題になっていたので、評論でのデビューというのも不思議ではなかった。

 

 書籍の発売のタイミングで発表された、こちらの記事も読んでみた。

gendai.ismedia.jp

 

 私がすでにブックマークのコメントで書いていることは割愛するが、書ききれなかったことや、コメント欄を読んで思ったことなど書いてみたいと思う。(長くなったので複数回に分けます)

b.hatena.ne.jp

 

 まず興味深いと思ったのは、4ページ目のこのくだりだ。

功利主義に基づく規範論はじつにリベラルなものであり、左翼的で反差別的なものとなる。たとえば、同じ金額を寄付することで「一人の同国人」の生命を救える団体と「二人の外国人」の生命を救える団体があるなら、後者の団体に寄付するべきだということになる。

さらに、同じ金額で「100匹のネコ」を救える団体もあるなら、そちらのほうに寄付するべきかもしれない。相手の国籍や人種や性別によって道徳的に配慮するかしないかを変えるのが間違っているのと同じように、相手の生物種によって道徳的に配慮するかしないかを変えるのも間違っているからだ。

 似たことは私も以前からたびたび考えており、SDGsが叫ばれるようになった昨今、より一層考えるようになったテーマでもあったのでこの文章は目を惹いた。

 

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 昨今、「人権」について声高に主張する人々が目立ってきており、それはとても喜ばしい風潮だと思ってはいるが、その一方で「ヒトではないものの存在の権利」については蔑ろにされたり、一段と低く見られがちであるかのような状況が気になっていた。

 記事では動物の例が挙げられているが、動物に限らず、植物や自然環境、そのほか法律上は「人」とは見做されていない胎児や、まだ見ぬこれから生まれてくる人たち、すでにこの世を去った人たちなどの存在についても、もっと考えられても良いのでは……という思いがずっとある。

 もちろん、我々は生きているヒトである以上、生きているヒトの権利を優先して考えがちになることは致し方ないと思う。ヒトの権利と、ヒト以外の権利が衝突した場合に、ヒトの権利を優先する考えが支持を集めやすいのはなんらおかしなことではないとは、思う。

 でも、あまりにもその考えが強い意見ばかり見ているとそれはそれで疑問が湧いてくる。

 生きているヒトがそんなに偉いの? 生きているヒトが、ほかの存在よりも優先されることってそんなに自明なことなんですかね? ヒトがなまじ言葉を話せるからって傲慢になってないですかね? と時々、自分にも他人にも大声で呼びかけたくなる。

「そもそも生きているヒト同士でもいろんな権利が衝突している中、それ以外の存在のことまで考えてられないよ!」と言いたくなる現状もわかる。でも、そんな中だからこそ時々は、ふだんは自明のものと思いがちなことについて、一度立ち止まってみたいな、と思う。

 

お店もお客様も、みんなにとって良くあるために

 ※この記事は、はてなブックマーク Advent Calendar 2021の記事として書きました。
 書く内容を当初の予告から少し変えました。
 執筆者、まだまだ募集中です! はてブユーザーの皆さんはぜひ参加してみてね。

 

 私がSNS上でしないよう気をつけていることとして、「店へのクレームを、店舗が特定できるカタチで投稿しない」ということがある。

「あのお店の××店の対応がひどかった」といった投稿は時々流れてはくるものの、その真偽も不明な以上むやみに拡散に関与したくないので、その投稿を直接「いいね」することも最近は控えることが多い。(店舗が特定できないそのブランド全体についての意見や、なんらかのカタチで事実関係が裏付けられているものはこの限りではないけれど)

 私が、特定の店の対応に関して不愉快な思いをしたときは、直接その場で言うこともあるが、「本社のお問い合わせフォームから意見を送る」ことが多い。そのようにしている理由はいくつかある。

  • 店内にあるお客様アンケートに書いた場合、店員がもみ消すことによって改善に繋がらない場合がある。
  • 電話だと相手の時間を奪うことになってしまう。電話や対面と違い、メールのほうがこちらも冷静になれるし、どのような内容を送ったのか、証拠も残るから大きなトラブルにはなりにくい。
  • 明らかにクレームとして伝えたいことは、ほかのお客様に見せる必要はないので、レビューよりもお問い合わせフォームのほうが適切だと考えている。

という理由からだ。

(ちなみに、返信の有無を選べるタイプのお問い合わせフォームでは、「返信不要」にしている事が多い。先方に余計な負担をかけたくないからだ)

 

 ただ、そうはいっても私自身、厳しい指摘をすることそのものはあまり得意ではない。指摘の際は言葉選びなどは自分なりに気をつけてはいるものの、それでも少なからず罪悪感はある。また、友人同士だとそこから相手が怒りケンカに発展するケースもあれば、逆に「あの、その際は本当に、本当にごめんなさい……」と大げさに謝られてしまうこともあり、それはそれで恐縮してしまう。

 

 どうしたものだろうか、と思っていたある日、はてなブックマークでこんな投稿が話題になっているのを見つけた。

togetter.com

b.hatena.ne.jp

 

 そうだ、問題点についての指摘も大事だけれど、「店員さんのこの対応がよかった」「このお店の料理はいつも美味しくて嬉しい」など、そういったポジティブな声を伝えることも大切なことだ。

 そもそもひとは、そのお店の料理が美味しかったり、ボリュームがあったり、接客が良かったりするからそこに何度も足を運んでいるのだろうけど、つい「このお店なんだから、いつもそのクオリティなのは当たり前」と思いがちになってしまう。

 そして思い返せば、コロナ禍で、その「当たり前」が当たり前ではないということもたびたび感じてきた。いつの間にか潰れていたり、食材の入手が困難なためかメニューとは一部違う食材に変更されていたり、人手不足なのか少人数の店員さんが慌ただしく働いていたり……そういう場面を目にしたのは、一度や二度ではなかった。

 もちろん、毎日のように本社のお問い合わせフォームに「今日の接客も良かったです」「今日のランチも最高でした」なんてメッセージを送る必要はないと思うが、レビューやSNSには「良かった感想」は定期的に書いていきたい(よく行く店舗をSNSで書くことは、防犯面として少々難しい部分もあるけれども)。

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 クリスマスやバレンタインや父の日、母の日、敬老の日などのように「お世話になっている店や企業に感謝を伝える日」のようなものがあっても良いのではないか、ということもふと思った。そういう日がなくっても、新年にお年賀の挨拶としてそういったメッセージを送ってみてもいいだろうし、自分の誕生日に「これまで自分を支えてくれたものに感謝をする日」という決意をしても良いのではないかと思った。

 この投稿を読んでからは、私は何らかのクレームを送る際も、そのぶん別の店員さんの良かった対応や、その店の良いところを丁寧に書いて、褒めるようにしている。

 特に良い対応をしてもらった場合も、そうでない「いつもどおり」の場合も、それを「当たり前」と思わず、折を見て感謝の声を伝えていきたい。

 

 アドベントカレンダー、明日の担当は高橋かずひろさんです。お楽しみに!

 

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今週のお題「あったか~い」

制服リサイクルポーチは悪いこと? おもしろグッズか、性犯罪か

制服リサイクルのプロダクトが批判を浴びる

 先日、こんなクラウドファンディングが一部で物議を醸していたようだ。

(追記:11/15にプロジェクトは掲載中止となった模様)

www.makuake.com

 

 どういうものかというと。石川県の制服のリユースショップが出している、制服のスカートをリサイクルしたポーチが「痴漢を連想させる」「スカートめくりは性暴力」「性犯罪を肯定するのか」などの視点から批判を受けているようだ。

 

 正確にはクラファンそのものというよりも、クラファンを宣伝した際のツイートが批判を浴びたようだ。(当該ツイートは削除された模様)

 

 これに関して、私の考え方をまとめてみたいと思う。

似た商品を買った思い出

 結論からいうと、私はこのプロダクトそのものについて「良いんじゃないの」という立場である。

 デザインも可愛いし、他にはないデザインで面白いし、エコを意識するきっかけにもなる。個人的にはとても好みの商品だ。

 

 そして、この商品を見て思い出した。

 私自身も昔、「パンツ型のポーチ」を買ったことがある。

 

 買った商品そのものの写真は見当たらなかったが、イメージとしてはこのようなものに近い。

tunic-labo.stores.jp

 このポーチに何を入れていたは忘れたが、「その水玉ポーチ、かわいいね」「実はこれ、パンツの形なの」「何それ〜!」と、話のネタになったことがあるのを覚えている。

 

 このポーチは、紐を引っ張ると上部がすぼんで閉じる形になるため、ポーチが閉まっている状態では一見「パンツ型」とは分からなくなっている。

 そういう商品の特徴もあってか、このポーチの利用と「性犯罪」は私の中で結びつくものではなかった。

 

 今回のリユースショップのプロダクトも、このような商品の延長上にあるように私には思えた。

 

このプロダクトの特徴は

 ただ、上記の「パンツ型ポーチ」と今回批判を浴びたプロダクトでは、異なる点もいくつもあるため、単純に「同じようなものだ」とは言うことはできないだろう。

 

特徴1:実際に児童が着用した素材が使われている

 今回、批判を浴びている点の一つとして大きいのはこの点だろう。単にスカートやパンツを模した商品ではなく、「実際にスカートとして使われていた」ものであるというのが危ういという視点だ。

 この点はもっともだと思うが、子どもが着用した商品を使った製品のリメイクがただちに不適切かというと、そのようなことにはならないだろう。

 個人的には「制服スカートのリメイク製品は、性犯罪を連想させるので作らない」という考え方のほうが(その慎重さもそれはそれで大事とはいえ)「制服スカート=性犯罪なのか……」と残念な気持ちになってしまうかもしれない。

 

特徴2:「めくる」ことがメインの形状となっている

 この点も、今回の批判を浴びた要素としては大きいと思っている。先に紹介したパンツ型ポーチは、使用時はパンツには見えない形状となっているが、このプロダクトは使用時もスカートの形状が保たれている状態となっている。上からものが出し入れできるポーチとしての役割のほか、「スカート風の部分をめくれる」ようになっていることも特徴として大きい。その点は無視できない、という批判はもっともだと思う。

 

スカートをめくるのはどんなとき?

 そもそもの話として「スカートをめくる」ことは、どのような状況で行うことかをもう一度考えてみたい。

 

 自分でめくる場合……「トイレ、排泄」「着替え」「自慰行為」「自傷行為」「性行為」「ケガの手当て」「スカートの広がり具合を楽しむ」「暑い日に扇ぐ」など

 他人にめくられる場合……「性犯罪(いたずらとしてのスカートめくり、強制わいせつ、強制性交等含む)」「性行為」「トイレ、着替えの介助」「ケガの手当て」など

 

 こういった内容も踏まえると、私は必ずしも「スカートをめくる行為=性犯罪を連想」とは言えないのではないかと考えている。

 スカート型ポーチを「自分の分身」として考えてめくる場合と、「他人を模したもの」としてめくる場合では、意味合いが変わってくる部分もあるかもしれない。ひとによってそのあたりの想定シチュエーションが違うことも、このプロダクトが物議を醸した要因の一つなのではないかと思う。

 

 もちろん、合意のない「スカートめくり」が「子どものイタズラ」として矮小化されやすい現状は問題視されるべきだと思う。

 しかし、この商品は子どもをターゲットにした製品というわけでもなく、もちろんアダルトグッズフェティシズム関連製品としての販売でもない。クラファンのページを見ても、制服スカートを「性的対象物」として扱っているようにはほとんど感じられず、そのフラットな感じは私の中で印象が良かった。

「スカートをめくる状況」は色々と想定される中、このプロダクトと「性犯罪を矮小化すること」は、まったく無関係とは言わないが、少し距離があることのように私には思えた。

 

 

 先ほど「性的対象物として扱っているようにはほとんど感じられない」と書いたが、一点だけ気になった箇所があった。

 クラファンページにある、こちらのイラストだ。

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 こちらに関して、「おじさんが女性を侍らせてお酒を楽しむ場所で、女子学生服を使った商品を肴にするなんて」という批判もあるようだが、私はむしろ、「色気や性を売りにしているキャバクラならではの使い方で、良いのではないか」と思った。

 パンツが見えそうなミニスカートを模したポーチは、状況によっては目のやり場に困ることもあるかもしれない。一般企業や友人たちとの交流の場では、このポーチに下手に言及するとセクハラになり得ることもあるだろう。無論、性や色を売りにする場ならどのような性的言動も構わないというわけではないが、イラストに出てくるキャバクラのような場では、性に触れる話題が出たとしても比較的容認されやすいシチュエーションと言えるのではないだろうか。

どういうものが不適切?

 ところで、コンテンツそのものが「犯罪を連想させる」として批判を浴びたものはこれまでもいくつかあった。

 2018年に、ドラマ「幸色のワンルーム」が「実際の誘拐事件を彷彿とさせる」と批判を浴びた件や、2020年に発売されたゲーム「縦笛なめなめVR」が「気持ち悪い。性犯罪を肯定しているのでは」と評された件などが記憶に新しい人もいるだろう。

「幸色のワンルーム」のドラマは放映中止となったが、「縦笛なめなめVR」は販売されているようだ。

 

 個人的にはどちらも放送・発売は基本的には構わないのではと思う立場だが、テレビドラマに関しては、見たくない人がうっかり見てしまうことも想定されるので、放映中止が「やりすぎ」だとも思わない。ゲームに関しては、適切なレーティングなり「ゲーム内のキャラは合意の上でやっている」という設定があるのならば、そのゲームをやりたい人がお金を払って遊ぶものであれば別に構わないのではないかと考えている。

 

 今回のスカートのポーチに関しても、「欲しい人がお金を払って買うもの」であり、「かわいく、おもしろく、エコ」であることを売りにしていて、フェティシズムを満たす目的の人向けに売っているわけではない、という点は大きいのではないだろうか。

 

ブルセラ的な購入者をどう防ぐか

 この商品に関しては、ブルセラショップのような、性的フェティシズムを満たすために購入する人に対して危惧する意見も見受けられた。

 

 少し調べた限りだと、この商品を作っている実店舗では、「そういった趣味の人には売らないようにしている」ようだ。

blog.recle.boy.jp

「そうはいっても、完全には防ぎきれないのでは?」「店主の人の勘にすぎないのでは?」といった意見もあったが、もちろん100%防ぐということはできないかもしれない。そもそも、制服を必要とする保護者や生徒自身が、購入した学生服を使って性的欲求を満たすことだって想定される。ここでキモなのはブルセラショップ目的で来るお客様には、売らないようにしています」という姿勢を見せること自体なのではないだろうか。

 

「なぜ制服の販売では徹底するのに、このポーチは普通に売ってしまうのか」という意見もあったが、これはおそらく「加工された商品は、『そういう趣味の人』からは需要が低いこと」「まだ着れる制服が『趣味の人』にまわってしまい学生に行き渡らなくなるのは問題だが、バッグやポーチに加工する制服はそもそも傷んでいるので、売る相手を制限する必要がないこと」などの理由があるのではないだろうか。

 いずれにせよ、商業活動の自由の範疇と言えるのではないかと思う。

 

ここに改善の余地がある

 とはいえ、この商品を発表するにあたり、届けたい人に届けるためにはもう少し工夫の余地はあったのではないかと私は考えている。

 

1.ネーミングが良くなかった

 この制服スカートポーチは「めくりん」という商品名のようだ。この店ではほかにも、セーラー服をリメイクした「せえらん」、学ランをリメイクした「がくらん」が売られている。

 それらと響きを揃えるために、スカート型ポーチは「めくりん」にしたのだと思うが、「スカートめくり」を連想させてしまう名称にしたのは良くなかったと思う。ミニスカートだから「ミニりん」とか、裾がひらひらなびくのでひらりんとか、そのような名称だったらまた印象も違っていたのではないかと思う。

 

2.ツイートが良くなかった

 すでにツイートは消されてしまっているようではあるが、「めくって遊んでみて」というアピールも上記と同様の理由で、良くなかったと思う。もちろん、親しい関係の相手のスカートをめくってじゃれ合うシチュエーションもあり得るが、「スカートめくり」という「犯罪」が「遊び」と矮小化されることが問題視されている中では、「スカートをめくること」と「遊び」が繋げられているツイートに不愉快な思いをする人も多かったと思う。「裏側はフルーツ柄になってます」などの、商品の内容紹介に留めておいたほうが良かったのではないだろうか。

 

結論

 私の結論としては、「プロダクトとしては面白いと思うので、売り方にもう少し配慮したほうが良かったのでは」ということに尽きる。

 そして、どのようなものを愉快に思い、どのようなものを不快に思うかは人それぞれなので「性加害を連想させ得るものは、販売を止めるべき」ではなく「どのような売り方やアピールをすれば、より適切に商品を届けられるか」の方向から考えていけるようでありたいな、と今回の騒動を通じて思った。

 

 

 ……それにしても、自分が開発やプロモーションに関わった製品というわけでもなく、批判を読んでから後出しジャンケンで「ああすればよかった、こうすればよかった」という記事を書くことにはどこか居心地の悪さもある。「偉そう」にならない立場からできることも自分なりに模索したい。

「ルール?展」に行ってきた

「ルール?展」、面白そう!

 10月30日(土)、友人たちと「ルール?」展に行ってきました。

www.2121designsight.jp

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 この企画展、何をきっかけに知ったのかは忘れてしまいましたが、
「ルール」と向き合うことがテーマになっている、ということ、
 田中功起さんや遠藤麻衣さんなど、気になっていた作家さんが参加されているということ、
 そしてディレクターとして、映像作家で研究者の菅俊一さんが携わっていらっしゃるということで興味を持ちました。

 

 菅さんの著書『観察の練習』、以前このブログでも紹介したこともありますが、お気に入りの一冊です。

観察の練習

www.wuzuki.com

 

 結論から言うと、この「ルール?」展、とても面白かったです!

 ただ、閉館1時間前の17時に入館したため、じっくり鑑賞できなかった作品がいくつもあったのが少し心残り。

 現在、新型コロナウイルス対策として予約制になっていますが、じっくり観たい人は17時よりも前の時間に予約することをオススメします。(公式サイトから予約できます)

パンフレットも充実の内容!

 入館して配られるパンフレット、これがまず面白かったです。

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 すでに入館シールとスタンプを押してしまっているので分かりづらいですが、入館時にもらう時点ではこれらは押されていません。標識を模したスタンプがいくつも置いてあるので、その中からスタンプを選んで押すことになります。

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 押したあと、一緒にきたメンバーで「押したスタンプ、どんなのだった?」と盛り上がりました。

 

 そしてこのパンフレット、中身も充実。この展覧会の「参考文献」的な感じになってます。いろいろなグラフやデータが出ていて、これだけでも読み応えありそうなくらい。(ただ、展示そのものはこのパンフレットを開かなくても十分楽しめるというか、開くほどじっくり鑑賞する余裕はありませんでした……)

 

写真あれこれ

 館内の展示の撮影は、原則として自由でした。(動画は一部で禁止されていました)

 今回来れなかった友人もいたので、彼に見せるための写真をみんなで手分けして(?)撮影したりも。

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こんなものも作品になってた

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 この展示への「意見募集」の内容も作品のひとつになっていました。

 会期が長い展覧会ならではの企画ですね。

 

 個人的にまず面白いなと思ったのは、この「意見募集」の張り紙の文字がわざわざ手書きで書かれていたこと、そして、寄せられた「意見」のほうがパソコンの文字で書かれていたということ。

 これにはどういう意図があるのだろうか……と考えてみました。

 既存のご意見箱的を「反転」させたものとしたかったのかもしれないな、と思いました。

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 そして、Twitterで少し話題になっていた、こちらの投稿の実物も観てきました。

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 そのほか、私にとって印象的だったものや、もっと観てみたかったものなどいくつか紹介したいと思います。

 

NPO法人スウィング「京都人力案内『アナタの行き先、教えます。』」

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 この二人は、京都の市バス路線を丸暗記し、観光客や困っている人たちに自主的に案内を行っているとのこと。

 対価を要求しないこの交通案内は、ボランティアとも仕事とも言い難く、客引き行為とも異なる、さまざまなルールの合間を縫って成立している……とのことで、とても「ルール」を感じさせられました。

 そして、大学時代に京都に住んでいた私にとっては、あのバス路線のわかりづらさはすごく「わかる……!」と思えるものだったので、そこに懐かしさと共感を覚えました。

 

石川将也+nomena+中路景暁「四角が行く」「ルールが見えない四角が行く」

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 撮った写真がブレていたのでこれしかなかった……。

 

 どんな展示かといいますと、四角いオブジェが、流れてくるトンネルの形に合わせてズレていき、形を変えていくというもの。わかりづらい説明でスミマセン。

 これは「ルールに従う人々」を模したもののようです。

 当初は、少し地味な展示だと思ってなんとなくスルーしてしまったのですが、じっくり観てみると批評としても面白かったのと、ロボットというかコンピュータというか、この、オブジェがパタンパタンと動いて形を変えていく動きの仕組みも興味深いと思い、見入ってしまいました。なんだか、数学の展開図の問題を思い出します(?)。

 

Whatever Inc.「D.E.A.D. Digital Employment After Death」

 死者の再現や死者のプライバシーなど「死後のルールメイキング」についての展示です。こういう生命倫理に関する話題には割と関心があるので、見入ってしまいました。

 娘を幼くして亡くした母親が、VRで娘さんと再会した映像とかは泣けた。

 

 映像の横には、死後の権利の表明書の記入ブースみたいなものもありました。混んでいたのでどんな感じだったかは見れなかった。

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遠藤麻衣「アイ・アム・ノット・フェミニスト

 これ、写真撮りそびれてしまったのでパンフレットを引用します。

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 こういう、オルタナティブな「結婚」とか、家族制度を見直すような動きって興味あるんですよね。

 2018年に開催した(私も運営のお手伝いしていた)「かぞくって、なんだろう?展」を思い出しました。

kazokuten.wordpress.com

 

一般社団法人コード・フォー・ジャパン「のびしろ、おもしろっ。シビックテック」

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 これもササッと観てしまったので悔やまれます。Code for Japanの活動に関わっている友人は何人もいるので、もっときちんと鑑賞すればよかった……。

 

一番良かったのは、これ!

ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル) 田中みゆき 小林恵吾(NoRA)×植村 遥 萩原俊矢×N sketch Inc.「あなたでなければ、誰が?」

 

 これ、ものすごく好みでした。

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 これは来場者参加型の企画です。私が来たときには残念ながら定員に達してしまっていたものの、観覧はできるようだったので、何気なく覗いてみたらとても惹き込まれました。

 

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 どういう企画かというと。この場に集められた来場者が、スクリーンに表示される質問について「はい」なら右に、「いいえ」なら左に移動する、というカタチで回答していく……というもの。

 

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 Yes,Noだけでなく、複数選択肢があるようなものもありました。

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 そして終盤では、少しセンシティブな質問も。

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 照明を落として暗くして、回答方法も先程までのものとは異なるカタチをとり、どう答えたか他の人からは分かりにくいように配慮されていたのもドキドキしました。

 

 これ、「ルール」そのものとは直接関わりのない展示のように思えましたが、パンフレットなども読んでみたところによると、ルールを決める方法としての「民主主義」を問い直すことを目的とした企画のようでした。

 

さらに、こんなものも作品になってた

 時間もなくなってきたので、会場を出てミュージアムショップに向かいます。

 結局何も買わなかったものの、レジのこれには目が留まりました。

 

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 まさかの、レジにも展示作品風のキャプションがつけられているとは……w

 

みんなの感想、私の感想

 一緒に行った友人たちの感想を聞いてみたところ、

「予約制だった割に人が多く入っていて驚いた」

「若い人やカップルが多いのが意外だった。
 こういう現代アートって、好きな人は結構限られてると思ってた」

「『ルールを破壊して自由になる』みたいなカウンターカルチャー的な展示ではなく、『より良いルールのために議論しよう』といった感じだった」

「『資本主義ぶっ潰せ』系の展示もあり、ごちゃまぜな感じだと思った。
 対話&熟議アナーキールールの可視化&メタ化、の3種類があったという感じ」

「抽象度が高い展示が多くて、見る人を選ぶのではと思った」

などが挙げられていました。

 

 私の感想としては、みんなとは割と大きく違っていて、

・予約制なだけあり、人数はちょうどいい感じに絞られていて良かった

・客層としては、(やや失礼な表現になるのを承知でいうと、)
「作品のそばで考察を繰り広げているような人たちよりも、いかにもミーハーな感じの人が多いなぁ」という印象。概ね予想通りの雰囲気

・六本木の森美術館にも言えるけど、そういうミーハーな若者への訴求を狙ったような美術展、このへん多いよね……(私そういうの萎えるんだよなぁ)

・思ったよりボリュームが多く、じっくり鑑賞できなかったのが心残り

・たしかに抽象度の高い展示も多いけれど、パンフレットが思考の補助線として使えるので、あまり「人を選ぶ展示」という感じはしなかった

・むしろ、美術ガチ勢もミーハーな初心者も楽しめる、万人におすすめできる展覧会という印象

 

といったところです。

 

 ちなみに、ほかの友人の感想のnoteはこんな感じでした。

note.com

 

 11月28日(日)までやっている展示なので、興味を持った方はぜひ、予約して観に行ってみてくださいね。

眠れない夜にすることは

 物心ついたときには寝付きが悪かったように思う。子どもの頃からあちこちに住んでいたけれど、どの地域でも「なかなか眠れなかった夜」の記憶は多い。妹たちはスヤスヤ寝ている横で、寝付けず悶々とする夜は多かった。

 一方で、早寝早起きするのが好きだった時期も数年間だけ存在した。小6後半〜中2の途中(長崎時代)は、20時など早い時間に寝て、午前2時〜5時頃から起き、パソコンを開いたり読書をしたりすることもあった。(その時期、寝る前にヨーグルトやゼリーを冷凍庫にこっそり入れて凍らせ、シャリシャリしたヨーグルトやゼリーを朝に食べる、という謎の自分だけの習慣があった)

 

 中学後半以降から現在にかけては、どちらかというと遅寝遅起きになってしまい、成人してからはときどき「夜、眠れない」ことも起こるようになってしまった。

 

 睡眠外来を訪れたり、活動量計スマホアプリで睡眠の質を調べてみたこともあった。あるいは、起きたい時間になったらカーテンが自動で開いたり電気がつくように部屋をIoT化してみたこともあった。イヤホン型の光療法器を使ってみたこともあった。友人たちと朝活をしてみた時期もあった。どれもそこそこは効果はあったものの、体質改善の決め手にはならなかった。(いくつかは今でも愛用しているけれど)

 

 導眠剤を飲むと、逆に効きすぎてしまいお昼まで寝てしまうこともあるので、滅多なことでは使わないようにしている。

 なにか薬を飲む際も、副作用に「眠気」が含まれるものは基本的に避け、それよりは「吐き気」が出るようなもののほうを積極的に服用している。

 

 ……ただ、体質の改善はできなくても、生活習慣はきっかけさえひとつあれば割と単純に改善ができた。ひとり暮らしを止めて家族と暮らすようになったことでメリハリもつき、転職をして「遅れると、お客様に迷惑がかかる」というプレッシャーを強制的に与えたことで、比較的容易に改善できた。

 外回り営業をしていた頃、朝から訪問する案件があった場合は、近くで食べたいモーニングの店をあらかじめ調べておき、訪問案件の1時間には付近に到着するように移動し訪問前にモーニングを楽しんでいた……という時期もあった。この企業は割とブラック企業ではあったものの、外回り自体はそれほど嫌でもなかった。

 

 早起きではなく「寝る」ことのほうに話を戻そう。

「寝る前にスマホを見ないようにする」というのは定番の睡眠改善方法とされるけれど、私はそれはもう諦めた。ただ、寝る前に「紙の本を読むこと」はなるべく増やすようにしている。

 電子書籍ではなく紙で買う本は、専門書や学術書、あるいは詩集や短歌集などが多い。まぁ、へたに詩集など読んでしまうと、じぶんも創作欲というか内面を言葉で表したい欲求が高まってしまい、深夜にスマホでメモアプリを開きああでもない、こうでもない、と推敲を始めてしまうので、これはこれで諸刃の剣ではあるんだけれども。

 

 そういえば、電子書籍を使っていなかった大学時代は、「寝る前に、短編集を一編ずつ読んでいく」ということをときどきやっていたような気がする。村上龍空港にて』とか、アンソロジーの『みじかい眠りにつく前に』とか読んでいたな。ただ、短編集だと「1編読み終えるまでは寝ないぞ」と逆に意気込んでしまったり、後味が悪い作品で寝るのが辛くなったり……などもあったので、やがてそれはしなくなった。むしろ、あまり「ここまで読むべき」のような区切りがはっきりしない専門書や短歌集などのほうが気軽に読んで、気軽に読むのを止めて眠れるようになった。

 

 また、最近はいくつかのサプリを買ってみたところ、それも睡眠の質の改善に役立っているような気がしている。

 いま効果を感じられるものが、これからもずっと効いてくれるとは限らない。それでもいろいろなものを試しながら、少しずつでも変わっていきたい。少しずつ、心地よい眠りに近づけますように。

osakadou.cool

※服用は自己責任でお願いします。

 

 

今週のお題「眠れないときにすること」

この本がすごい! 2021年上半期 ノンフィクション編

 冬から春、そして初夏にかけてはそれぞれ新しい分野のものをいろいろ学び始めたということもあり、本の購入量は激増しました。

 今期は、小説や漫画や詩集などのフィクションよりも、ビジネス書や実用書や学術書やドキュメンタリーなどの、広義の「ノンフィクション寄り」のほうをたくさん読んでいたということもあり、順位付けにちょっと苦戦しました。

 

 前回の記事からはすこしあいてしまいましたが、「ノンフィクション編」も発表していきたいと思います!

15位 無理しない働き方

 じぶんの働き方や生き方について見直したいと思っていた矢先に書店で見つけ、コンセプトが気になっていたので購入。

 仕事の職種について「営業系」「事務系」「作業系」の3種類に分けて説明しているのが特に良いと思いました。それぞれに想定される働きづらさや上司への伝え方など丁寧に書かれており、発達障害ではなくても、働きづらさを抱える人にとって参考になりそうだと感じました。

14位 誰かに教えたくなる道路のはなし

 電子書籍セールで気になり購入した1冊。車は運転しないので、道路をそんなに意識したことはありませんでしたが、元転勤族で地理学専攻出身者としてはそれでも充分楽しめました。道路の素材などの技術的な話から文化や歴史の話まで網羅されており、ひととの話のネタになりそうな内容もたくさん。

 長野県の生まれで塩尻にも何回か訪れていた私としては、塩のエピソードが特に印象的。また、樹木にも興味があるので、並木のくだりも面白く読めました。海ほたるや熊野古道にも行ってみたい気持ちが高まります。

 この本を読了したのは今年の1月でしたが、私はこの夏から土木関係の仕事に関わっているので、道路工事や地下の共同溝についてのくだりも、今読み返してみるととても興味深いです。解像度が上がった状態で読み返すと、気になる点も変わってきますね。

13位 サクッとわかる ビジネス教養 行動経済学

 書店で見かけ、立ち読みしたら面白かったので購入。カラーイラストたっぷりでとてもスラスラ読めます。

 コロナ禍の今、感染症対策やワクチン接種などに関してもさまざまな情報が飛び交い、みなさんそれぞれの判断をして生活しているかと思いますが「人間の心理として起こりがちなこと」を知るのは、マーケティングなどだけでなく、情報リテラシーを高める上でも参考になるのではないかと思います。

 分かりやすい内容の本なので、小学生以上のお子さんでも読みやすいかも。

12位 オトナ女子の気くばり帳

「コミュニケーション力を高めたい」と思っていた矢先、書店で見つけて良さそうだったので買った本。ちょっとした言葉遣いから手みやげのワンポイントまで扱われていて、なかなか役立ちそうな1冊。

「これができないとマイナス」ではなく、あくまでも「これができるとプラス」という視点からの内容が多く、押し付けがましさもないため、いわゆる「マナー本」とは違った良さを感じました。

 Amazonの上位レビューにもありましたが、発達障害などでコミュニケーションが上手く取れない人にとっても使いやすい本だと思います。コミュニケーション・プロトコルを見直す上で役立ちそう。『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』などの本と併せて読んでみてもいいかもしれません。

11位 風俗起業マニュアル

  昨年末から、男性向けマッサージ店の受付スタッフとして働き始めた私。非風俗店ではあるものの、色っぽさを売りにしているお店という点では同じなのでとても面白く読めました。女の子との面接のくだりや店舗運営については私が働くお店とも通じる部分があるので「やっぱりそうか」と思ったところも。

 男性読者を想定していると思われる記述が多いものの、この著者が経営するチェーンでは女性オーナーの店もあるようです。ぽちゃデリならではの、女の子の自己肯定感についての記述もあったのも良かった。

 一方で、女の子の叱り方についてはうーん……と思ってしまったり。コミュニケーションやマネジメントには正解はないし、なかなか難しいなぁ……と感じたりもしました。

 キャストのセカンドキャリア支援を行うNPOの著者が書いた『風俗嬢の見えない孤立』という本では、性風俗業は「セーフティネットとは呼べない」と書かれていたものの、こちらでは「セーフティネットになりうる」という主張がなされていたのも印象的です。

10位 世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方

  改めて、じぶんの「やりたいこと」について考え直したいと思っていた矢先に書店で見つけて購入。この著者のことは数年前に「ブロガー」として認知していたので、こういった「自己理解」の本を出していることは少々意外にも思えました。

 前書きに、アルバイトをすぐ辞めた経験や、ブロガーとして人気になってから「お金を生み出すマシーンとしてキーボードを叩いているのは辛かった」「軽度の鬱状態になっていた」といったエピソードも書かれており、「そうだったのか……」と感じたところも。

 自分自身について掘り下げていくワークがたくさん詰まった一冊で、やり通すとなるとすこし体力がいるかも。でも、なかなか楽しい作業ではありました。

 

「野球が好き」だからといって、スポーツ用品店の販売員の仕事が合うとは限らない。「野球の能力を磨くことが好き」なのか「戦略を考えることが好き」なのか「チームプレイが好き」なのかによっても変わってくる。「好きな分野」だけでなく「どんなところが楽しいのか」もセットで考えてみることも大切、というくだりが個人的にはいちばん印象に残りました。私自身も、歌が好きだからといってカラオケ店のアルバイトをしたときはしんどかったものなぁ……。

 

 ところで私は、今年の3〜5月にはキャリア相談員養成の職業訓練校に通っていて、個人的にも、友人が主催する「やりたいことを見つけるためのワークショップ」などにも参加したのですが、こういった自己分析や職業分析に関するワークをいろいろやってみると、一定の法則が少しずつ見えてくるような気もします。

9位 10代から知っておきたい あなたを閉じ込める「ずるい」言葉 

  正直、ここまで「期待外れ」だった本は珍しいかもしれない。そんなふうに思ってしまった一冊でした。

 周囲の評判がとても良く、著者を招いた読書会も開催されることになり、しかも著者は社会学者としてLGBT関連の本を出しているだけでなく合唱曲の作曲家でもある(どうりで名前を聞いたことがあるわけだ)なんて憧れる経歴の方だなぁ……と思っていたものの、いざ本を読んでみたら、少なくともこの本に関しては私には「合わない」と感じました。

 内容がおかしいということではないです。むしろ、「正しすぎる」ことが受け付けられなかった、と感じました。

 ただ、だからといって「読む価値のない本」だとは思っていないです。むしろ、この本を読んだ友人知人がどういう感想を持つかはとても気になります。とても意見が分かれそうな本なので、この本をきっかけにいろいろ意見交換をしてみたい感じはします。

 

 なんていうかなぁ。この本、書かれていることはとても「もっとも」ではあるけれど、ただ「正しい」だけで、現実での落としどころを考える上では役に立たないというか、もう一歩踏み込んでほしい、と思ってしまったんですよね。そういう感想を持ってしまったのは、コミュニケーションについての本を同時期に読んでいたことの影響もあるかもしれません。

 10代向けには、教育面での理想としてはこれでいいとも思うけれど、これを大人が読むのはなかなかキツい……というのが正直な気持ちです。

 たとえば私は、当人不在の場での発言と当人に直接向けられる言葉ではその是非にはグラデーションがあるべきと思う立場なんですが(陰口と、直接相手に悪口を言うことの違い)、その違いも考慮されず「正しさ」ばかり出ていたのも違和感がありました。

 

 この本に出てくる「ずるい言葉」の中には、自分が言われたことのあるものもあったりしますが、じゃあこの本で「ずるい言葉だ」という指摘を読んだところで溜飲が下がるかというとそんなことはなく、他者の過去の言動を現在の立場から批判するのもずるいな……という気持ちに私はなってしまいました。そういう意味でも感情の持って行き場に困る本でもありました。ただ、この本で救われるひとは救われるのかもしれません。

8位 愛と家族を探して

 「家族と性愛」を軸に活動する文筆家・佐々木ののかさんの著書。去年発売されてすぐに買っていたものの、連載を中心にまとめた本ということですでに読んでいた内容も多く通読はしていませんでした。

 今年2月、この本を読書会で扱うことが決まった際に、最初からじっくり読みました。

 

 この本は、契約結婚精子バンク、共同保育、児童養護施設などさまざまなカタチの「家族」を取材した本。著者の佐々木さんの「家族、性愛」についての考え方の揺らぎも垣間見れ、とても濃厚な読書体験ができます。刺激と癒やしを感じる一冊でした。

「こういうカタチがあっていいんだ」「この気持ち、私にもあるかもしれない」「なるほど、こういう考え方をする人もいるんだね」と自分自身の中でもさまざまな感情が湧いてきて、世界の広さや自分の度量などいろいろなものを見せつけられてしまう一冊、という側面もあるかもしれません。

 

 特に印象的だったのは、女性ペアで家族として暮らしている人たちの「一緒に暮らす際のルール」について。

「気づいたことがあっても、一日一個までにする」「何かを指摘するときは、心理状態は大丈夫かのワンクッションをとってから伝えるようにしている」というのは、いいなと思いました。そうすると、相手に言いすぎてしまったり、「言ったのに変えてくれない!」という不満も抱きにくいから……だそうです。

 このように「異なるバックボーンを持つ相手と暮らす際のコミュニケーション」という面からも、興味深く読めるところもありました。

7位 10%HAPPIER 

  ひとから貸してもらった本。じぶんの内面の掘り下げ方や自己分析などについて関心が高まっていたタイミングで読みました。

 アメリカでキャスターとして活躍していた著者がうつ病になってしまい、試行錯誤の末に「マインドフルネス(瞑想)」と出会い変わっていく姿を描いたノンフィクション。

「瞑想は脳のエクササイズ。暴走する思考を制御するためのもの」というくだりが特に印象に残りました。

 普段は翻訳された本は(訳が馴染まないと感じることが多いので)あまり読まないんですが、この本はエッセイとしてとても読みやすかったです。

 特に、著者が瞑想に入るシーンは改行も多く、心理描写多めの小説を読んでいるかのような趣きがありました。

 

 この本の(日本語訳の)副題は、”人気ニュースキャスターが 「頭の中のおしゃべり」を黙らせる方法を求めて 精神世界を探求する物語”

まさに、著者の成長物語としても面白い一冊であり、「頭の中のおしゃべり」に悩まされているひとに、考え方のヒントを教えてくれる一冊でもありました。

6位 在宅ひとり死のススメ

「老後のことなんて、30代の私にはまだまだ縁遠いなぁ。でも、読書会の課題図書になったし読んでみるか」と思って手に取ったら、思いのほか面白かったです。

「自己決定権」についてや、「介護サービス業従事者も、教員と同じように公務員採用すべきでは」という視点には納得。辛口だけど随所で笑えるような描写も多く、楽しく読めました。

 読書会では「そもそもお金がなければこの死に方はできないのでは?」という意見もありましたが、お金の専門家の方からすると、お金の問題ではなく人手不足のために、若い世代がこの本で出てくる「死に方」を実現するのは難しいとのこと……。(上野さんの年齢ならギリギリ大丈夫みたいです)

 そういった、「未来」を意識させられる本でもありました。

5位 縁のつかみ方

 コロナ禍で占いにも興味を持った私。ゲッターズ飯田さんの考え方は割と好きなので著書も読んでみました。

 この本は、占い師の人が書いた本といってもスピリチュアルな内容ではなく、人との縁の紡ぎ方、コミュニケーションに関する本でした

 カラーページも多く贅沢さもあり、薄めの本なのでさらりと読めるけれど内容は奥深い。ほどよく抽象的なぶん、ここに書かれている考え方はさまざまなことに応用が効きそう、という印象を持ちました。

 芸能界でも活躍する著者ならではの「生き残り方」のエピソードも興味深く読めました。愛されることやコミュニケーションが仕事と直結する人の言葉は重みが違うな、と感じます。

 占いに頼りたくなるときって、対人関係がうまくいっていないときが多いと思うので、そういう意味でも、この本のターゲティングは上手いと思いました。

4位 整える習慣

 書店で見かけ、この本の発売記念のトークイベントがあること、そしてそのインタビュアーは私の友人、ということで気になり購入しました。ちょうど、職業訓練校でメンタルヘルスについても学んでいたところだったので、その点からも参考になるところが多くありました。

 レジリエンス、コーピング、ライフハックの本として良かったです。著者個人の経験談が多いとはいえ、医師が書いたものということもあり説得力も感じます。

「1日を逆算して食事をすること」や「内容で区切る仕事、時間で区切る仕事」という考え方、怒りとの向き合い方、糖質制限ダイエットの悪影響のくだりが特に良かったです。

 中には「これ、習慣についての話じゃないな」というものもありましたが(笑)、全部取り入れなくても、念頭に置いておくだけでも生活は変わりそうだな、と思えることがたくさん書いてありました。文庫本でとても読みやすかったです。

3位 疲れない大百科

 地元で医療系の仕事をしている女友達が、Facebookでシェアしていたのを見てこの本を知りました。イラストがとにかく可愛い。女性向けの本のようですが、著者は男性ですし、内容も男女問わず実践できるものばかり。

 この本は「疲れない生活」について、「眠り方」「食べ方」「生活習慣」「働き方」「ストレス」の5つの観点からのライフハックをまとめた本。絵柄も可愛いし、こういうライフハック本って好きなんだです。特に「食べ方」については知らない内容も多かったので勉強になりました。いくつか実践してみてます。また、漢方やハーブについても言及があり、それらについてももっと詳しく知ってみたくなりました。

 

 同じシリーズで、新型コロナウイルスやおうち時間、マスク生活を意識した内容の『かからない大百科』という本もありましたが、こちらはやや内容が薄めかも。

2位 老後レス社会

 読書会の課題図書になったので読んでみました。正直、30代の私にとっては当初はやや興味の薄いテーマだな……と当初は思ったものの、「キャリアや生き方を考えること」という点ではとても私好みの内容でした。

 さまざまな高齢者の生き方や不安が垣間見れ、群像劇のような面白さもありました。

 

「高齢警備員」は、似たような人を近所で見かけるので親近感があるし、「妖精さん」はかつての私のことだ……と思った部分も。

 福島や新潟など、地方に移住した人の話も載っていました。知ってる場所の近くのエピソードが出てきたので興味を引いた部分もありました。

働き方改革ではなく生き方改革を」という意見にも納得。

1位 マイノリティデザイン

「マイノリティ」にも「デザイン」にも興味があるので、書店で見かけたときから気になっていました。友人がSNSで絶賛していたので興味を持ち、読んでみました。

 

 私も著者と同じく広告業界にいたことがあるので、懐かしさと羨ましさを抱えながら読みました。

 この本、どのように読めばいいかなかなかつかめない部分もあり、そういう意味では読むのに時間がかかった部分もありました。

 まず、著者について「異国の地で育ち、運動音痴で、結婚後に生まれた子どもも障害者。生きづらさを抱えた人生」という捉え方もできるし、「幼少期から海外経験豊富で、音楽や漫画でプロになり、大手広告代理店に就職後は次々と大きな仕事を手掛けていく、リア充なイケてる人生」としても読め、どういう感情を抱けばいいのか分からないような感覚を味わいました。

 そんな「才能豊かで海外経験も豊富な、華やかなイケてる広告マン」にも思えてしまう著者には嫉妬してしまいそうにもなりますが、彼はその才能を余すことなく社会へ還元しており、そこは素直に「素敵だ」と思えました。

 

 障害やマイノリティの本、というより広告業界」の本としてとても面白く、終盤は泣きながら読みました。言葉選びもさすがプロという上手さ。できることなら新卒だったときの私に読ませたい、そんな一冊でした。


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