これからも君と話をしよう

一度はここから離れたけれど、やっぱりいろんな話がしたい。

『ここは退屈迎えにきて』感想

「私が名古屋で暮らすことになったのは、この本の内容がより沁みるように、という神様あるいはなんらかの引力によるある種の配慮だったのかも知れない。そう思わざるを得なかったほど「適切な時期に適切な場所で読めた」一冊。

 2年半ほど前のことだっただろうか。村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだあと、私は読書メーターにこんな感想を書いた。 

 名古屋に住んでいたとき、友人たちと隔月で読書会を行っていた。この本はたしか、2014年7月の回の課題図書だった。そのとき私は名古屋に来てちょうど1年が経ったところで、この作品内で描かれている「名古屋」のことを、とても「よくわかった」状態で読むことができた。(それはあまり肯定的な感情ではなかったが)

 そのときと近い気持ちになった作品に、最近また出会うことができた。山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』だ。

 この本のことを知ったのはけっこう前だ。調べてみたら2012年だった。Twitterで、知的でチャーミングな年下の女性がこの本のことを紹介していたのだ。
 地方都市に住む女の子たちのため息と希望を描いた連作短編集、ということで、転勤族育ちで連作短編集が好きな私はとても興味を持った。(あと、著者がR-18文学賞受賞者ということも気になった)
 それから図書館で借りてみたこともあったものの、読むのがしんどそうな気がしてしまい、読めないまま返却する、ということを繰り返していた。(小説は読むのに気分を選ぶし、感情移入するので読むのにエネルギーがいる)

 今年になってから、電子書籍のセールでこの本を購入した。
 電子書籍とこの本の相性は良かったのかもしれない。(内容的にも、ケータイ小説の上位互換っぽさを感じるし)電子書籍では、読み始めてから数日で読み終えてしまった。

 内容としてはとても面白かった。今の私が読めてよかった、と思うことができた。ただ、それは因果が逆かもしれない。もっとまえの時期に読んでいたほうが「今の時期に読めて良かった」という気持ちはさらに強かっただろう。発売された2012年に読んでおいたほうが、当事者性をもっと強く感じることができたかも……と、その点だけを少し後悔した。
『多崎つくる』が、名古屋に住むことになった私にとって「よくわかる」作品だったように、『ここは退屈』は、思春期の頃に地方暮らしをしていた私には、とても「よくわかる」世界観の作品だった。

 私がときどき参加している朝活「ええやん!朝活」では、1月に開催された読書会のテーマは「ふるさと」だった。私は1月の会には参加しなかったが、もし参加したとしたらこの本を紹介しただろうな、と思った。


 また、脇役がひとつの本を貫いて出てくる連作短編、という点は、朝井リョウ桐島、部活やめるってよ』っぽさを感じたりもした。登場人物たちの年齢はさまざまだけど、この『ここは退屈』も、ある種の「スクールカーストもの」と言えるのではないだろうか。
 そして、『桐島』とか『少女は卒業しない』などの朝井リョウにも言えるけど、このテの作品を読むと、著者の中高生時代のスクールカーストがどのあたりだったかが気になってしまう。著者の出身地も気にしてしまう。

『ここは退屈』の話に戻ろう。この本には8つの作品が収録されている。もっとも印象的だったのは、3話目の「地方都市のタラ・リピンスキー」。理想の自分とのギャップに悩み、地元でゲーセン通いをして過ごす25歳の大学院生・ゆうこが主人公。終盤は「そういうことだったのか!」と衝撃を受けた。

 また、この本はだんだん主人公の女性の年齢が若くなっていくが、終盤の2作の「ローファー娘は体なんか売らない」「十六歳はセックスの齢(とし)」はとてもとても、ヒリヒリするくらい共感できた。「十五で喪失だとヤンキーみたい。十七歳だと狙ってる感じ。それより後だと遅すぎる。だから十六歳がちょうどいい」という、理想的な処女喪失年齢についての会話のくだりとか。ああ、これはたしかに「R-18文学賞受賞者」による作品だなぁ……という感慨すら覚えた。

 

スポンサーリンク

 

 

 雑誌「美人百花」3月号で読んだインタビューによると、著者は富山県の出身で、地元を思い浮かべながらこの本を書いたという。個人的にはこの本は、ケータイ小説が好きだった人や、地元だとやりたいことができずに上京した人におすすめしたい一冊だ。

 また、私は気に入った本についてはほかの人のレビューも割と読むことがあるが、この本に関しては、知らない人のレビューよりも、身近な、知ってる人の感想を聞いてみたい、と思った。

 

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)

 

 

 

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)
 

 

 

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

 

 

 

少女は卒業しない (集英社文庫)

少女は卒業しない (集英社文庫)

 

 

 

美人百花(びじんひゃっか) 2017年 03 月号 [雑誌]

美人百花(びじんひゃっか) 2017年 03 月号 [雑誌]